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第5話

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この世界で言う魔術師というのは生まれつき魔力という特殊な力を持った者達のことだ。魔力は形のない力とされ、魔術師の腕次第で様々な力に変換、活用することが出来る。奇病を魔力によって治療するというのもまた、この世界では当たり前のことだった。
魔術国家マロームからやってきた魔術師はハルガンと名乗った。奇病や難病を治療することに特化した優秀な魔術師で、知識の塔と呼ばれる世界最高峰の研究施設からやってきたらしい。
伯爵夫妻立ち会いの元、ルシアはハルガンに診てもらうことになった。
「ではお嬢様、体についた模様のひとつを見せてもらえますか?」
そう促されて、ルシアはハルガンに模様を見せると、ハルガンは目の色を変えた。
「こ、これはっ!」
「どうなさいましたか?」
様子のおかしいハルガンに伯爵が声をかけると、ハルガンは何か恐ろしいものを目にしたような顔をして、伯爵に告げた。
「伯爵様、これは呪いでございます。」
「の、呪い!?本当に呪いなのか!?」
ハルガンの言葉に伯爵夫妻とルシアは動揺を隠せない。何故ならこの世界の呪いというのは人を不幸にするものだと信じられているからだ。
「間違いございません。」
「我が娘に一体誰がっ!」
伯爵が憤りを隠さず言えば、ハルガンは首を横に振った。
「それは、私ではわかりません。ですが、とても強力な古代の呪いということは私でも分かります。」
古代、そう聞いてルシアの脳裏に浮かぶのはあの美しい人だった。
「お嬢様、もしやお心当たりがおありですか?」
ハルガンにそう問われてルシアは、森で出会った美しい人の話をした。それを聞いて、ハルガンは怪訝そうな顔をした。
「それは、変ですね。300年前、大陸内の複数の国家間で争いが起きた時、当時の知識の塔の長が呪術に関する全て研究資料を破棄しておしまいになりました。今では魔術師の中に呪術を扱える者はいないはず。」
「しかし、その人はロンディネ伯爵家を恨んでいるようでした。呪いというのは恨みや憎しみを抱く者がかけるものなのでしょう?」
その忌々しい姿……貴様、ロンディネの者だな?
そう言っていたことをルシアはよく覚えている。今思えば、あの人は迷子になったルシアのことなど助けたくなかったし、それどころか憎んですらいたのだろう。
「確かに、恨みや憎しみで変異した魔術にかかった者は私も見たことがあります。しかし、その場合、お嬢様はかかった直後に死に至るか、未だ床についておられたと思います。」
ハルガンの言葉にルシアは言葉を失った。それからあの時そのような魔術にかかった想像を体を震わせる。それほどの危険にさらされていたと思うと恐怖でどうにかなってしまいそうだった。
恐怖に震えるルシアを夫人が宥め、伯爵がハルガンに問いかけた。
「確かなのか?」
「はい。それほどまでに人の恨み憎しみというのは恐ろしいもの。お嬢様が亡くなっていないとするならその者が呪いをかけたとするにはあまりにも不自然に思います。」
「誰がかけたかもわからないのか?」
「はい。300年前に全て残らず破棄されてしまいました。余程、当時の長は呪いを憎んでいらしたのでしょう。」
そうハルガンは言った。伯爵は希望を失い、肩を落とした。
しかし、そう言葉を切ってハルガンは言った。
「何の呪いかは鑑定することができました。」
それを聞いて、ルシアと伯爵夫妻はハルガンに目を向ける。少し息を吸うと、彼は言った。
「これは不老の呪い。お嬢様、貴女の姿形はこれ以上成長することも、老いることもないでしょう。」
それは、ルシアにとって長い苦しみの日々の始まりだった。「」
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