26 / 48
とろりと甘い蜂蜜のような《番外編》
天気職人〈SIDE:水都〉
しおりを挟む~♪
微かに耳に届く歌声。
ひょっこり隣の部屋を覗いてみると、蒼夜がヘッドホンで音楽鑑賞中。
普段なら部屋に入るとすぐに気付くのに、今日は気付かないみたい。
トントン…
小さく肩を叩けば 『ん?』 って顔して見上げてくる。
オレが蒼夜を見下ろせるのってこんな時くらいなんだよね…。
オレに気付いた蒼夜はヘッドホンを片方だけ外して 『何?』 って視線で尋ねてくる。
こいつ…本当に面倒くさがりだよな…(呆)
「何聴いてんの?」
「天気職人」
「………ってポルノグラフィティの?」
答えは頷きだけ。
「口ずさんでた?」
今度はちょっと間があって、また一つ頷く。
何となーくむかついたからヘッドホンとコンポの接続を切ってやった。
『何すんだ』 って顔して見てるけど気にしない。
そもそもなんでコンポで聴いてるくせにヘッドホンなんだ?
せっかく音響のいいコンポなんだし、昼間っからヘッドホンなんてオレはイヤだね。
~~♪
スピーカーから聞こえてきたフレーズ。
やっぱり綺麗な歌声だよなぁ…なんて思いながら浸ってた。
隣では無意味になったヘッドホンを片づける蒼夜。
よくよくコンポの表示を見てみると “一曲リピート” になってる。
………ひょっとして…ずっと聴いてた…?
「蒼夜って…この曲好きだったっけ?」
「…なんで?」
「いや…お前が “一曲リピート” なーんて珍しいからさぁ」
「そう?結構好きだよ」
「へぇ~。やっぱり曲の雰囲気とか?」
「…それもあるけど…何となく懐かしいからかな…」
「懐かしい…って何が?」
「………笑うからいい………」
「笑わないって!気になるじゃん!!教えてよ」
オレが頼み込めばひとしきり 「うーん」 とうなる。
そんな蒼夜を見ながら、オレは蒼夜のベッドに座った。
いい加減立ちっぱなしも疲れるしね。
「絵本…」
絵本………ってあの絵本ですかっ!?
幼稚園児とかの読む…っ?!
さすがにそんな話題になるとは予測してなかったオレは、思わず絶句。
そんなオレを見て、蒼夜は一瞬イヤそうに顔をしかめたけど何も言わなかった。
「幼稚園児の頃、教科書代わりに毎日絵本読んでたんだよ…俺達。その時に読んだヤツの一つがすごく好きで…それ、思い出すんだ」
「へぇ~。どんな?」
「………虹の職人の話、かな。虹の職人は、みんなが眠っている間に銀色の大きな鍋で七色を混ぜ合わせてるんだって。ソレを大きな虹のロケットに詰め込んで、丘の上の発射台まで運んで、空にとばす。そんな話」
一つ一つ思い出すように話す蒼夜は、いつもの大人びた表情じゃない…小さな子供みたいな顔してた。
「ちょうど色を混ぜ合わせてるところの挿絵がね…星空の下で大きな鍋に大きなはしごをかけて長い棒でぐるぐる色を混ぜてるところで…。発射台に運ぶ頃は少しだけ日が差してたっけ。俺、その話が大好きで何回も読んでた」
オレは黙って話を聞いてた。
だって…蒼夜の顔見てるとどれだけ好きなのかすごくよくわかるから…。
すごく嬉しそうで…楽しそう…、そんな顔してる。
何となくオレまで嬉しくなって思わず微笑んだ。
「“天気職人”も…虹の職人と同じなんだろうね」
「え?」
「きっと大きな鍋で空の色を煮込んでるんだよ。毎日毎日、その時の気持ちを込めて一生懸命に。楽しいときはワクワクするような空、哀しいときは暗い空、嬉しいときの空、怒ってるときの空…みんな天気職人の心の色」
蒼夜の言葉にオレは思わず窓の外に広がる青空を見た。
今日は快晴。
きっと天気職人は何か良いことがあったんだろうね。嬉しそうな色してる。
「天気職人と虹の職人はお互いを大切に思い合ってるんだろうなぁ…」
「?」
「天気職人が哀しいときに雨空を描いたら、虹の職人は一生懸命七色を作る。それで朝一番の空に大きな虹を架けるんだ。『元気出せよ』って気持ちをたくさん込めた虹。ソレを見た天気職人は『ありがと、元気になったよ』って気持ちを込めた青空を描くんだ。その青空で虹の職人ももっともっと元気になれる」
「………」
「だから虹の職人と天気職人は“最愛”なんだよ、きっと」
まるで小さい子供に語りかけるように話す蒼夜は、いつもの無表情じゃなくて優しい笑顔を浮かべてた。
オレは何も言えずにその横顔を見つめる。
だって…蒼夜の言ったことはあまりにも意外だったから。そんなこと考えもしなかった。
変わってるヤツって思ってたけど…ここまで変わってるとはね。
でも…なんでかな。
蒼夜の言ってること、不思議と納得出来ちゃうんだ。
それが蒼夜の言葉だからなのかな…。ほんと不思議。
「…だからこの曲好きなんだ」
『くすっ…』っと小さく笑って言う蒼夜。
いつもと同じような笑い方のはずなのに、すごく優しい顔で笑うから調子狂うかも。
今日は蒼夜の意外な一面ばっかり見てる気がする…。
「…オレもその意見賛成。って賛成とかの問題じゃないか…」
「え?」
「だから…蒼夜の考え方に賛成って言ってるの。『天気職人と虹の職人は“最愛”だ』ってオレもそう思うってコト」
「…ホントに?」
「うん。なんかさ…不思議と納得出来るんだ」
「そっか」
「だからオレも今まで以上に好きになったよ、この曲」
オレの言葉がそう言うと、蒼夜は何も答えなかったけどすごく柔らかく笑ってくれた。
ああ、この顔。大好きだな。
「今日は天気職人…何か良いことがあったんだろうね。快晴だし」
「…そうかも。嬉しそうな色だ」
何となく口にしたオレの台詞に答えてくれる蒼夜。
さっきオレが思ったことと同じことを考えてたから嬉しくなって…思わず吹き出した。
いきなり笑い出したオレを不思議そうに見てくるからよけい笑っちゃって…。
何とか深呼吸をして笑いをおさめた。
「同じこと思ってたんだと思ったらおかしくてさ…」
「そか…」
また小さく笑った。
「あ」
「…なに?」
「天気職人ってさ…蒼夜みたいじゃない?」
「…どうして?」
「だって…いつもしかめっ面なんでしょ?蒼夜と一緒」
オレがそう言ったら複雑そうな顔してる。
これはきっと『嬉しいけど…微妙』って考えてるんだろうな。
「…じゃあスイは“虹の職人”だね」
「えっ?!」
「俺がしかめっ面の天気職人なら、スイは虹の職人」
「なんで?」
「雨空を描いたときは、いつも虹のロケットを飛ばしてくれるから」
それだけ言うとまた窓の外を眺める。
「…あぁ…でも俺の描いた青空が元気をあげてるかどうかわからないけど…」
ぽつりと聞こえた呟き。
そんなことない。オレはいつも元気付けてもらってるよ。
オレのほうこそ…蒼夜に元気をあげられてるのか心配だっての。
「蒼夜は“天気職人”だよ」
ちょっと真面目にそう言えば『そっか』って笑い返してくれる。
「じゃあやっぱりスイは“虹の職人”だね」
そんなに優しく幸せそうに笑いかけられたら、もう何も言えない。
そんなオレの様子を見守るように見る瞳は、子供っぽさなんてとっくになくなってて。
代わりにいつもよりずっと温かい光があった。
なんか…見てるこっちが照れくさくなるような…そんな瞳。
「せっかくのお天気だし、出掛けようか」
「…うん」
いつの間にか曲を止めてた蒼夜が、オレに向かって手を差し出してる。
その手を取って外に出ると、さっきまで四角で区切られてた空がどこまでも見渡せた。
風がさわさわと木々の葉を揺らしていく。
すごく気持ちいい。
「俺が天気職人なら…明日は幸せの青空を描くな」
「幸せの青空?…何でまた…」
オレと同じように空を見上げていた蒼夜の呟き。
不思議に思って訊いてみると…繋がれた手に少しだけ力がこもって
「スイが隣にいてくれる。それが俺の幸せの素だから…」
何気なくさらりと言うと、一人で先に歩き出していく。
………何か言いました………?
滅多にきかないような甘い台詞が聞こえて呆然としてたけど、はっとして先を歩く蒼夜のもとに駆け寄り、一度離れてしまった手を今度はオレから繋ぐ。
「じゃあオレがずーっと幸せの青空を描かせてやるから」
オレばっかり驚かされてるのがイヤで、恥ずかしいけどそう言った。
言葉は…かなりきついような気がするけど…素直になるなんて絶対無理。
蒼夜は一瞬ぽかんとしてたみたい。
でもすぐに嬉しそうに微笑むと『ありがとう』って言われた。
それが嬉しくて…少し笑った。
虹の職人が虹を描くのは、天気職人が雨空を描いたときだけじゃないよ。
天気職人が幸せの青空を描いたら、虹の職人も幸せの虹を描くんだ。
“キミの幸せの素がボクなら、ボクの幸せの素はキミだよ”
今までも、これからも…ずぅーっとね。
――――明日はどんな日になるのかな?
天気職人と虹の職人の幸せ色の日になるよ
――――明日こそ誘えるといいのにね
空が一番綺麗に見える、あの場所へ…
*****
それぞれ自分の部屋を確保しつつ、一緒に住んでる二人。
昔よりずっと甘くて優しくなった蒼夜くんに翻弄される水都くん。
そんな二人が大好きだなあ。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完結】星影の瞳に映る
只深
BL
高校三年生の夏。
僕たちは出会って一年を迎えた。
夏の大会に向けて腕を上げたいと言う、キラキライケメンヤンチャ系の『星 光(ほし ひかる)』と熟練した技を持ち、精神的にに早熟しながらもふわふわフラフラした性格で陰キャの『影 更夜(かげ こうや)』。
青春の時を過ごしながら、お互いの恋に気づき卒業前に思いを遂げるが、卒業とともに距離が離れて…。
高校生の人としておぼつかない時期の恋愛から大人になって、なおも激しく燃え上がる恋心の行方は…。
一日で書き上げたストーリーです。
何も考えず本能のままの青くさい物語をお楽しみください!
この小説は小説家になろう、アルファポリスに掲載しています。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。

【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結



【BL】記憶のカケラ
樺純
BL
あらすじ
とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。
そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。
キイチが忘れてしまった記憶とは?
タカラの抱える過去の傷痕とは?
散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。
キイチ(男)
中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。
タカラ(男)
過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。
ノイル(男)
キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。
ミズキ(男)
幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。
ユウリ(女)
幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。
ヒノハ(女)
幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。
リヒト(男)
幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。
謎の男性
街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる