猫被りの恋。

圭理 -keiri-

文字の大きさ
上 下
23 / 48
さようなら、また逢う日まで

第23話 抗えない本音

しおりを挟む
「ねえ龍ちゃん。
 勉強や技術を教えてくれている流民は、ここにいる人だけなの?」

「そんな事はないよ。
 大陸中を探したら、百万人くらいいるかな?
 いや、五百万人くらいかな?
 よく知らないけど」

「みんな生活に困っていないの?
 飢えたりしていないの?」

「どうかなぁ。
 流民の事はよく知らないんだよね」

 神龍の嘘だった。
 そもそもこの国の人間の事も知らないのだ。
 人間自体に、まったく興味がないのだ。
 この国の守護龍となっていたのも、魔獣や魔族と戦いのが楽しかったのと、移動するのが面倒だったからだ。

「じゃあ流民を助けるのは無理なのかな?
 龍ちゃんでも居場所が分からないのなら、困っている流民の人達に、この国に来てくれと言うのは無理なのかな?」

「無理じゃないよ。
 僕にできない事はないからね。
 使い魔や神龍鱗兵を使って、流民を集めるなんて簡単な事だよ」

 神龍は強がって嘘をついてしまった。
 多くの流民のなかから、一万人に激減した民の教師を探すことはできた。
 自分の神力の及ぶ範囲にいる流民を連れてくる程度なら簡単だった。
 だが、大陸中にいる流民全てを集めるとなると、神龍でも難しかった。
 しかし、シャロンにできないという事は、神龍にはできなかった。

 だから、また、戦いの女神セクメトに頭を下げることになった。
 屈辱だったが、人間の事はセクメトに聞くしかなかった。
 他の神に知り合いはいないし、明らかに自分よりも弱い神達に頭を下げるなんて、絶対に嫌だった。
 どうしても頭を下げなければいけないのなら、自分が認める好敵手にしたかった。
 それが女神セクメトだった。

「シャロン。
 シャロンが女王として布告を出せばいいんだよ。
 全ての流民を国民として迎え、国民として権利を与えると布告すればいいんだよ。
 そうすれば、厳しい生活をしている流民は集まってくるし、他の地で豊かに生活している流民はその地に残るよ」

「そうなの?
 私が女王として布告したら、流民の人達は助かるの?
 だったらやるわ。
 私のできる事は何でもやるわ」

 神龍は女神セクメトに教えられたことを全て話した。
 その話は、シャロンに大きな決断をさせた。
 自覚がどれほどあるかは分からなかったが、女王として生きていく気にさせた。
 それがこの国のためには大きな福音だった。
 だが同時に、民が女王シャロンに依存する可能性があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】星影の瞳に映る

只深
BL
高校三年生の夏。 僕たちは出会って一年を迎えた。 夏の大会に向けて腕を上げたいと言う、キラキライケメンヤンチャ系の『星 光(ほし ひかる)』と熟練した技を持ち、精神的にに早熟しながらもふわふわフラフラした性格で陰キャの『影 更夜(かげ こうや)』。 青春の時を過ごしながら、お互いの恋に気づき卒業前に思いを遂げるが、卒業とともに距離が離れて…。 高校生の人としておぼつかない時期の恋愛から大人になって、なおも激しく燃え上がる恋心の行方は…。 一日で書き上げたストーリーです。 何も考えず本能のままの青くさい物語をお楽しみください! この小説は小説家になろう、アルファポリスに掲載しています。

ふれて、とける。

花波橘果(はななみきっか)
BL
わけありイケメンバーテンダー×接触恐怖症の公務員。居場所探し系です。 【あらすじ】  軽い接触恐怖症がある比野和希(ひびのかずき)は、ある日、不良少年に襲われて倒れていたところを、通りかかったバーテンダー沢村慎一(さわむらしんいち)に助けられる。彼の店に連れていかれ、出された酒に酔って眠り込んでしまったことから、和希と慎一との間に不思議な縁が生まれ……。  慎一になら触られても怖くない。酒でもなんでも、少しずつ慣れていけばいいのだと言われ、ゆっくりと距離を縮めてゆく二人。  小さな縁をきっかけに、自分の居場所に出会うお話です。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

超絶美麗な美丈夫のグリンプス ─見るだけで推定一億円の男娼でしたが、五倍の金を払ったら溺愛されて逃げられません─

藜-LAI-
BL
ヤスナの国に住む造り酒屋の三男坊で放蕩者のシグレは、友人からある日、なんでもその姿を見るだけで一億円に相当する『一千万ゼラ』が必要だという、昔話に準えて『一目千両』と呼ばれる高級娼婦の噂を聞く。 そんな中、シグレの元に想定外の莫大な遺産が入り込んだことで、『一目千両』を拝んでやろうと高級娼館〈マグノリア〉に乗り込んだシグレだったが、一瞬だけ相見えた『一目千両』ことビャクは、いけ好かない高慢ちきな美貌のオトコだった!? あまりの態度の悪さに、なんとかして見る以外のことをさせようと、シグレは破格の『五千万ゼラ』を用意して再び〈マグノリア〉に乗り込んだのだが… 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 シグレ(26) 造り酒屋〈龍海酒造〉の三男坊 喧嘩と玄人遊びが大好きな放蕩者 ビャク(30〜32?) 高級娼館〈マグノリア〉の『一目千両』 ヤスナでは見かけない金髪と翠眼を持つ美丈夫 〜・Å・∀・Д・ω・〜・Å・∀・Д・ω・〜 Rシーンは※をつけときます。

アリスの苦難

浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ) 彼は生徒会の庶務だった。 突然壊れた日常。 全校生徒からの繰り返される”制裁” それでも彼はその事実を受け入れた。 …自分は受けるべき人間だからと。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

処理中です...