猫被りの恋。

圭理 -keiri-

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さようなら、また逢う日まで

第22話 待って〈SIDE:水都〉

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〈SIDE:水都〉




氷神ひかみ 蒼夜そうや

それは。オレの大切な人の名前。


























あの時は、あのほんの少しの興味がこんな結末になるなんて思ってもいなかった。
それくらい小さな好奇心。
でもいまはあの時の自分の好奇心に感謝してる。
こうして氷神ひかみと出会えたから。
彼と過ごした時間は楽しかったから。
この楽しい時間は永遠に続くと思ってた。
よく考えれば、永遠なんてそう簡単にあるもんじゃないってわかったはずなのに。
どうしてだろう。

氷神ひかみと居る時間は “永遠に続く” と信じ込んでいた。








氷神ひかみが日本を発つまでの一週間はあっという間だった。
平日は学校だから、ゆっくり過ごす時間なんてなくて、時間が足りなかった。
それでも今週は金曜日が祝日だったから、ワガママをいって木曜日の夜から泊まりに来てもらったんだ。
金曜日にテーマパークに行きたいからって。

ほんとは、ただ氷神ひかみと一緒にいたいだけ。

そんな裏側の気持ちなんて氷神ひかみにはバレバレだと思うけど。
本当は何処にも行ってほしくない。
ずっと、ずっと、一緒にいたい。
でも、もし今行かなかったら氷神ひかみは…。



傍にいてほしい。
でも生きていてほしい。



本当は引き留めたかった。
でも出来なかった。
そんなのオレのわがままだから。
それに氷神ひかみはきっとオレが引き留めたら行かないって言うだろう。
それじゃあダメなんだ。


それじゃ氷神ひかみは…。







オレが一緒に行きたいって強請ったのは、あのテーマパーク。

氷神ひかみもいろいろなことを思い出したのか、苦笑いしながらも楽しそうだった。
オレはアトラクション全制覇を目標に、勉強そっちのけで練ったプランで氷神ひかみを連れ回した。
だってそうでもしないと、オレはきっと氷神ひかみに言っちゃいけないこと言いそうで。
それどころか、泣いてすがりついてしまいそうで。
でもこれから大変な思いをする氷神ひかみに、そんな顔見せたくない。
元気で笑ってるオレを焼き付けていってほしい、そう思うから。




たくさん遊んで、遊び疲れて、そして閉園前。
ふたりで見上げた花火は絶対忘れない。
一緒にに行けなかった今年の花火の代わりだ。
そっと繋がれた手の温もりに、思わず涙が零れた。
人混みの中で半歩後ろに立つ氷神ひかみには気づかれなかったけれど。
この温もりとはもうしばらく触れられないんだと思っただけで、心が壊れそうだ。
いますぐに泣きわめいて、すがり付いて、置いていかないでって言ってしまいたい。
でも、それはだめだ。
こんな泣き顔も見せちゃダメだ。

『また来ようね』

そう言わないのはきっと、氷神ひかみの優しさだ。
そして、いまだにオレのそばにいられないと思っている気持ちの表れで。
ほんの少し切なかった。












『最後に顔見れて、一緒に過ごせて良かった』




土曜日の夕方。
氷神ひかみは多分ギリギリまでオレといてくれたんだろうな。
オレの部屋を出る前、氷神ひかみが今までにないくらい柔らかく抱きしめてくれた。
オレは何も言えなかった。
消えそうな声で言うから。
抱きしめてくれる腕はいつも以上に甘くて優しくて温かいのに。
どうしてこんなに切ないんだろう。



“このまま時間が止まってくれたら…”



そう思った。
零れそうになる涙を堪えるのが大変だった。
そうしてやっと本当の意味で理解した。
オレは氷神ひかみが泣くほど大好きだ。
もう氷神ひかみがいなきゃだめだ。
それなのにそうわかった途端に会えなくなるなんて。
















『それじゃ、いってくる』




日曜日、午後3時。
電話の向こうの氷神ひかみに『いってらっしゃい』としか言えなかった。
でも氷神ひかみは絶対帰ってくる。
そしたら『お帰り』って言うんだ。
だから、絶対帰って来いよ……蒼夜そうや




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