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曝け出す本心 《高校2年生・冬》
第17話 逸らしがちな視線
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〈SIDE: 蒼夜〉
その目と、その声と。
それから、俺に向けられる君のすべて。
そのどれもが愛おしい。
まっすぐ見つめることができないくらいに。
スイの家に行ったらおばさんがいて。
「久しぶりね」って笑って迎えてくれた。
それから3人で他愛のないことを話した。
最近のテレビ番組やアーティストのこと、文化祭での苦労話、とにかくいろいろ。
昼過ぎに着いてからずっとおしゃべりしてて、気付けばもう夕方。
スイに言わなきゃいけないことは何一ついえないまま時間が過ぎてしまった。
結局、以前のように泊めてもらうことになって、少しほっとした。
正直、まだ言葉にするのが怖いと思っていたから。
最後の悪あがき。しかも結構往生際の悪いやつ。
夕食をご馳走になって、スイの部屋に行ってからも他愛のない話をした。
突然の来訪の理由だって気になってるはずなのに、スイからは絶対口にしない。
俺が言うのを待っていてくれる。
ここまできても俺の心はまだ臆病風に吹かれていて、どう切り出すべきか定まらなかった。
結局何一つ言えないまま…二人でスイのベッドに潜り込んだ。
ほんの少し明かりを落とした室内。
久しぶりに肩に触れる、俺より少し高い体温。
風呂上がりの割に低い俺の体温と、温かいスイの体温で、この季節にはちょうど良い温かさだった。
「子供体温」 「冷血人間」
今や決まり文句になったお互いの台詞に小さく笑い合って。
やっぱ幸せだな、と思った。
(もう逃げられないな…)
これまでずっと目を逸らしていた現実。
でも、スイにはきちんと伝えなくちゃ。
ふと会話が途切れて、しばらくの沈黙。
「話しておかなきゃいけないことが、あるんだ」
やっと絞り出した声は俺じゃないみたいにかすれてて。
横にいるスイを見れないまま、ただじっと天井を見つめた。
痛いほどに見つめる視線が静かに続きを促しているようで。
ひとつ息をついて、これまで黙っていたことを話し始めた。
「ドイツに行ってくる。再発した持病の治療で。こっちでの治療じゃ間に合わなくなったからさ」
「え…?」
言い始めてみると、思いの外するりと言葉が出てくる。
スイの戸惑うような雰囲気に、少し心が痛むけれど。
これが、ずっと言えなかった真実。
幼い頃の俺は酷く病弱で、入退院を繰り返していたらしい。
記憶にあるのは真っ白な部屋と、『コツ…コツ…』と近づいてくる足音。
それ以外のことは覚えていない。
でも聞こえてくる足音が酷く恐ろしかった。
何もない真っ白な空間が怖かった。
病気は再発しないと聞いていたから気にもとめていなくて、身体の異変に気付いたのは去年の秋頃。
初めは治り損ねた風邪ぐらいのつもりだったけれど、何度か繰り返した検査の結果が思わしくなくて。
それから詳しく調べると、幼い頃にかかった病気の一つが完治せず再発したことがわかった。
しかも、俺の身体が成長したように、病気も成長したらしい。悪い方へ。
大嫌いな病院も足繁く通ったし、どんな薬も治療も耐えた。
入院以外は。
けれど、あの夏の日。
俺は最終宣告を受けた。
『国内でできる医療はこれ以上ない。あとはドイツの医療機関を頼るしか…』
目の前が真っ暗になった。
主治医は、高校生の俺にもわかるようにいろいろと説明してくれた。
病名はもちろん、症状や対処法も。
ただそんな丁寧な説明も、俺には右から左。
ただひとつわかったのは、放っておけばもうそんなに長くないってこと。
国内でできる治療では、俺の寿命は大して残ってないらしい。
ドイツ行きは避けたかった。
でも、ダメだった。
どうあがいてもそれしか生き残る道がなかった。
本当に生き残れるかも怪しいけれど。
そうやって悩んでいるうちに、スイの噂の彼女に呼び出されて、詰られたんだ。
「近づかないでください」
その言葉にどれほど救われたことか。
この子の言う通りスイに近づかないようにしたら、スイを傷つけなくて済むかもしれない。
そう思うとほっとした。
その安心感の裏側に、どうしようもないほど強烈な嫉妬心があったとしても。
それなのに俺はスイを傷つける道に戻ってきてしまった。
隣にスイの温もりを感じながら、やっと話し終えると何ともイヤな沈黙が流れる。
我慢出来なくなってこっそり伺い見れば、どこか遠くを見ている瞳。
今まで見たことがないくらい、あの日あの子に告白されていたときよりずっと真面目な顔をしていた。
(ごめんね、結局俺は…)
その目と、その声と。
それから、俺に向けられる君のすべて。
そのどれもが愛おしい。
まっすぐ見つめることができないくらいに。
スイの家に行ったらおばさんがいて。
「久しぶりね」って笑って迎えてくれた。
それから3人で他愛のないことを話した。
最近のテレビ番組やアーティストのこと、文化祭での苦労話、とにかくいろいろ。
昼過ぎに着いてからずっとおしゃべりしてて、気付けばもう夕方。
スイに言わなきゃいけないことは何一ついえないまま時間が過ぎてしまった。
結局、以前のように泊めてもらうことになって、少しほっとした。
正直、まだ言葉にするのが怖いと思っていたから。
最後の悪あがき。しかも結構往生際の悪いやつ。
夕食をご馳走になって、スイの部屋に行ってからも他愛のない話をした。
突然の来訪の理由だって気になってるはずなのに、スイからは絶対口にしない。
俺が言うのを待っていてくれる。
ここまできても俺の心はまだ臆病風に吹かれていて、どう切り出すべきか定まらなかった。
結局何一つ言えないまま…二人でスイのベッドに潜り込んだ。
ほんの少し明かりを落とした室内。
久しぶりに肩に触れる、俺より少し高い体温。
風呂上がりの割に低い俺の体温と、温かいスイの体温で、この季節にはちょうど良い温かさだった。
「子供体温」 「冷血人間」
今や決まり文句になったお互いの台詞に小さく笑い合って。
やっぱ幸せだな、と思った。
(もう逃げられないな…)
これまでずっと目を逸らしていた現実。
でも、スイにはきちんと伝えなくちゃ。
ふと会話が途切れて、しばらくの沈黙。
「話しておかなきゃいけないことが、あるんだ」
やっと絞り出した声は俺じゃないみたいにかすれてて。
横にいるスイを見れないまま、ただじっと天井を見つめた。
痛いほどに見つめる視線が静かに続きを促しているようで。
ひとつ息をついて、これまで黙っていたことを話し始めた。
「ドイツに行ってくる。再発した持病の治療で。こっちでの治療じゃ間に合わなくなったからさ」
「え…?」
言い始めてみると、思いの外するりと言葉が出てくる。
スイの戸惑うような雰囲気に、少し心が痛むけれど。
これが、ずっと言えなかった真実。
幼い頃の俺は酷く病弱で、入退院を繰り返していたらしい。
記憶にあるのは真っ白な部屋と、『コツ…コツ…』と近づいてくる足音。
それ以外のことは覚えていない。
でも聞こえてくる足音が酷く恐ろしかった。
何もない真っ白な空間が怖かった。
病気は再発しないと聞いていたから気にもとめていなくて、身体の異変に気付いたのは去年の秋頃。
初めは治り損ねた風邪ぐらいのつもりだったけれど、何度か繰り返した検査の結果が思わしくなくて。
それから詳しく調べると、幼い頃にかかった病気の一つが完治せず再発したことがわかった。
しかも、俺の身体が成長したように、病気も成長したらしい。悪い方へ。
大嫌いな病院も足繁く通ったし、どんな薬も治療も耐えた。
入院以外は。
けれど、あの夏の日。
俺は最終宣告を受けた。
『国内でできる医療はこれ以上ない。あとはドイツの医療機関を頼るしか…』
目の前が真っ暗になった。
主治医は、高校生の俺にもわかるようにいろいろと説明してくれた。
病名はもちろん、症状や対処法も。
ただそんな丁寧な説明も、俺には右から左。
ただひとつわかったのは、放っておけばもうそんなに長くないってこと。
国内でできる治療では、俺の寿命は大して残ってないらしい。
ドイツ行きは避けたかった。
でも、ダメだった。
どうあがいてもそれしか生き残る道がなかった。
本当に生き残れるかも怪しいけれど。
そうやって悩んでいるうちに、スイの噂の彼女に呼び出されて、詰られたんだ。
「近づかないでください」
その言葉にどれほど救われたことか。
この子の言う通りスイに近づかないようにしたら、スイを傷つけなくて済むかもしれない。
そう思うとほっとした。
その安心感の裏側に、どうしようもないほど強烈な嫉妬心があったとしても。
それなのに俺はスイを傷つける道に戻ってきてしまった。
隣にスイの温もりを感じながら、やっと話し終えると何ともイヤな沈黙が流れる。
我慢出来なくなってこっそり伺い見れば、どこか遠くを見ている瞳。
今まで見たことがないくらい、あの日あの子に告白されていたときよりずっと真面目な顔をしていた。
(ごめんね、結局俺は…)
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