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優しい嘘、残酷な嘘 《高校2年生・夏秋》
第14話 声を聞かせて、名前を呼んで〈SIDE: 水都〉
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〈SIDE: 水都〉
君だけが呼ぶ名前が。
その声が。
オレにとって一番幸せな音なんだ。
だからその声でその名前を呼んで。
夏休み。
課外が終わって帰ろうとしたら外は雨で。
教室に折り畳み傘を取りに戻った時、それは起こった。
「私…っ…水都君が好きなんです…っ!!」
ああそう、としか言えない突然の告白。
傘を取りに戻った教室には、一人の女の子がいて。
この教室にいるんだから、同じクラスの生徒なんだろうな…と思いつつ、ロッカーから傘を探して。
その間もオレに何やら一生懸命話しかけてくる女の子。
『誰だろう、うるさいな』と不思議に思いながら見ていたのが悪かったのか。
いきなり告白してきた。
そもそも知らない子だし、そんなよくわからない子とお付き合いなんてするつもりがない。
いつもはお断り一択だけど、その時は視界の端に懐かしい銀色を見た気がして。
もしかしてオレがこの子と付き合ったりしたら、少しはヤキモチ焼いてくれるかな…なんて考えがよぎった。
完全なる打算。
少し考えるそぶりをして『友達から』と答えると、その子はとても嬉しそうに笑った。
これから先、ただ利用されるためだけの存在でしかないということに気づかずに。
オレの中にいるのはいつだってあの銀色だから。
9月になり、文化祭の準備で忙しそうな氷神とのLINEは、今まで以上に少なくなった。
学校で話しかける暇なんてない。
どういうわけか告白してきた子がオレの隣を陣取るから。
鬱陶しいなと思っているうちに、学年で噂が流れ始めた。
オレがこの子と付き合っている、と。
どうやらこの子、オレの追っかけだったらしく、念願かなって良かったねと友達らしき子達から言われていた。
お飾り彼女なのに、ね。
とはいえ、そういう噂を利用しない手はない。
氷神が聞いたら、もしかしたらこっちを向いてくれるかもしれない、って思ったから。
本当は氷神と回って、準備の時の苦労話を聞きたかった文化祭も、お飾り彼女と回った。
正直、氷神と回った去年の方が楽しかった。
でもきっと、この文化祭が終われば、生徒会の仕事が落ち着いて、少しは会って話せるようになるはずだ。
その時のオレはそんなふうに思ってた。
たまのLINEで『文化祭が終わったら、お疲れ様会かねてどこかでかけよう』って誘ってたから。
きっと氷神なら、なんの前触れもなく『明日行こう』って連絡が来るはず。
でも、生徒会が少し落ち着く季節になっても、氷神がオレと会おうということはなかった。
それだけじゃない。
気付いたら、スイって呼ばれなくなっていたんだ。
オレが大好きな、あの声で。
氷神だけが呼ぶオレの名前。
もうずっと聴いてない。
だから耐えきれなくて、思わず送ってしまったLINE。
『想い人って氷神のことだったりするんだけど…』
やっとの思いで伝えられた言葉。
本当は会った時に言うべきなのに、顔を見るのが怖くて逃げた。
目の前の小さな機械を祈るように握りしめて。
そうして氷神から返ってきたのは
『彼女持ちの余裕か(笑)』
オレが選んだことだった。
お飾り彼女を作るって。
そうしたら、氷神がオレを見てくれるんじゃないかって。
それなのに…。
その後は適当なところでLINEをやめた。
やっと伝えた言葉も、きっと氷神には届かなくて。
だからもうあの声であの名前を呼んでくれることはなくて。
その現実が思った以上に苦しかった。
(君はもうオレの隣にはいないんだ)
君だけが呼ぶ名前が。
その声が。
オレにとって一番幸せな音なんだ。
だからその声でその名前を呼んで。
夏休み。
課外が終わって帰ろうとしたら外は雨で。
教室に折り畳み傘を取りに戻った時、それは起こった。
「私…っ…水都君が好きなんです…っ!!」
ああそう、としか言えない突然の告白。
傘を取りに戻った教室には、一人の女の子がいて。
この教室にいるんだから、同じクラスの生徒なんだろうな…と思いつつ、ロッカーから傘を探して。
その間もオレに何やら一生懸命話しかけてくる女の子。
『誰だろう、うるさいな』と不思議に思いながら見ていたのが悪かったのか。
いきなり告白してきた。
そもそも知らない子だし、そんなよくわからない子とお付き合いなんてするつもりがない。
いつもはお断り一択だけど、その時は視界の端に懐かしい銀色を見た気がして。
もしかしてオレがこの子と付き合ったりしたら、少しはヤキモチ焼いてくれるかな…なんて考えがよぎった。
完全なる打算。
少し考えるそぶりをして『友達から』と答えると、その子はとても嬉しそうに笑った。
これから先、ただ利用されるためだけの存在でしかないということに気づかずに。
オレの中にいるのはいつだってあの銀色だから。
9月になり、文化祭の準備で忙しそうな氷神とのLINEは、今まで以上に少なくなった。
学校で話しかける暇なんてない。
どういうわけか告白してきた子がオレの隣を陣取るから。
鬱陶しいなと思っているうちに、学年で噂が流れ始めた。
オレがこの子と付き合っている、と。
どうやらこの子、オレの追っかけだったらしく、念願かなって良かったねと友達らしき子達から言われていた。
お飾り彼女なのに、ね。
とはいえ、そういう噂を利用しない手はない。
氷神が聞いたら、もしかしたらこっちを向いてくれるかもしれない、って思ったから。
本当は氷神と回って、準備の時の苦労話を聞きたかった文化祭も、お飾り彼女と回った。
正直、氷神と回った去年の方が楽しかった。
でもきっと、この文化祭が終われば、生徒会の仕事が落ち着いて、少しは会って話せるようになるはずだ。
その時のオレはそんなふうに思ってた。
たまのLINEで『文化祭が終わったら、お疲れ様会かねてどこかでかけよう』って誘ってたから。
きっと氷神なら、なんの前触れもなく『明日行こう』って連絡が来るはず。
でも、生徒会が少し落ち着く季節になっても、氷神がオレと会おうということはなかった。
それだけじゃない。
気付いたら、スイって呼ばれなくなっていたんだ。
オレが大好きな、あの声で。
氷神だけが呼ぶオレの名前。
もうずっと聴いてない。
だから耐えきれなくて、思わず送ってしまったLINE。
『想い人って氷神のことだったりするんだけど…』
やっとの思いで伝えられた言葉。
本当は会った時に言うべきなのに、顔を見るのが怖くて逃げた。
目の前の小さな機械を祈るように握りしめて。
そうして氷神から返ってきたのは
『彼女持ちの余裕か(笑)』
オレが選んだことだった。
お飾り彼女を作るって。
そうしたら、氷神がオレを見てくれるんじゃないかって。
それなのに…。
その後は適当なところでLINEをやめた。
やっと伝えた言葉も、きっと氷神には届かなくて。
だからもうあの声であの名前を呼んでくれることはなくて。
その現実が思った以上に苦しかった。
(君はもうオレの隣にはいないんだ)
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