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優しい嘘、残酷な嘘 《高校2年生・夏秋》
第12話 上手に嘘がつけたなら
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〈SIDE: 蒼夜〉
俺のための上手な嘘を君に送ろう。
9月。
夏期休暇も終わり、また学校生活が始まるこの季節。
メインイベントと言ったら秋の文化祭だろう。
学園祭とは少し趣向を変えたこのイベントはなかなか好評らしく、生徒会副会長である俺もかなり忙しい。
毎日、各団体の申請書を精査して、問題点があれば責任者とやりとりして。
俺を含めた役員全員、高校生だということを忘れそうなくらいだ。
あの、夏休みの日。
結局俺はスイとは当たり障りのないLINEをして終わった。
学校に行ったことも言っていない。
だから当然、あの告白現場を見てしまったことも秘密だ。
ただ、そういう場面を事故とは言え覗き見てしまった後ろめたさは消えない。
今は俺が文化祭準備に追われて忙しいから、自然と距離もできて…俺は正直ほっとした。
どんな顔をして逢えばいいのか、わからないから。
あの日スイには話そうと思ったこと、でもやっぱりいうのをやめたことをつい言ってしまいそうになるから。
あれは、言わずにおこう。
俺お得意の、外面を生かさなくては。
いつの間にかスイに依存してる自分に気づいて愕然とする。
こんなに弱くなってしまったとは情けない。
スイに告白していたあの女の子。
実はその後、俺は彼女に呼び出された。
しかも夏期休暇中にもかかわらず、だ。
まずどうやって連絡先を知ったのかも疑問だし、よりにもよって学校の教室に呼び出すヤツがどこに…って実際いたわけで。
言われそうなことはおおよそ予想出来ていたし、正直言って解りきっていることをわざわざ聞きに行くのも面倒だった。
でも俺はその呼び出しに応じた。
「水都君に近づかないでください。水都君のこと馴れ馴れしく呼ばないで!」
人の顔を見るなり、そう言ってきた。
いや、まあ、名乗り合ってお互い穏便に…というわけにはいかなそうだとは思っていたけれど。
でも『馴れ馴れしく呼ぶな』まで来るとはちょっと予想外。
他人に口出しされるいわれはない。
正直なところ、カチンとくる。
けれど、ここまで言われるからには、スイは彼女を受け入れたんだろう。
ちょうど良いのかもしれない。
俺とスイは少し近づきすぎたようだから。
俺は、今もなお強い目で睨み付けているその子ににこりと微笑んだ。
「うん、わかった。俺じゃダメだと思ってたし、ちょうど良いよ」
そう言ってやれば、少しほっとしたような笑みを浮かべる。
自分の思うようにことが運んだことがそんなに嬉しいのだろうか。
そこまで『スイが好きだ』とアピールしなくてもいいのに。
まっすぐにぶつけてくる感情が眩しいと思い、そしてまた同時に嫌悪感がわき上がってきた。
立ち去るその子の背中を見送って完全に見えなくなると、俺は胸を押さえてその場に座り込んでしまった。
(ヤバイ…苦しい…)
このままだとスイにバレる。
アイツにだけは嘘がつけないから。
心を切り裂くような痛みと全身を引き裂くような痛みに苛まれながら、それでも俺は微笑う。
この真実を誰にも気付かせないように。
そして何よりスイに気付かれないように。
そう、これからつくのは俺のための嘘。
君に送る最後のプレゼント。
俺のための上手な嘘を君に送ろう。
9月。
夏期休暇も終わり、また学校生活が始まるこの季節。
メインイベントと言ったら秋の文化祭だろう。
学園祭とは少し趣向を変えたこのイベントはなかなか好評らしく、生徒会副会長である俺もかなり忙しい。
毎日、各団体の申請書を精査して、問題点があれば責任者とやりとりして。
俺を含めた役員全員、高校生だということを忘れそうなくらいだ。
あの、夏休みの日。
結局俺はスイとは当たり障りのないLINEをして終わった。
学校に行ったことも言っていない。
だから当然、あの告白現場を見てしまったことも秘密だ。
ただ、そういう場面を事故とは言え覗き見てしまった後ろめたさは消えない。
今は俺が文化祭準備に追われて忙しいから、自然と距離もできて…俺は正直ほっとした。
どんな顔をして逢えばいいのか、わからないから。
あの日スイには話そうと思ったこと、でもやっぱりいうのをやめたことをつい言ってしまいそうになるから。
あれは、言わずにおこう。
俺お得意の、外面を生かさなくては。
いつの間にかスイに依存してる自分に気づいて愕然とする。
こんなに弱くなってしまったとは情けない。
スイに告白していたあの女の子。
実はその後、俺は彼女に呼び出された。
しかも夏期休暇中にもかかわらず、だ。
まずどうやって連絡先を知ったのかも疑問だし、よりにもよって学校の教室に呼び出すヤツがどこに…って実際いたわけで。
言われそうなことはおおよそ予想出来ていたし、正直言って解りきっていることをわざわざ聞きに行くのも面倒だった。
でも俺はその呼び出しに応じた。
「水都君に近づかないでください。水都君のこと馴れ馴れしく呼ばないで!」
人の顔を見るなり、そう言ってきた。
いや、まあ、名乗り合ってお互い穏便に…というわけにはいかなそうだとは思っていたけれど。
でも『馴れ馴れしく呼ぶな』まで来るとはちょっと予想外。
他人に口出しされるいわれはない。
正直なところ、カチンとくる。
けれど、ここまで言われるからには、スイは彼女を受け入れたんだろう。
ちょうど良いのかもしれない。
俺とスイは少し近づきすぎたようだから。
俺は、今もなお強い目で睨み付けているその子ににこりと微笑んだ。
「うん、わかった。俺じゃダメだと思ってたし、ちょうど良いよ」
そう言ってやれば、少しほっとしたような笑みを浮かべる。
自分の思うようにことが運んだことがそんなに嬉しいのだろうか。
そこまで『スイが好きだ』とアピールしなくてもいいのに。
まっすぐにぶつけてくる感情が眩しいと思い、そしてまた同時に嫌悪感がわき上がってきた。
立ち去るその子の背中を見送って完全に見えなくなると、俺は胸を押さえてその場に座り込んでしまった。
(ヤバイ…苦しい…)
このままだとスイにバレる。
アイツにだけは嘘がつけないから。
心を切り裂くような痛みと全身を引き裂くような痛みに苛まれながら、それでも俺は微笑う。
この真実を誰にも気付かせないように。
そして何よりスイに気付かれないように。
そう、これからつくのは俺のための嘘。
君に送る最後のプレゼント。
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