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遅すぎる自覚 《高校2年生・春》
第9話 手段は言葉だけじゃない
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〈SIDE: 蒼夜〉
じゃれ合うような甘ったるい触れ合いも、閉じ込めてしまいたくなるような衝動も。
教えてくれたのは君だった。
他人の温もりが、温かいだけじゃなくて甘いだなんて。
スイに出会うまで、スイを抱きしめるまで、そんなこと知らなかった。
俺の中にはもう君しかいない。
誰が聞いても最低なきっかけ。
それでも、どうしてスイなのかやっとわかった。
ずっと形のなかったものが、やっと形になったような。
『どうして俺はスイを必要としたのか』
最初はただ、似てただけ。
あの頃俺の心の中を占めていたあの人に。
スイはとてもよく似ていた。
誰とでも楽しそうに笑って過ごしているのに、本当は何もかもつまらなく感じているところ。
そういう気持ちを誰にも気づかせないように覆い隠しているところ。
俺のペースなんてお構いなしに俺を巻き込んでいくところ。
だから近づきたいと思った。
近づきたくないと思った。
“他人”は“他人”としてしか認識してなかった俺の心に新しい感情を見せてくれた人。
人の温もりを伝えてくれた人。
いつの日からかあの人の瞳に俺は映らなくなって、離れていって。
その事実を認められないまま、俺とあの人は違う道を歩いていた。
心の中にいたのはいつもあの人。
遠く離れてしまったあの人。
その頃、心に溢れていた想いを伝えることはできなかった。
形のない、自分でさえもよくわからない、不思議な想い。
ただ燻っていくだけだけの行き場のない想いに疲れ果てていた。
そんなときスイを見つけた。
俺やあの人と同じニオイ。
あの人に似てる君。
でも似てなかった。
あの人とは全然違う。
スイに名前を呼ばれると、むず痒くなる。
心のどこかをくすぐられているような。
スイと視線が合うと、なんとなく温かい気持ちになる。
温かい春の陽だまりで過ごす昼下がりのような。
いつも話しかけてくれる声は、どこにいたって耳に心地良い。
まるで子守唄みたいに、いつだって心を穏やかにさせてくれる。
どれほど些細な話題でも、スイが話せばなんでも楽しい。
それに、思わず抱きしめた温もりが、離れ難くて甘かった。
初めは、スイの中にあの人を探して。
二度目は、スイの温もりを確かめたくて。
三度目は、スイだけの甘い体温が心地良くて。
それから何度も。
(何でこんなに温かくて甘いのかな…)
初めて抱きしめたあの時からずっと、スイの体温はとても甘い。
そしてとにかく温かい。
冷え切った心の中まで温めるような、そういう温もり。
「スイって子供体温だよね」
そう言った俺にムキになって怒る姿を見るのが面白くて、つい何度も言ってしまった。
スイも流せばいいのに、いちいち反論してくるのが律儀というか何というか。
温かいものが好きな俺にとってはちょうど良かった。
何度反論されても、拗ねられても、怒られても、抱き締めるたびにそういう俺にスイの反撃はいつも同じ。
「お前が冷たいだけだろ、冷血人間!」
ムキになるとぶっきらぼうになる口調。
いつも、誰に対しても、穏やかで優しい人であろうとするスイにしては珍しい。
そうやって取り繕わないスイのありのままの姿が嬉しくて。
逃げようとするけど、逃がさないように強く抱きしめて。
そうして大人しくなった腕の中の温もりは、やっぱり甘い。
(………言えないことが、あるんだ………)
伝えられない想い。
言いたくない現実。
多分、君を悲しませるかもしれない未来。
(好きになってごめん…)
ともすれば弱音を吐きそうになる自分を抑え込んで、ただもう一度スイを抱きしめる腕に力を込めた。
スイの中にあの人を見なくなって、スイが俺の最低な行為にも気づいていたとわかって。
俺の想いを伝えることはよくないだろうと思った。
それなのにあわよくばこの体温と一緒に伝わってほしいと思ってしまう。
とても欲張りで傲慢な俺。
(でもね。もう手放さなくちゃね)
だからあの日、俺は自分で選んだんだ。
君の隣にいない日々を。
じゃれ合うような甘ったるい触れ合いも、閉じ込めてしまいたくなるような衝動も。
教えてくれたのは君だった。
他人の温もりが、温かいだけじゃなくて甘いだなんて。
スイに出会うまで、スイを抱きしめるまで、そんなこと知らなかった。
俺の中にはもう君しかいない。
誰が聞いても最低なきっかけ。
それでも、どうしてスイなのかやっとわかった。
ずっと形のなかったものが、やっと形になったような。
『どうして俺はスイを必要としたのか』
最初はただ、似てただけ。
あの頃俺の心の中を占めていたあの人に。
スイはとてもよく似ていた。
誰とでも楽しそうに笑って過ごしているのに、本当は何もかもつまらなく感じているところ。
そういう気持ちを誰にも気づかせないように覆い隠しているところ。
俺のペースなんてお構いなしに俺を巻き込んでいくところ。
だから近づきたいと思った。
近づきたくないと思った。
“他人”は“他人”としてしか認識してなかった俺の心に新しい感情を見せてくれた人。
人の温もりを伝えてくれた人。
いつの日からかあの人の瞳に俺は映らなくなって、離れていって。
その事実を認められないまま、俺とあの人は違う道を歩いていた。
心の中にいたのはいつもあの人。
遠く離れてしまったあの人。
その頃、心に溢れていた想いを伝えることはできなかった。
形のない、自分でさえもよくわからない、不思議な想い。
ただ燻っていくだけだけの行き場のない想いに疲れ果てていた。
そんなときスイを見つけた。
俺やあの人と同じニオイ。
あの人に似てる君。
でも似てなかった。
あの人とは全然違う。
スイに名前を呼ばれると、むず痒くなる。
心のどこかをくすぐられているような。
スイと視線が合うと、なんとなく温かい気持ちになる。
温かい春の陽だまりで過ごす昼下がりのような。
いつも話しかけてくれる声は、どこにいたって耳に心地良い。
まるで子守唄みたいに、いつだって心を穏やかにさせてくれる。
どれほど些細な話題でも、スイが話せばなんでも楽しい。
それに、思わず抱きしめた温もりが、離れ難くて甘かった。
初めは、スイの中にあの人を探して。
二度目は、スイの温もりを確かめたくて。
三度目は、スイだけの甘い体温が心地良くて。
それから何度も。
(何でこんなに温かくて甘いのかな…)
初めて抱きしめたあの時からずっと、スイの体温はとても甘い。
そしてとにかく温かい。
冷え切った心の中まで温めるような、そういう温もり。
「スイって子供体温だよね」
そう言った俺にムキになって怒る姿を見るのが面白くて、つい何度も言ってしまった。
スイも流せばいいのに、いちいち反論してくるのが律儀というか何というか。
温かいものが好きな俺にとってはちょうど良かった。
何度反論されても、拗ねられても、怒られても、抱き締めるたびにそういう俺にスイの反撃はいつも同じ。
「お前が冷たいだけだろ、冷血人間!」
ムキになるとぶっきらぼうになる口調。
いつも、誰に対しても、穏やかで優しい人であろうとするスイにしては珍しい。
そうやって取り繕わないスイのありのままの姿が嬉しくて。
逃げようとするけど、逃がさないように強く抱きしめて。
そうして大人しくなった腕の中の温もりは、やっぱり甘い。
(………言えないことが、あるんだ………)
伝えられない想い。
言いたくない現実。
多分、君を悲しませるかもしれない未来。
(好きになってごめん…)
ともすれば弱音を吐きそうになる自分を抑え込んで、ただもう一度スイを抱きしめる腕に力を込めた。
スイの中にあの人を見なくなって、スイが俺の最低な行為にも気づいていたとわかって。
俺の想いを伝えることはよくないだろうと思った。
それなのにあわよくばこの体温と一緒に伝わってほしいと思ってしまう。
とても欲張りで傲慢な俺。
(でもね。もう手放さなくちゃね)
だからあの日、俺は自分で選んだんだ。
君の隣にいない日々を。
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