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猫被りの出逢い 《高校1年生》
第3話 逡巡と衝動の交差点
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〈SIDE: 蒼夜〉
『他人と関わりたくない』って思いと、
『その瞳に俺を映したい』って思い。
相反する二つの思いが同時に生まれたら、どっちを優先するか。
そんな壁にぶつかった。
彼はとても興味深いひとだと思う。
俺の興味を惹きつけてやまない。
ふとしたときに気になってしまう。
なぜこんなに気になってしまうのか、心惹かれてしまうのか、俺自身にもわからない。
ただ、近くにいたいと思う。
けれど、俺から気さくに話しかけられるわけでもない。
そうやって彼に思考を支配されて、どうすればいいか考えること数日。
はっきり言って勉強どころじゃない。
『どうやって振り向かせようか』
そればかりだから。
そして出した答え。
『振り向かずにはいられない状況を作ればいい』んだ。
元々そこまで他人と関わることが好きではない俺は、休み時間に本を読むのが好きだ。
俺の座席は、窓際の一番後ろ。
今回もとてもくじ運が良かったようで、最高の席を手に入れた。
開け放された窓から、初夏の少しムッとした風が流れてくる。
そんな風を頬に感じながら、短い休み時間を惜しむように、手元のページをめくった。
この賑やかでかしましい教室で、静かに読書をしている人間はある意味異質だろう。
けれど、それが一番目を惹く方法だと思った。
自分から声をかけるのはやはり躊躇いがある。
だからこそ、彼が気にするであろう行動で示してみよう、と。
きっとあの彼ならば、必ずこちらに目を向けるだろうから。
何の根拠もない確信。
けれど、どこかで俺はこの確信は間違っていないと思っている。
そんなことを考えながらまたひとつページをめくったその時。
「何、読んでるの?」
俺の耳に届いた声。
あまり聴き慣れない声にふと本から視線を上げると、彼が居た。
俺の手元をのぞき込むように。
「…本だよ」
俺の答えは短い。
一瞬の戸惑いを隠したかったこともある。
それに、これ以上どんな言葉を続けるのかわからなかったから。
大概の人間はこの返答に『冷たい』と文句を言う。
どう答えてくるだろうと思えば、今まで誰の口からも出たことのない反応。
「ふぅん。読書好きなんだ」
そう言って、また俺の手元をのぞき込んだ。
それからは特に言葉を交わすことなく、予鈴を聞いた。
「じゃあ」
そう言う彼にこくりと頷き背中を見送った。
いまだかつてない新鮮な反応。
あんなことを言われたのは初めてで、ただただ茫然と見送るしかなかったけれど。
『おもしろい』
俺は一人こっそりと呟くと、笑みの浮かびそうな口許を隠し、窓の外を見た。
彼にとらわれた俺の判断は間違ってなかった。
そのことに喜びを感じながら。
『他人と関わりたくない』って思いと、
『その瞳に俺を映したい』って思い。
相反する二つの思いが同時に生まれたら、どっちを優先するか。
そんな壁にぶつかった。
彼はとても興味深いひとだと思う。
俺の興味を惹きつけてやまない。
ふとしたときに気になってしまう。
なぜこんなに気になってしまうのか、心惹かれてしまうのか、俺自身にもわからない。
ただ、近くにいたいと思う。
けれど、俺から気さくに話しかけられるわけでもない。
そうやって彼に思考を支配されて、どうすればいいか考えること数日。
はっきり言って勉強どころじゃない。
『どうやって振り向かせようか』
そればかりだから。
そして出した答え。
『振り向かずにはいられない状況を作ればいい』んだ。
元々そこまで他人と関わることが好きではない俺は、休み時間に本を読むのが好きだ。
俺の座席は、窓際の一番後ろ。
今回もとてもくじ運が良かったようで、最高の席を手に入れた。
開け放された窓から、初夏の少しムッとした風が流れてくる。
そんな風を頬に感じながら、短い休み時間を惜しむように、手元のページをめくった。
この賑やかでかしましい教室で、静かに読書をしている人間はある意味異質だろう。
けれど、それが一番目を惹く方法だと思った。
自分から声をかけるのはやはり躊躇いがある。
だからこそ、彼が気にするであろう行動で示してみよう、と。
きっとあの彼ならば、必ずこちらに目を向けるだろうから。
何の根拠もない確信。
けれど、どこかで俺はこの確信は間違っていないと思っている。
そんなことを考えながらまたひとつページをめくったその時。
「何、読んでるの?」
俺の耳に届いた声。
あまり聴き慣れない声にふと本から視線を上げると、彼が居た。
俺の手元をのぞき込むように。
「…本だよ」
俺の答えは短い。
一瞬の戸惑いを隠したかったこともある。
それに、これ以上どんな言葉を続けるのかわからなかったから。
大概の人間はこの返答に『冷たい』と文句を言う。
どう答えてくるだろうと思えば、今まで誰の口からも出たことのない反応。
「ふぅん。読書好きなんだ」
そう言って、また俺の手元をのぞき込んだ。
それからは特に言葉を交わすことなく、予鈴を聞いた。
「じゃあ」
そう言う彼にこくりと頷き背中を見送った。
いまだかつてない新鮮な反応。
あんなことを言われたのは初めてで、ただただ茫然と見送るしかなかったけれど。
『おもしろい』
俺は一人こっそりと呟くと、笑みの浮かびそうな口許を隠し、窓の外を見た。
彼にとらわれた俺の判断は間違ってなかった。
そのことに喜びを感じながら。
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