3 / 48
猫被りの出逢い 《高校1年生》
第3話 逡巡と衝動の交差点
しおりを挟む
〈SIDE: 蒼夜〉
『他人と関わりたくない』って思いと、
『その瞳に俺を映したい』って思い。
相反する二つの思いが同時に生まれたら、どっちを優先するか。
そんな壁にぶつかった。
彼はとても興味深いひとだと思う。
俺の興味を惹きつけてやまない。
ふとしたときに気になってしまう。
なぜこんなに気になってしまうのか、心惹かれてしまうのか、俺自身にもわからない。
ただ、近くにいたいと思う。
けれど、俺から気さくに話しかけられるわけでもない。
そうやって彼に思考を支配されて、どうすればいいか考えること数日。
はっきり言って勉強どころじゃない。
『どうやって振り向かせようか』
そればかりだから。
そして出した答え。
『振り向かずにはいられない状況を作ればいい』んだ。
元々そこまで他人と関わることが好きではない俺は、休み時間に本を読むのが好きだ。
俺の座席は、窓際の一番後ろ。
今回もとてもくじ運が良かったようで、最高の席を手に入れた。
開け放された窓から、初夏の少しムッとした風が流れてくる。
そんな風を頬に感じながら、短い休み時間を惜しむように、手元のページをめくった。
この賑やかでかしましい教室で、静かに読書をしている人間はある意味異質だろう。
けれど、それが一番目を惹く方法だと思った。
自分から声をかけるのはやはり躊躇いがある。
だからこそ、彼が気にするであろう行動で示してみよう、と。
きっとあの彼ならば、必ずこちらに目を向けるだろうから。
何の根拠もない確信。
けれど、どこかで俺はこの確信は間違っていないと思っている。
そんなことを考えながらまたひとつページをめくったその時。
「何、読んでるの?」
俺の耳に届いた声。
あまり聴き慣れない声にふと本から視線を上げると、彼が居た。
俺の手元をのぞき込むように。
「…本だよ」
俺の答えは短い。
一瞬の戸惑いを隠したかったこともある。
それに、これ以上どんな言葉を続けるのかわからなかったから。
大概の人間はこの返答に『冷たい』と文句を言う。
どう答えてくるだろうと思えば、今まで誰の口からも出たことのない反応。
「ふぅん。読書好きなんだ」
そう言って、また俺の手元をのぞき込んだ。
それからは特に言葉を交わすことなく、予鈴を聞いた。
「じゃあ」
そう言う彼にこくりと頷き背中を見送った。
いまだかつてない新鮮な反応。
あんなことを言われたのは初めてで、ただただ茫然と見送るしかなかったけれど。
『おもしろい』
俺は一人こっそりと呟くと、笑みの浮かびそうな口許を隠し、窓の外を見た。
彼にとらわれた俺の判断は間違ってなかった。
そのことに喜びを感じながら。
『他人と関わりたくない』って思いと、
『その瞳に俺を映したい』って思い。
相反する二つの思いが同時に生まれたら、どっちを優先するか。
そんな壁にぶつかった。
彼はとても興味深いひとだと思う。
俺の興味を惹きつけてやまない。
ふとしたときに気になってしまう。
なぜこんなに気になってしまうのか、心惹かれてしまうのか、俺自身にもわからない。
ただ、近くにいたいと思う。
けれど、俺から気さくに話しかけられるわけでもない。
そうやって彼に思考を支配されて、どうすればいいか考えること数日。
はっきり言って勉強どころじゃない。
『どうやって振り向かせようか』
そればかりだから。
そして出した答え。
『振り向かずにはいられない状況を作ればいい』んだ。
元々そこまで他人と関わることが好きではない俺は、休み時間に本を読むのが好きだ。
俺の座席は、窓際の一番後ろ。
今回もとてもくじ運が良かったようで、最高の席を手に入れた。
開け放された窓から、初夏の少しムッとした風が流れてくる。
そんな風を頬に感じながら、短い休み時間を惜しむように、手元のページをめくった。
この賑やかでかしましい教室で、静かに読書をしている人間はある意味異質だろう。
けれど、それが一番目を惹く方法だと思った。
自分から声をかけるのはやはり躊躇いがある。
だからこそ、彼が気にするであろう行動で示してみよう、と。
きっとあの彼ならば、必ずこちらに目を向けるだろうから。
何の根拠もない確信。
けれど、どこかで俺はこの確信は間違っていないと思っている。
そんなことを考えながらまたひとつページをめくったその時。
「何、読んでるの?」
俺の耳に届いた声。
あまり聴き慣れない声にふと本から視線を上げると、彼が居た。
俺の手元をのぞき込むように。
「…本だよ」
俺の答えは短い。
一瞬の戸惑いを隠したかったこともある。
それに、これ以上どんな言葉を続けるのかわからなかったから。
大概の人間はこの返答に『冷たい』と文句を言う。
どう答えてくるだろうと思えば、今まで誰の口からも出たことのない反応。
「ふぅん。読書好きなんだ」
そう言って、また俺の手元をのぞき込んだ。
それからは特に言葉を交わすことなく、予鈴を聞いた。
「じゃあ」
そう言う彼にこくりと頷き背中を見送った。
いまだかつてない新鮮な反応。
あんなことを言われたのは初めてで、ただただ茫然と見送るしかなかったけれど。
『おもしろい』
俺は一人こっそりと呟くと、笑みの浮かびそうな口許を隠し、窓の外を見た。
彼にとらわれた俺の判断は間違ってなかった。
そのことに喜びを感じながら。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
【完結】星影の瞳に映る
只深
BL
高校三年生の夏。
僕たちは出会って一年を迎えた。
夏の大会に向けて腕を上げたいと言う、キラキライケメンヤンチャ系の『星 光(ほし ひかる)』と熟練した技を持ち、精神的にに早熟しながらもふわふわフラフラした性格で陰キャの『影 更夜(かげ こうや)』。
青春の時を過ごしながら、お互いの恋に気づき卒業前に思いを遂げるが、卒業とともに距離が離れて…。
高校生の人としておぼつかない時期の恋愛から大人になって、なおも激しく燃え上がる恋心の行方は…。
一日で書き上げたストーリーです。
何も考えず本能のままの青くさい物語をお楽しみください!
この小説は小説家になろう、アルファポリスに掲載しています。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

アリスの苦難
浅葱 花
BL
主人公、有栖川 紘(アリスガワ ヒロ)
彼は生徒会の庶務だった。
突然壊れた日常。
全校生徒からの繰り返される”制裁”
それでも彼はその事実を受け入れた。
…自分は受けるべき人間だからと。

【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結

父の男
上野たすく
BL
*エブリスタ様にて『重なる』というタイトルで投稿させていただいているお話です。ところどころ、書き直しています。
~主な登場人物~渋谷蛍(しぶや けい)高校二年生・桜井昭弘(さくらい あきひろ)警察官・三十五歳
【あらすじ】実父だと信じていた男、桜井が父の恋人だと知ってから、蛍はずっと、捨てられる恐怖と戦っていた。ある日、桜井と見知らぬ男の情事を目にし、苛立ちから、自分が桜井を好きだと自覚するのだが、桜井は蛍から離れていく。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる