猫被りの恋。

圭理 -keiri-

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猫被りの出逢い 《高校1年生》

第1話 とらわれる

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〈SIDE: 蒼夜〉


あの日。

教室で。


俺は、君に、とらわれた。




















興味を持ったきっかけは、些細なことだった気がする。
ただ、なんとなく、どうしようもなく、


“この人面白そう”


そう感じた。
どこか俺と同類の匂いもしたし。



でも、自分から話し掛けることはできなくて、教室の片隅で目立たないようにしてた。
これ以上目立つのはどうしても避けたかったから。







俺は、氷神蒼夜。15歳。高校一年生。
今年の春から、家から程近いところにあるそこそこ名の知れた進学校に通っている。
顔立ちは、可もなく不可もなく。いわゆる平均的。
学業に関しては、トップとは言えないけどこれでも一応特別進学クラスに在籍している。
率先して規則違反をするような性格でもないし、どちらかといえば面倒なことは避けたいタイプ。
でも、入学して間もないこの高校で、俺はだいぶ悪目立ちしている自覚がある。
それは、俺にはどうにもできないことで。


肩につくくらいの銀色の髪。
生まれてから一度たりとも染めたことがない、天然物の色。
この髪のおかげで、俺はいつも教師から説教される。
『染め直してこい』って。



以前は、そうやって初めから決めつけたような言い方をされることが耐えられなくて、注意されるたびに教師に反発してたこともあったけど…大人は狡猾だ。
そのときの俺の担任は、反発する俺の成績を落としたんだ。
学業成績には一点の曇りもなかったのに。




あまりの理不尽さにショックを受けたけれど、俺の両親は何も言わなかった。
もともと学校の成績なんて気にしてないし、勉強よりも生活態度が大事だって言うような親だから。




でも、父さんの親や兄弟は黙っていてくれなかった。
《神童》なんてもてはやされるほど異常なまでに優秀だった俺の父さん。
そんな父さんを溺愛していた彼らは、俺の成績を見て一言…




『やっぱり貴方はお母さんの子ね…』





そう言った。
まだ子どもだった俺にも、その言葉の意味くらいは容易く理解出来た。
同時に、俺は目の前が真っ暗になって、心の中に怒りしか浮かばなかった。


目の前でさも可哀想にと言いたげにため息をつくこの下衆な奴らを黙らせたい。
こんな奴らになんで俺の母親が馬鹿にされなくちゃいけないのか。
悔しくて悔しくて、握り締めた拳の中で、掌に爪が食い込んでいた。




そう。
俺は、彼らが包み隠したことを正しく理解してしまった。
理解できてしまったんだ。
おそらく俺の育った環境ゆえに。


大人しか居ない世界。
大人だけの世界。


兄弟や年の近い親戚が居ない俺にとって、大人はごく当たり前の話し相手で。
俺と話すからと言って子どもに対する扱いはしなかった。


大人と同じ。
ほんの少しだけ甘く、寛大に見てくれるだけ。



だから俺はあの言葉の意味にたどり着いてしまったんだ。
そして、それ同時に頭の中がスッと冷えた。


言葉としては外に出さない。
たとえ言葉にして反論しても、所詮子ども。敵うはずがない。


だから閉じ込めた。
でもこれを機に、俺の中で何かが変わっていったのは確かだ。






それから俺は、『猫を被る』ことで、俺自身が背負うマイナスを全てプラスに変えた。

非の打ち所のない『優等生』ならば、例えこんな悪目立ちしかしない銀髪であっても誰も気にしない。
敵を作らず、かと言って流されるわけではなく。
すべきことを『完璧に』こなしていれば、周りは勝手なイメージを持ってくれる。
そのイメージが俺を守る武器になる、と気付いたから。


他人を信じることが当たり前だと思っていた純粋な頃の面影なんてもうどこにもない。
あの幼い日に裏切られ、傷つけられた俺は、他人を信じることをやめた。
“感情”は薄れ、そのかわり偽物の自分が大きくなる。

作り物の笑顔。
作り物の自分。

人の目に触れる『俺』はいつも作り物で。
大人にさえも気付かれないように。
子どもらしい溌剌さや純粋さはとうに消え失せ、ひどく大人びた子どもになった。
そして俺はいつしか同年代の子どもと交われなくなっていた。




俺を見る同年代の子どもの目はまるで異物を見るようで。
『優等生』という仮面が、彼らを俺に近づかせなかった。
でもそれは決してつらいことではなく、むしろちょうど良かった。

『他人と接しなくていい』のだから。



長い時間をかけて、『猫を被る』という行為は意識せずに出来るようになっていた。
『学校』という空間に入ってしまえば、『俺』は俺でなくなる。

そこは『優等生』の『俺』の生きる世界。


ずっと、ずっと、変わらないこと。
そうやって高校生活が始まった俺。
だから、同じ匂いのする人間を見つけたときは本当に驚いた。
思わず緩みそうになる口許を押さえて、何でもない風に装う。




『今はまだ何でもないさ…』




そう。
今はまだ何でもない。
だって俺はまだ君を知らないから。
君が信用にたる人物なのか、それともあの忌まわしい奴らと同じく裏切り者なのか。
今わかるのは、視線の先の君が、とても真面目な横顔で数学の問題に向き合っていると言うことだけ。

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