24 / 26
本編
20. unconditional love / Ayagi
しおりを挟む最初は、なんで助けたんだって思った。
おれはいらない子だから。
あのまま死神に殺されてよかったのにって。
それならなんで逃げ回ってたのか、って言われちゃうけど。
悠祈って名乗るその人は、人間離れした綺麗な人だ。
銀色の長い髪の毛が風に揺られてた。
心配そうに覗き込む深い緑色の瞳は、月明かりが反射してキラキラしてみえた。
こんな綺麗な人間がいたのかって驚いた。
そうこうしてるうちに、なぜか手を取られて、よくわからないけどすごく立派なお屋敷に連れていかれた。
そこで出会ったのがウィンさん。
はちみつ色の髪の毛をふたつ縛りにして、青いエプロンをしてる人。
ふたりはおれに何も聞かなかった。
どうしてあそこにいたのか、とか
なんで死神に狙われてたのか、とか
家族のところに帰るように、とか
少ししてから1度だけ、悠祈さんが
「ここに居ることだけは、伝えておいた方がいいよ」
と言って手紙を送る術式を渡してくれた。
ここに拾われてからの生活は、いままでと全然違ってた。
あったかいご飯が食べれる
ひとりじゃない
話し相手がいる
おはよう、おやすみって言ってくれる人がいる
おれをいらない子って言う人がいない
なんだかすごくポカポカした気持ちになった。
でも素直になるにはおれはひねくれてて、どうしても悠祈さんやウィンさんの優しさに応えられなかった。
拾われて、親に連絡をして、2週間以上。
やっぱりおれはいらない子だった。
父親からは「勝手にしろ」の一言だけ。
愛されてないのも、必要とされてないのもわかっていたけど、やっぱり気持ちは落ち着かなくて。
無関心な親とは正反対に、おれがここで拾われてることを知った兄弟姉妹からは、いやというほど手紙が来た。
「あんたを拾ったその人は、あんたを利用してウチに取り入ろうとしてるだけ」
「あんたの利用価値がゼロって分かったら捨てられる」
「お父様からの手紙を早くその人に見せて、捨てられろ」
「あんたみたいなの拾う人なんていない」
「騙されてかわいそう」
「捨てられても帰ってこないでね」
「あんたの部屋なんてもうないわよ」
叫び出したくなるほどむかつく手紙の数々。
いらない子だって分かってたけど、ここまで言われるとは思わなかった。
でも、長年言われ続けてた言葉はおれにとっては呪いみたいなもので…
だんだん不安になってきたんだ
悠祈さんやウィンさんに捨てられたらどうしよう…って
だからおれは、逃げ出した。
このぬるま湯みたいに温かくて優しい世界から。
そしたら、あの死神に出会ったんだ。
深緑の髪をゆるくしばった、あの変態そうな死神に。
おれを見るなり蛇みたいにすっと目を細めて、すごく楽しそうにこっちを見て。
まるでおれの心が見えるみたいに、「そんなにだれも信じられないなら死んじゃえばいいのに」って笑った。
でもそれが怖かった。
その目がすごく怖くて、後ずさった。
怯えるおれをみて、ますます目を細めたそいつは、「死神にするのも悪くない」とまで言い出して。
背筋がゾクリとして、「死神になんてならない」と虚勢をはった。
そんなの全部お見通しだ、みたいに笑うそいつが死神の鎌を振り上げても、おれはもう動けなかった。
怖くて目をつぶってしまう。
ああ、もう死ぬんだな
逃げ出してきちゃったけど、悠祈さんたちに謝りたかったな
そんなことぼんやり考えてた。
それなのに…
「悪いけど、この子は渡せないよ」
目の前には真っ白な背中。
風に煽られる銀色。
死神の鎌を剣で受け止めるその人。
死神とやりとりしてる背中をただ呆然と見つめていたら、肩にそっと柔らかな物がかけられて。
視線を向けたらそこには…優しく笑うウィンさんがいた。
ふたりが来てくれた。
おれが自分勝手に逃げ出したのに。
また、おれを助けてくれた。
もう死ぬかもって諦めかけたのに。
「帰ろう」って言ってくれた。
いままで誰にも言われなかったのに。
悠祈さんの屋敷に戻ってから暫くして特訓が始まった。
おれの霊力がダダ漏れだから、コントロールできるようになるために。
それといろんな知識を身につけるために。
先生役は悠祈さんをはじめとした屋敷の人たちだった。
悠祈さんとの訓練では容赦なく叩きのめされては泥のように眠る日々。
それでも初めて誰かに認められたようで、学ぶことが楽しくて仕方なかった。
そんなあるとき、悠祈さんがぽつりと聞いてきた。
「家に帰りたいか」と。
おれは静かに首を横に振った。
あそこはおれにとって帰りたい場所じゃなかったから。
悠祈さんは静かに「そっか」とだけ返して、それで話は終わった。
その会話からしばらくして。
おれはノルベルト家の籍をぬけて、悠祈さんの保護下に入ることになった。
あの無関心な両親や底意地の悪い兄弟姉妹とどんなやりとりをしたのかはわからない。
ただ、ある日、どこかからか帰ってきた悠祈さんが、玄関先でおれを抱きしめて言ったんだ。
「今日からはここが正真正銘、綾祇くんの帰ってくる家だよ」と。
驚いて見上げた先には、暖かい春の陽射しみたいな深緑。
それからウィンさんが抱きしめてくれて。
エノクさんはガシガシと頭を撫でてくれて。
エリヤさんは優しく「よかったですね」と声をかけてくれて。
悠祈さんの使い魔のイヴは、おれの頭の上に花びらをいっぱい撒いてて。
潤んだ目を見られたくなくて、ウィンさんに顔を押し付けた。
それから一年近く。
おれは、この屋敷の住人として過ごしてる。
悠祈さんはおれの保護者。
でも父親というには若すぎるから、心の中では兄だと思ってる。
さすがに恥ずかしくて本人には言えないけど…。
一緒に生活してみて分かったことがたくさんある。
この屋敷に住んでる人はみんな個性的で面白い。
家令のエリヤさんは、とても優秀な人。
穏やかで優しくて丁寧に話してくれるけど、怒らせるとすごく怖い。
ウィンさんやエノクさんはよく叱られてる。
悠祈さんもたまに。
側近のエノクさんは、エリヤさんの双子の兄だけど、エリヤさんに弱い。
でも気さくに話してくれる。
剣の腕が立つから、時々稽古してもらってる。
ウィンさんは、とにかく料理が美味い。
なにを作ってもおいしい。
みんなのお母さんみたいな人。
それなのに、一度死んでて、今は悠祈さんの力で精霊になれてるんだって。
イヴはいつも元気に飛び回ってる使い魔。
きいたところによると、古代竜ですごく強いらしい。
ふだんはオレンジ色の小さい羽付きトカゲって感じで可愛いのに。
それから、悠祈さん。
おれを助けてくれた、おれの兄のような人。
上手く言えないけど、とにかく綺麗で、凛としてて、穏やかで、強いひと。
おれが14年間一度ももらえなかったものを、毎日たくさんくれる人たち。
おれにとっての本当の『家族』。
今はまだ照れ臭くて言えないけど、いつかちゃんと声に出して伝えたい。
おれの帰る場所はここなんだって。
おれの家族はここにいるんだって。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる