懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
656 / 701

第655話 私達は止まらないわ

しおりを挟む
『本日の文化祭は終了です。片付けを済ませた各クラスの生徒は担任の先生に報告後、帰宅してください』

 生徒会副会長である辻丘によるその放送が鳴る頃には生徒達は校舎から出て行く所だった。

「よう、佐久真。お仕事お疲れさん」
「ああ、ありがとう」

 風紀委員長の佐久真は腕章を外して仕舞いながら、帰りの支度を整えると鞄を持った所でクラスメイトから声をかけられた。

「これから文化祭の打ち上げに行くんだけどよ。お前も来るよな?」
「誘ってくれるのは嬉しいが……俺は風紀委員の仕事ばかりで、店はあまり手伝えなかった。文化祭の話題にはあまりついて行けないんだが……」
「いやいや。そんな事はねぇよ。なぁ? 皆」

 と、クラスメイトの後ろにズラッと集まる男子生徒は、うんうん、と頷く。

「それに明日が最終日だろう? 別に打ち上げは明日でも良くないか?」
「佐久真君よ~、俺達には早めにお前と話さなきゃ行けない事があるんだ」
「ここでは駄目か?」
「ああ。男の友情を深める意味でもカラオケにでも行って話そうや」
「別に構わんが……俺は校歌と君が代しか歌えんぞ?」
「それはそれで面白い気もするが……とにかく行こうぜ」

 佐久真がクラスの男子に連行される様を、あっ、と見ていた暮石は声を上げる。

 京平君、行っちゃった……。
 しまったなぁ。一緒に帰ろうって先に約束してれば良かった。良くも悪くも、彼にとっては約束毎を飛ばす真似はしない。今からでもダメ元でLINEに連絡してみようかなぁ……

「暮石さん」

 そんな暮石にもクラスメイトから声がかかる。ズラッと並ぶ女子軍団だ。

「どうしたの? 皆。あ、私が家庭科室を占領した件……本当にごめんね」

 暮石は自分が家庭科室に私情で立て籠った件で迷惑をかけたと考えた。

「アレは気にしてないわ。寧ろ、完璧なサポートで仕事はしやすかった部類だし。ね?」

 後ろの女子達もその意見にウンウンと頷く。

「今回はね、打ち上げに行こうかと思ってね。暮石さんも一緒にどう?」
「え? あ……うん。良いけど……」

 ちらっと佐久真を見るが、こちらには気にかける様子無く男子の群れと共に教室を出て行った。

「暮石さん」
「ん? あ、ごめん。行こう――」
「詳しく聞かせてね? 佐久真君とのLOVEを!」

 その言葉にクラスメイト達の眼が光った。それは飢えた狼が生肉を見つけた時のモノに近い。
 あ、これ……ヤバいヤツだ。

「あー! 私、やっぱり今日は! 無理ーだったかもー」
「暮石さん」

 両脇を他のクラスメイトにがっちり抑えられる。

「例え、この場に総理大臣が来ても私達は止まらないわ。うふふ」
「わーん」

 死ぬほど恥ずかしい事を聞かれると察した暮石は半泣きのままファミレスへ連行された。





「ふむ。ふむふむ。多くの者達の事情がこの日の文化祭では動いた様だ。基本的には最終日に起こるラッシュアワーだと僕は思っていたのだがね。君達はどう思う?」
「人のクラスの前で待ち伏せして、唐突になんだ?」
「……」

 大宮司と鬼灯は鞄を持ってクラスを出ると、やぁ、と待ち構えていた本郷を見る。

「連れないなぁ。校門を出るまで話をしたいと思うのは君にとって悪い事なのかい?」
「やれやれ」
「占い部はお客さん来たの?」
「それなりにね」

 本郷と論争しても勝てない大宮司は早々に諦め、鬼灯は文化祭での成果を尋ねる。
 三人は下駄箱を目指しつつ会話を始めた。

「やはり、人間とは面白いモノだね。多くの交わりがあればある程、周りに与える雰囲気は変わってくる様だ」
「そりゃあな」
「そうかしら?」
「そうだとも、鬼灯君。君も彼氏と出会ってから普段とは違う日々を感じてたりはしないのかい?」
「しないわ」
「無機質に即答かよ……」

 ノリ……鬼灯は相当曲者だぞ。

「ふふ。いやいや、鬼灯君は変わったよ。より親しみ易い方にね」
「自覚は無いわ」
「自分では中々気づけないからね。大宮司君もそうだよ?」
「……俺もか?」
「うん。立ち方にちょっとグラつきがある。意を決した決断に対して心は受け止めても身体はそうは行ってないみたいだね」
「なんでそんな事がわかるんだよ……」

 本郷には自分でさえ気づけない部分も隅から隅まで見透かされそうだと、大宮司はげんなりする。

「仕方の無い事さ。それでも大きくブレ無いのは大宮司君の持つ“強さ”なのかもね。実に羨ましいよ」
「本郷に羨ましがられる要素は何も無いんだが?」
「ふふ。僕も下段突きでコンクリートを砕きたいのさ。しかし、残念ながら。筋肉が付きづらい体質の僕には儚い夢だけどね」

 だから人を見極める眼を育てたのさ、と本郷は語る。
 お前にフィジカルまで乗ったら手がつけられねぇよ、と大宮司は心の中で突っ込みを入れた。

「もしも、僕に君と同じくらいの腕っぷしがあったら、君を助けられたかな?」
「……心配してくれた人は皆そう言う。いや……言ってくれる」

 祖父、父、母、弟、姉弟子、親友。誰もが口を揃えて、何で助けを求めなかった? と事が終わってから咎められた。

「私は言わなかったわ」
「そりゃ……鬼灯は完全に無関係だからな」

 謹慎中にノートを貸して貰わなければ鬼灯との接点は殆んど無いままに学生生活は過ぎ去っていただろう。

「だから、今度は抱えすぎない様にしてる。今日はその一歩だ」
「ダメージは思ったよりも大きそうだけどね」
「望んだ結果からズレたら誰だってこうなるだろ……」

 下駄箱にたどり着いた三人は靴を履き替える。

「唐突に正直を言うとね、大宮司君。僕は君が羨ましい」
「本当に唐突だな。けどな、身体能力の事ならあんまり気にしなくていいぞ」
「ほぅ。何故だい?」

 靴を履き替えた大宮司を本郷は見る。

「世の中には俺なんかよりも、力も弱くて体格も小さくても、一つの事に対して決して曲げずに貫き通す人が沢山いるからな」
「そうかしら?」
「鬼灯……お前もその内の一人だよ」
「ありがとう」

 と、靴を履き替えた鬼灯はピロンと鳴ったLINEを見る。

「ごめんなさい。先に行くわ」

 そう行って、二人の返答を聞かずに少し走り出すと、校門を前に違う高校の男子生徒へ駆け寄った。

“来たの?”
“腹痛ぇって早退した”
“ケイさんにまた怒られるわよ”
“姉貴よりもお前の方が優先さ。それで、お姉さんとはどうだった?”
“結果はLINEで伝えるつもりだったわ”
“とか言って。小走りに来るくらいだ。俺が来て嬉しかったんじゃない?”
“ええ。嬉しかったわ”
“正直なのは良いが……相変わらず淡々とトーンが変わんねぇな……”
“そうかしら?”

 他の生徒が注目する中、鬼灯を迎えに来た“彼氏”は大宮司に、じゃあな、とアイコンタクトを送って共に帰って行った。

「皆の疑問が一気に解けたね」

 鬼灯に彼氏が、いる? いない? ここ数日に上がった学校の話題の一つが今判明した。

 鬼灯未来に彼氏は居る。
 金髪の不良じみたチャラ男。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※続編がスタートしました!(2025.2.8)  ※1日1話ずつ公開していく予定です。  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

処理中です...