懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第590話 文化祭一日目終了

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『今の時間を持ちまして、文化祭一日目を終わります。皆さん、お疲れ様でした。各自、片付けと戸締まりをしっかりとして、明日に備えてください。特に火を扱ったクラスは担任の先生にも確認を――』

 いつもの最終限の終わりを告げるチャイムが響くと同時に副会長の辻丘の放送で文化祭一日目が終了した。

「意外と盛況だったわね。私たちの店」
「やっぱり、皆。メイド好きなのかな?」

 その他クラス女子と混ざって制服に着替えるヒカリとリンカは何気なく、一日を振り返る。

「無条件の奉仕! それは……どんなに人間でも悪いとは思わないわ!!」

 会話する二人に水間が、わっ! と割り込む。
 ショウコの極光に当てられてメルトダウンしていた様子から立ち直り、悟った様子だ。

「おおお……力が溢れるぅ……これが覚醒者の感覚! 谷高さん! 今なら貴女に勝てるわ!」
「勘弁してよ」
「そう言えば水間さん。なんか、意図しないイベントが発生して沖合君と色々あったって聞いてるけど」

 リンカがそう聞くと、水間は映像の『停止』ボタンを押した様にピタリと止まる。
 そして、みるみる顔が赤くなっていくと、しまいには、プシュー! と湯気を頭から吹き出した。

「あ、いや……別に……沖合君とは……うん……な、何も無かったわ! 無かった! なかった!」
「へー」

 にやり、とヒカリは感づいた。と言うよりもバレバレの反応に誰もが何かあったと察する。

「谷高さん……何を笑って居るのかしらっ!?」
「別にー、水間さんも乙女だったんだーってさ」
「ぬぬぬ! このジャンルでも先に行かれているとは!」

 張り合い方がどんどん変な方向に行ってるなぁ、とリンカは二人の様子を見ながらシャツに袖を通す。

「明日……明日だ。頑張らなきゃ」
「徳道さん」
「ひゃい!」

 一人集中していた徳道は、リンカに唐突に声をかけられて猫のように反応する。

「大宮司先輩と話せた?」
「あ……うん。凄く緊張したけど、谷高さんが割って入ってくれて……」
「ヒカリってお節介だからねー」

 親友は昔から知らない事に対して自分から積極的に関わって行く性格だ。
 居心地が悪いなら、自らで整地する事も厭わない行動力。あまり自分から進んで何かをやろうと思わない、あたしからすればとても眩しく映る。

「鮫島さんは……安心感があると思う」
「そう?」
「近くにいると……ほっとするから」

 徳道さんにそう言われるも、あまり自覚が無い。けど、良い雰囲気を与えているのなら幸いだ。

「なら、徳道さんは自分に厳しいよね」
「そ、そうかな……」
「うん。だって苦手な事を克服しようだなんで、普通は考えないよ」

 彼女は大宮司先輩との関係を修復した。度々、向かい合うだけで意識を持っていかれる対面を自らの意志で乗り越えるなど、普通は出来ない事だ。

「徳道さんって、実は両親は相当な実力者だったりする?」
「ええ!? 無い無い! お父――父と母は普通のサラリーマンと主婦だよ。でも……殆ど怒らないから。弟も居るし、しっかりしないとって反動かなぁ」
「弟さんいるんだ?」
「うん。二歳下で野球やってるよ」

 ふむ。徳道家は喧騒とは無縁に近い、ほがらかな家庭らしい。やっぱり、年下の妹弟がいると目上はしっかりしてくるのだろう。
 あたしの場合は、お母さんを支えたいって思いから今の自分がある。後、リードの離れた犬の様に落ち着きの無いお隣さんを見てきた事もあるかな。

「谷高さん! それなら手っ取り早くジャンケンよ!」
「はい、じゃんけん、ポン」
「ポン! ぐおっ! 負け……た!? 徳が……足りないっ!」
「リンー、帰ろー」
「うん」

 あたしは徳道さんに、また明日、と告げて、片手間で運の強さを見せつけたヒカリと共に帰路についた。





「それじゃ、鬼灯さん。先に帰るねー」
「ええ。また明日」

 三学年の『制服喫茶』も店じまいを進めていた。とは言ってもやることは在庫のチェックと清掃に洗い物くらいだ。

「…………」

 明日……姉さんが来る。父さんに姉の住んでるマンションの場所を聞いて、手紙と一緒に投函した。
 するとLINEに、明日来る旨のメッセージが入ったのだ。

「…………」
「鬼灯。在庫は明日は問題ないが明後日様に少し補充が要るかもしれん」

 少し思いにふけっていた所にへ、在庫状況を確認してた大宮司が結果を報告する。
 鬼灯は、パッと切り替えた。

「そうね。後半は少し客足が予想を越えたわ。大宮司君、イベントで何かやったの?」
「話した通りだよ。スペシャルゲストと組手やっただけだ。まぁ、遠山のお節介もあったけどな」
「来客した生徒は貴方を見る目が変わっていたわ。相当に『厄祓いの儀』が効いたようね」
「まぁ……そうかもしれんな」

 ほい、とリストを手渡す大宮司は鞄を担ぎ教室を後にする。

「大宮司君」
「なんだ?」
「エプロンは脱いで帰った方が良いわ」





「皆、お疲れ様! 明日もこの調子で行こうぜ!」

 2学年の『偉人カフェ』では、出店を取り仕切るクラスリーダーが最後にそう告げて皆は帰宅の流れになる。

「暮石さん、これから予定ある? 皆で『ノータイム』に行こうって話しててさ」
「あ、ごめんね。今日は別の用事が入ってて。でも、文化祭の打ち上げには顔を出すよ」
「わかったわ」

 暮石はそう言って教室を出る。他のクラスも終わった様子で廊下は人で溢れていた。

「――――」

 唐突に、ザザザ……とノイズが走るように過去の事故が頭を過る。

「暮石」
「佐久真君」

 呑まれそうになった時、佐久真の声が平和な目の前に引き戻してくれた。

「いつも、良いタイミングだね」
「……明日だろ?」
「うん。明日」

“良いか、お嬢ちゃん! 振り返らず、真っ直ぐだ! 真っ直ぐ走れ! 大丈夫だ! マジカルリリリが必ず護ってくれる!”

 崩れる続ける通路の瓦礫に足を録られたレスキュー隊員の声が、今でも背中へ聞こえてくる様な気がする。

「……ちゃんと伝えられるかな?」
「お前は全人類と会話する事を目標にしてるんだろ? 自分の事で日和ってたら足踏みするぞ」
「うん。私の目標は、Dr.ドリ○ルだよ!」
「そこまで行ったらお前に怖いものは無いな」

 昔見た、動物と話す映画の主人公に憧れた暮石愛は今でも純粋にその道を追い求める乙女だった。
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