懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第553話 調子が良いくらいだ

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 二階のPC室に全員で移動する。
 この部屋は『ハロウィンズ』日本支部に置いての心臓部のようなモノで、サマーちゃんが指揮を取る事で、他人のスマホにエロ動画を強制的に流させたりも出来るのだ。(一番恐ろしい)

「以上がオレの過去と、これから起こり得る可能性なんだ……」

 オレは過去を一通り話した。
 ジジィによって消された『ウォータードロップ号』の事件。その全容と、未だに『フェニックス』を宿した唯一の生存者である事。
 そして、サマーちゃんにUSBを開いてもらい、父さんの日誌がその証拠である事で事態を認識してもらった。

「ショウコさん。オレはずっと……黙ってた。君を一番危険に晒しているのはオレだったんだ。本当にごめん」

 謝って済む問題ではない事はわかっている。責任を求められれば可能な限り応じるつもりだった。
 それが、今まで見て見ぬフリをしてきたオレの代償だと思っている。

「正直な所……にわかに信じられない」

 ショウコさんは事態の重さをあまり実感出来ない様子だった。
 それもそうだ。この危険性を考える様になったのはオレでも最近なのだ。そして、『ウォータードロップ号』の経験を直にしなければ恐ろしさも伝わらないだろう。

「ふむ……では諸君、わしはあらゆる要素を加味して『フェニックス』の情報は真実である断言する。その上で、皆がどう思っているのかを問う」
「ワタシはモチロンDIEデース。許される事ではありまセーン」
「くふふ。拙僧はミツに同意ですねぇ。思った以上にやってくれました」
「ホントさ、マジふざけんなって感じだよね。置き残ししていくなんてさ」
「思った以上、に! 許される事では、ない!」
「皆の意見にわしも同意じゃ」
「…………」

 やっぱり許される事じゃなかった。でも、この命はオレだけのモノじゃない。ソレを差し出す事だけは避けたい。

「皆……本当にごめん」

 皆の顔を見る事が出来ない。オレは涙ぐんで再度謝った。

「ケンゴさん。何故貴方が謝る?」
「……え?」

 ショウコさんの言葉にオレは顔を上げる。

「フェニックスよ、勘違いするな! わしらが怒っているのは『ジーニアス』に対してじゃ!」

 サマーちゃんは椅子に胡座を掻いて座り、腕を組むと、バァン! と言い放つ。

「あのカスゴミ共、昔からゴキブリみたいにちょこちょこやってたみたいデース。残党の処理も最優先で進めねばなりまセーン」

 ガリアさんはオレに向けた殺意以上の感情をこの場には居ない敵に向けている。

「『ジーニアス』ってマジで地球の癌だよね。ホント、何考えてるのか解ったモンじゃない。やっぱアイツら皆殺しだわ」

 物騒な事を言うビクトリアさんだが、『フェニックス』の件を何よりも怒ってくれていた。

「くふふ。奴らが居ますと社会の秩序が乱れますからねぇ」

 レツも過去を思い出す様に珍しく険しい表情をする。

「ここまで……人を苦しめるか! 小生も……共感できるぞ! 鳳ど、の!」

 若干、素に戻っていたテツは、思い出した様にキャラを作り直す。

「ケンゴさん。私は『フェニックス』がどれ程恐ろしいのか解らないし、その危険性も理解できない。でも貴方が長い間、苦しんで居た事だけは解る」

 と、ショウコさんはオレの手に優しく手を重ねて、目を合わせる。

「正直に話してくれてありがとう。私はこんな事で貴方を拒絶したりしない」

 皆の言葉にオレは思わず泣いてしまった。
 軽蔑されるかと思ったし、罵倒されて追い出される事も覚悟していた。
 けど、皆は真実を受け止めてくれた上でオレを受け入れてくれたのだ。

「……皆……ありがとう」





「ケンゴさん。本当に食べて行かないのか?」
「うん。これから偉い人も来るんでしょ? オレが居ると落ち着かないと思ってさ」

 『フェニックス』の調査は『ハロウィンズ』に任せて、オレは帰ることにした。
 丁度、組織のトップが来るそうなので、変に場を混乱させるよりも、サマーちゃんからまとめて話して貰う方が良いだろう。

「……ケンゴさん。不幸中の幸いとはいえ、私は貴方の事をより知る機会を得られた事を嬉しく思う」
「でも……それが命に関わる事だし……こんな事でもなければ話さなかったと思うし」

 知って欲しくて話したワケではない。話さなければならなかったと言う事をショウコさんには知ってて欲しかった。

「気にする事はない。今は身体に何も支障はないしな。勧められたラジオ体操を始めた事もあって調子が良いくらいだ」

 ふんす、と両腕を上げるショウコさん。それは多分、ラジオ体操の効果が十割だね。気を使ってくれた事にオレは微笑みを返す。

「私は貴方には助けられてばかりだった。もし、この件でケンゴさんがどこにも行けなくなった時、遠慮なく私を頼ってくれ」
「ありがと。でも、この件はあんまり広めない様にしてくれる?」

 『ハロウィンズ』は世間に出すべき情報でないと理解しているだろうけど、ショウコさんに関してはきちんと釘を差しておかないと、淡々と暴露しかねない。

「わかってる。何よりもケンゴさんの過去も関わってくるのだから、しっかり守っていくつもりだ」
「なんか、段々ショウコさんには頭が上がらなくなって来たなぁ」

 それは良い事なのかもしれない。何て言うか……オレって尻に敷かれ属性ある気がする。何にせよ、サマーちゃんから呼び出しが無い限りは極力『ハロウィンズ』には近づかない方が良さそうだ。

「ケンゴさん」
「ん? 何――う!?」

 靴を履いて振り返ると、ショウコさんがネクタイを掴んで顔を強制的に近づけ、キスをしてきた。
 あまりに素早すぎる動きに抵抗する間もなく、通算三回目のキスをショウコさんと交わす。

「私は何も気にしない。これが証拠だ」
「あ、うん……はい……」

 びっくりしたぁ……ショウコさんって脊髄反射で行動するトコあるよね。
 淡々とした口調だが、ショウコさんの顔は少しだけ赤い。
 オレはショウコさんに改めて別れの挨拶をすると『ハロウィンズ』日本支部を後にした。

 すると、入れ違う様に乗用車が通過すると家の前で停止した。
 マザーの到着かな? 顔を会わせるのはまたの機会になりそうだ。
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