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第537話 鬼灯家の仕事
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俺はそのまま、自宅にある鬼灯さんの仕事部屋へ案内された。
その仕事部屋には四つのデスクが用意されており、PCにペンタブなどが置かれている。それを見て、俺は即座に鬼灯さんの職業がわかった。
「こっちの席に座って。急にリテイクが入ってね。今日はアシスタントは皆休みで少し困ってたんだ」
俺は上座の席に座る鬼灯さんに一番近い席に座る。彼は漫画家だった。デスクには一昨日に鬼灯が取ったユニコ君(クリスマスver)が置かれていた。
「流石に経験は無いよね?」
「はい。ですが、説明してくれれば出来ると思います」
「そうかい? 頼もしい限りだ」
一通りのPCと仕事内容の説明を受けて、俺はいざ作業を開始する。
「わからない所があったらその時に聞いてくれるかい? わからないまま進まれるとこっちが困る」
「はい」
全くの予想外……しかし、やるしかない! 俺が髪染めの不良でない事を証明せねば!
「はい。今簡単な修正案を作ってる所です」
鬼灯さんは作業の途中でかかってきたスマホて会話を始めた。おそらく相手は漫画の担当者。休みだと思ってる所に仕事の連絡が入ると本当に大変だと思う。
「はい」
すると、鬼灯がお茶を持ってきてくれた。出し方が妙に板についているので、普段からやっている事なのだろう。
「ありがと」
「そんなに真面目にやらなくても良いわ」
「俺は優柔不断に見えるかもしれないけどさ。一度始めた事を適当に放り出す事はしないよ」
生真面目な親父や姉貴を間近で見てきたからか、俺の本質もソレと同じだ。
「鬼灯の事も同じだよ。だから気にすんな」
「そう」
その“そう”は若干感情が乗っていた気がする。本当に“気がする”レベルなので、彼女の本心を読み取るのにはまだまだ付き合いが必要か。
「……それにしても――」
鬼灯と会話をした所で状況に余裕が出来たのか、改めて任されている漫画のラフ画を見ると――
「え? これって……カディア? ってことは……まさか」
俺は見覚えのあるキャラクターを見て自分が何を触っているのかを認識した。
それは、大手のウェブ漫画サイトにて連載されている漫画の一つ、『雪原のエレストーレ』だった。
『雪原のエレストーレ』。
その世界では科学と魔法の両方が存在するが両者は思想の違いにより対立。
自然崇拝主義を主にする『魔術連盟』と、魔術を持たない者達が生きる為に編み出された『科学連合』の二勢力は北と南に本拠点を置き、両勢力は巨大な雪原を挟んで互いに不干渉だった。
ある日『魔術連盟』は『科学連合』の土地である北の大地を襲撃。それに対して報復行動が起こり大規模な戦争へと発展する。
そんな俗世の事を知らずに雪原で日々を過ごす青年カディアは、雪原に廃棄されていたロボット『エレストーレ』を修理しつつ、北から逃げてきた妖精のアニスと出会った事で、世界の命運を分ける戦争に巻き込まれて行くと言う話だ。
昨今多い、異世界モノであるが、転生やチート要素はほぼ無く、ヒューマンドラマや、科学と魔法における各々の価値観を描いた物語に一部の人間は引き込まれている。
俺もその内の一人だ。
「原作は別だけど……作画は鬼灯の親父さんが担当してたのか」
作画のペンネームは“鬼暮灯”。
明らかに偽名っぽいペンネームだが、当人を知っていれば名字から取ったのだとすぐにわかる。
「ロボットや人外にファンタジーの背景も必要だから色々と手を出してた父に声をかけてもらったの」
「そうなのか?」
「昔は大きな連載を当てた事があったけどね」
と、電話を終えた鬼灯さんが俺と鬼灯の会話に割り込む。
「一度連載が終わると、始めた当時よりも時代の旬となるモノの移り変わりは激しい。当時の感性で止まっている連載作家は、長期の連載を終えると次の波に乗るのが中々難しくてね」
「……ちなみにどの作品を?」
「む! 僕の作品を知らないのかい!?」
「すいません!」
「お父さん。それは無理があるわ」
鬼灯のカバーに、それもそうだよね、と鬼灯さんは冗談である様子で六年近く連載していた自身の漫画の事を色々と語ってくれた。
「アニメと映画化もしたからね。悪くない出来だと思うから見てみてよ。僕が直接監修して、漫画と殆んど差はない風に仕上げてるから」
「はい」
「それにしても『雪原のエレストーレ』は、まだ1話目が始まったばかりなのによく知ってたね」
「ウェブだとサイトを開くと話題作は正面に出てくるんですよ。それでポチって読んだら中々面白くて」
「中々かい?」
「凄く! 面白くて!」
「はっはっは。まぁ原作ありきではあるからね。原作は小説とはいえ、その魅力を理解して文面を絵に起こし、形にすると言う事は一朝一夕には行かない」
漫画を読んでいる読者からすれば、その背後で苦労しながら作っている者達の事はあまり考えないだろう。
「今も競争が激しい業界で更に評価をするのは身内ではなく赤の他人だ。僅かな違和感に、批判やツッコミが入り、ソレを頭に置いて修正しつつ次話を見てもらい、続けられるかどうかを編集が判断するのさ。特に原作者が別だと双方からの同意がいるからね」
一話目を出す時は何度もリテイクしたよ。
と、鬼灯さんは軽く語るが、こうして休日にも連絡が来る程に大変な仕事で、そんな人達の苦労の果てに俺たちの様な読者が楽しめる漫画が生み出されている。そう思うと――
「ありがとうございます」
「ん?」
「あ、なんか……反射的にそんな言葉が」
俺の純粋な反応に鬼灯さんは嬉しそうに微笑んでくれた。やっぱり、父娘だ。笑顔は鬼灯とそっくりである。
「ありがとう。そう言って貰えると僕も頑張ろうって気になるよ」
よし、棚からぼた餅風だが、良い印象を与えられたな! 作業に戻るとしよう。
「七海君。そこは設定を変えると良いわ」
「鬼灯もやった事はあるのか?」
「昔から父の影響でイラストを描いてて、たまに手伝いをしているの」
なるほど。鬼灯のメルヘンノートは親父さんの影響か。
「じゃあ色々と教えてくれ」
「いいわよ。ここは層を分けて――」
鬼灯の助けもあって、2時間程度で作業は完了した。
その仕事部屋には四つのデスクが用意されており、PCにペンタブなどが置かれている。それを見て、俺は即座に鬼灯さんの職業がわかった。
「こっちの席に座って。急にリテイクが入ってね。今日はアシスタントは皆休みで少し困ってたんだ」
俺は上座の席に座る鬼灯さんに一番近い席に座る。彼は漫画家だった。デスクには一昨日に鬼灯が取ったユニコ君(クリスマスver)が置かれていた。
「流石に経験は無いよね?」
「はい。ですが、説明してくれれば出来ると思います」
「そうかい? 頼もしい限りだ」
一通りのPCと仕事内容の説明を受けて、俺はいざ作業を開始する。
「わからない所があったらその時に聞いてくれるかい? わからないまま進まれるとこっちが困る」
「はい」
全くの予想外……しかし、やるしかない! 俺が髪染めの不良でない事を証明せねば!
「はい。今簡単な修正案を作ってる所です」
鬼灯さんは作業の途中でかかってきたスマホて会話を始めた。おそらく相手は漫画の担当者。休みだと思ってる所に仕事の連絡が入ると本当に大変だと思う。
「はい」
すると、鬼灯がお茶を持ってきてくれた。出し方が妙に板についているので、普段からやっている事なのだろう。
「ありがと」
「そんなに真面目にやらなくても良いわ」
「俺は優柔不断に見えるかもしれないけどさ。一度始めた事を適当に放り出す事はしないよ」
生真面目な親父や姉貴を間近で見てきたからか、俺の本質もソレと同じだ。
「鬼灯の事も同じだよ。だから気にすんな」
「そう」
その“そう”は若干感情が乗っていた気がする。本当に“気がする”レベルなので、彼女の本心を読み取るのにはまだまだ付き合いが必要か。
「……それにしても――」
鬼灯と会話をした所で状況に余裕が出来たのか、改めて任されている漫画のラフ画を見ると――
「え? これって……カディア? ってことは……まさか」
俺は見覚えのあるキャラクターを見て自分が何を触っているのかを認識した。
それは、大手のウェブ漫画サイトにて連載されている漫画の一つ、『雪原のエレストーレ』だった。
『雪原のエレストーレ』。
その世界では科学と魔法の両方が存在するが両者は思想の違いにより対立。
自然崇拝主義を主にする『魔術連盟』と、魔術を持たない者達が生きる為に編み出された『科学連合』の二勢力は北と南に本拠点を置き、両勢力は巨大な雪原を挟んで互いに不干渉だった。
ある日『魔術連盟』は『科学連合』の土地である北の大地を襲撃。それに対して報復行動が起こり大規模な戦争へと発展する。
そんな俗世の事を知らずに雪原で日々を過ごす青年カディアは、雪原に廃棄されていたロボット『エレストーレ』を修理しつつ、北から逃げてきた妖精のアニスと出会った事で、世界の命運を分ける戦争に巻き込まれて行くと言う話だ。
昨今多い、異世界モノであるが、転生やチート要素はほぼ無く、ヒューマンドラマや、科学と魔法における各々の価値観を描いた物語に一部の人間は引き込まれている。
俺もその内の一人だ。
「原作は別だけど……作画は鬼灯の親父さんが担当してたのか」
作画のペンネームは“鬼暮灯”。
明らかに偽名っぽいペンネームだが、当人を知っていれば名字から取ったのだとすぐにわかる。
「ロボットや人外にファンタジーの背景も必要だから色々と手を出してた父に声をかけてもらったの」
「そうなのか?」
「昔は大きな連載を当てた事があったけどね」
と、電話を終えた鬼灯さんが俺と鬼灯の会話に割り込む。
「一度連載が終わると、始めた当時よりも時代の旬となるモノの移り変わりは激しい。当時の感性で止まっている連載作家は、長期の連載を終えると次の波に乗るのが中々難しくてね」
「……ちなみにどの作品を?」
「む! 僕の作品を知らないのかい!?」
「すいません!」
「お父さん。それは無理があるわ」
鬼灯のカバーに、それもそうだよね、と鬼灯さんは冗談である様子で六年近く連載していた自身の漫画の事を色々と語ってくれた。
「アニメと映画化もしたからね。悪くない出来だと思うから見てみてよ。僕が直接監修して、漫画と殆んど差はない風に仕上げてるから」
「はい」
「それにしても『雪原のエレストーレ』は、まだ1話目が始まったばかりなのによく知ってたね」
「ウェブだとサイトを開くと話題作は正面に出てくるんですよ。それでポチって読んだら中々面白くて」
「中々かい?」
「凄く! 面白くて!」
「はっはっは。まぁ原作ありきではあるからね。原作は小説とはいえ、その魅力を理解して文面を絵に起こし、形にすると言う事は一朝一夕には行かない」
漫画を読んでいる読者からすれば、その背後で苦労しながら作っている者達の事はあまり考えないだろう。
「今も競争が激しい業界で更に評価をするのは身内ではなく赤の他人だ。僅かな違和感に、批判やツッコミが入り、ソレを頭に置いて修正しつつ次話を見てもらい、続けられるかどうかを編集が判断するのさ。特に原作者が別だと双方からの同意がいるからね」
一話目を出す時は何度もリテイクしたよ。
と、鬼灯さんは軽く語るが、こうして休日にも連絡が来る程に大変な仕事で、そんな人達の苦労の果てに俺たちの様な読者が楽しめる漫画が生み出されている。そう思うと――
「ありがとうございます」
「ん?」
「あ、なんか……反射的にそんな言葉が」
俺の純粋な反応に鬼灯さんは嬉しそうに微笑んでくれた。やっぱり、父娘だ。笑顔は鬼灯とそっくりである。
「ありがとう。そう言って貰えると僕も頑張ろうって気になるよ」
よし、棚からぼた餅風だが、良い印象を与えられたな! 作業に戻るとしよう。
「七海君。そこは設定を変えると良いわ」
「鬼灯もやった事はあるのか?」
「昔から父の影響でイラストを描いてて、たまに手伝いをしているの」
なるほど。鬼灯のメルヘンノートは親父さんの影響か。
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