懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第528話 SNSって怖いわね

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 世の中にはヤベーヤツがゴロゴロ居る。
 肉体的にも精神的にもだ。今回、鬼灯が話しかけたヤツは、その両方を兼ね備えていた。

「その四字熟語、使い方がおかしいわ」
「ぬぅ!?」

 格闘ゲームの筐体に座る、昭和の番長みたいな服装をした男。誰がどう見てもヤベー奴である事は明白で、本来なら絶対に関わらない。

「状況と使う単語が合ってないわ」
「……」

 番長は筐体の椅子から立ち上がると鬼灯を見下ろす。鬼灯も女子にしては背は高い方だが番長は更にデケェ。俺は咄嗟に鬼灯へ駆け寄るとその手を引いて、番長の間合いから退避した。

「鬼灯! 帰るんじゃなかったのか!?」
「ええ。でも、間違えてるなら指摘してあげないと」
「時と場合によるだろ……」

 ユニコ君を狙うヤクザの時といい、鬼灯はちょっと危機感に欠ける所があるよな……

「待てぇい! 貴様っ!」

 番長が俺らを見ると、ずんずん、と歩いてくる。ゲー友はひぃっ! と近くの筐体に隠れた。暴力沙汰とは皆無のゲー友は仕方ない。番長は格ゲーのキャラよりも戦えそうな体躯をしてるし。

 ヤッベ、逃げられっかな……。鬼灯がどれだけ走れるかにもよるが、その丸太みたいな上腕二頭筋で握り拳を奮えばユニコ君守護神も介入出来るだろう。

「プレイ中にすみません。俺らはもう帰るんで引き続きどうぞ」

 とりあえず非はこっちにあるで先に謝る。

「嫁」
「ん?」

 何だ? 番長は鬼灯を見てるぞ?

「どうやら、ワシの目に狂いは無かった! SNSを挟んでの邂逅! ここに来れば会えると思っていたぞ!」

 と、番長は鬼灯を見下ろしながらそんな事を告げてくる。

「……鬼灯、知り合いか?」
「知らない人よ」
「いや、だってなんか……嫁とか言って――」
「知らない人よ」

 俺の言葉の途中で否定する程に返答が早い。本当に赤の他人のようだ。

「心! 技! 体! ワシが格ゲーで求めるモノはまさにソレよ!」

 番長は誇らしげにそう叫ぶ。もう、色々情報過多だ。変に考えると知恵熱出そう。

「意味がわからないわ」

 察しの良い鬼灯でさえ理解不能らしい。そりゃそうだ。番長はユニコ君と同じレベルの異物だしな。

「わからんか!? いや……それも仕方ない。ならば教えよう! 技! それは画面の先にいる我が半身となるモノを手足のごとく動かすことにある!」

 何か……説明を始めたぞ。鬼灯は……相変わらずなマシンフェイスだ。こっちも何考えてるのかわかんねぇ。

「体! それは“技”を体現するために必要な己である!」

 こいつ……格ゲーするために体鍛えてんのか。まぁ、悪いとは言わないけどよ……そんな大蛇みたいな上腕二頭筋にする必要ある?

「そして、心――」

 と、番長はそこまで言って急に声のトーンが落ちた。

「失業し、絶望の縁にいたワシはふと光輝く、『ストリートレジェンド』に出会った」
「ゲームの画面は明るいわ」

 何か語り出した番長に鬼灯がツッコミを入れ始める。

「導かれる様にかけなしの小銭を使い、筐体の前に座った時! 世界と繋がった気がした」
「あのゲームはオンライン対応してるわ」
「それはワシに生きる活力を漲らせたのだ! ストレジェこそ、世界を救う! 全ての人類を救済するにはこれしかないとな!」
「……」

 ついに鬼灯のツッコミが止まった。そりゃ何言っていいかわからないからな。

「あらゆる争いを『ストレジェ』で決める世界。それこそが真の平和! ワシはその使命を神より遣わされたと理解した!」

 そろそろ逃げる準備をするか。
 鬼灯は無機質な表情で律儀に番長と向かい合ってるが……何と言おうが完全に興味が無い感じだ。

「世界を渡り、『ストレジェ』の猛者達と戦い! 思想を共にする同士を捜して10年! 気づいてしまった……」
「…………何に?」

 果敢にも理解不能なモノを理解しようとする鬼灯には敬礼する。けどな、鬼灯。世の中には人類の理解が追い付いてない不可解なモノってのも存在するんだぜ?

「ワシに足りないのは、歩みを共にする同士ではなく、生涯を支える嫁だとな! そして、SNSで見つけたのだ! 貴女こそ、この坂上万里さかうえばんりに相応しい存在であると!」

 番長の名前は坂上万里か。なんかあった時に警察に提供できる情報として覚えておこう。

「七海君」
「ん?」
「SNSって怖いわね」
「まぁな」

 鬼灯の美少女ぶりなら拡散されても話題になるだろう。しかし、今回は変な奴に目をつけられたらしい。

「姉貴の知り合いに弁護士いるから、接近禁止とか出して貰うか?」
「お願い出来るかしら」
「貴様っ! ワシの嫁と何を話している!」

 番長の眼光が俺へ向いた。見下ろす体躯も相まって本来なら萎縮する程のモノだが、もっとヤバい人達を知ってる俺からすれば受け止めるの容易い。っていうか……

「なんだよ、嫁って」
「そこの女子の事よ! ワシと共に歩むべき存在のな!」

 ヤッベぇ……もう考えるまでもなくヤッベぇよ。出口まで約5メートル。障害物を考えれば7メートル弱。鬼灯を連れて行ける……か?

「私は貴方の嫁じゃないわ」

 ズバッと、鬼灯が正論を言う。

「私、彼と付き合ってるもの」

 と、鬼灯はサッと俺に抱き着いてくる。無表情で。
 明らかに演技っぽいが番長は槍で身体を貫かれた様に、ぬぬぅぅ!!? と膝から崩れ落ちる。
 番長はスタン状態。体格が無駄にデカイから狭いゲーセンでは邪魔だな。

「馬鹿な……あり得ん……ワシ以外の男と……」
「あり得んのはお前の格好と思考だ」

 俺は見かけた時から思っていた事を口に出す。

「……帰るか」
「ええ」
「待てぃ!」

 番長のスタンからの復帰が早ぇ。自然な流れで煙に撒くにはもう少しダメージが足りないらしい。

「どうやら……これは神の与えた試練と言うことか!」
「え? なに? どういう事?」

 そろそろ、番長の超思考にはついて行けねぇぞ。誰かユニコ君呼んでこい。それか警察。

「ワシと『ストレジェ』で勝負だ! ワシが勝ったら、嫁を連れていく!」
「何言って――」
「良いわよ」
「鬼灯ぃぃ!?」

 何でノータイムで返答しちゃうの!? どう言う考えが巡ったら、その返答が即出るんだよ!

「私が勝ったら二度と現れないで頂戴」
「約束しよう!」

 約束しちゃった……もう後には引けねぇぞ……まったく……

「ホントさ、退屈しないわ。鬼灯と居ると」
「それは褒めてるのかしら?」
「呆れと半々」

 番長が『ストレジェ』の筐体に座りポキポキと指を鳴らす。仕方ねぇ、一丁俺の持ちキャラである『フェイスII』を見せてやるか! 昨日、帰ってから『ストレジェ』はやり直したのだ。
 鬼灯がゲーセンと行くのはわかってたから、ブランクを解消しコンボの練度を上げた。今日が最高潮なまでに仕上がっている。

「七海君。何故貴方が座るの?」
「え?」

 鬼灯の言葉に俺は面食らう。

 「私が相手をするわ」

 と、俺の肩に手を置く鬼灯が一瞬、ガイア(『ストレジェ』での鬼灯の持ちキャラ)に見えた。
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