520 / 701
第519話 山に現れた魔物?
しおりを挟む
「へー、ケンゴとは婚姻を解消したんだ」
「はい。お兄様が、夫婦よりもこの方がより良き関係を築けるとおっしゃって頂きまして」
「ほほう」
夕刻の公民館。
カレンは突然の来客にも関わらず、熊肉BBQへの参加を勧められて、夕飯代が浮いた、と考えつつ食べていた。
「それにしても、お兄様ねぇ」
「何かおかしいでしょうか?」
「いんや。アンタがそれで良いなら私は口を挟まないよ」
アヤからは使命感の様な雰囲気が消えている。自然体で笑う様子を見るに、ケンゴは上手くやった様だ。ケンゴの呼ばれ方は色んなバリエーションになってきたなぁ。
「ここだけの話しだけどさ」
「はい?」
「ケンゴと寝た?」
「お兄様とは二度、身を寄せ合いました。ですが……私のふしだらな様をお兄様は諌めてくださったのです」
「ほー」
「この件に関しては、あまり追求を避けて頂けますと助かります……」
「あはは。ごめんごめん」
顔を赤く、困ったように頬に手を当てるアヤ。
良くもまぁ、ケンゴは我慢したな。こんな和服美女と一緒に寝て、手を出さないとは。
リンカとも一線は越えなかったみたいだし……アイツ、何かの病気持ちか?
反応はしてたから、身体の問題では無さそうだ。精神科医に知り合いが居るから紹介してやるか……
「私はアヤの事が少し心配だったからね。子を持つ母親だからなのかもしれないけどさ。どうしても、自分よりも年下の子って気になっちゃうの」
「……そこまで謙虚に表れてましたとは……ご迷惑をおかけしました」
アヤは丁寧過ぎる故に、問題を捌くのが苦手そうだもんなぁ。
「アヤは色んな悩みを抱えてたんじゃないの?」
「……カレンさんは……母親には分かるのですね」
「半分以上は勘だから、あんまり深刻に考えなくていいよ」
「いえ。とても勉強になります」
ケンゴがアレほどおちゃらけても、最後はきちんと着地出来るのは、やっぱり年下を護る兄目線だからなのだろう。
「そうだね。アヤは年下の世話を焼いてあげると、言い感じになるかもね」
「親族に年下の方は居ります」
アヤは、BBQを食べるユウヒとコエに目線を向ける。
「たまに会う親戚じゃなくてさ。常に近くにいて世話を焼く様な子。そう言う子は居ない?」
「門下生の方は私以外は皆様、大人ですし……」
「実家は道場やってるの?」
「流派があります」
「本格的か。ならさ、年下の子供に教える部門とか作っても良いんじゃない?」
カレンの提案にアヤは目から鱗の様に、なるほど……と納得する。
「良い案ですカレンさん。それなら、もっと多くの方に『白鷺剣術』を知って貰えます」
「世界行けそう?」
「行けそうです」
「いいねぇ、夢はでっかく、羽ばたいて行けー」
「はい」
帰ったら父に相談してみよう。小さい頃から『白鷺剣術』の心技体を学び、その子にとって少しでも歩く手助けが出来るのであれは何よりも価値のあるモノとなる。
一層、キラキラし出したアヤにカレンも一安心の息を吐く。
「そう言えば、カレンさんは何故『神ノ木の里』に?」
「私? 私は今回はタクシー役」
さてさて、リンカの方はどうなったかねぇ。
「……え? リンカちゃん? なんでこんな所にいるの?」
驚いてこちらを見る彼の言葉は最もだった。
彼は一度も故郷の事は話してくれなかったし、当然ながら連れてきてくれた事もなかった。だから、こうしてあたしが現れた事は、全くの予想外だろう。
「えっと……あれだ!」
「あれ?」
言いたい事はあるハズなのに、言葉が出て来ない。何て言って切り出せば良いのか……何か……キッカケは――
「そこで立ちっぱなしもなんだしさ。隣座る?」
「……わかった」
結局の所、彼に助けてもらった。あたしは居間から縁側にやってくると、彼の隣に同じ様に座る。
すると、犬が様子を見る様に匂いを嗅いで来た。なかなかの迫力を纏う故にビクっとする。しかし、こちらに敵意が無いと思ったのか、頭を下げて来た。思わず撫でると、嬉しそうに尻尾を振り、残りの二匹も寄ってくる。
「ほぅ。リンカちゃん、なかなかやるね。コイツらが初対面で頭を許したのは結構凄い事だよ」
「そうなのか?」
「うん。こいつらは少しでも何かしらの雰囲気を持ってたら絶対に気を許さないからね」
そう言われると、彼の家族に認められたみたいで何だか嬉しくなる。
撫でると愛着が湧き、三匹の威圧のある雰囲気は和らいだ気がした。
「仲良くなって良かった。リンカちゃんは動物に好かれる雰囲気あるからね」
「動物は好き――」
と、彼の方を見ると何か動物の骨が横に置いてある。鳥のくちばしみたいな先端があるが、大きさが鳥のソレじゃない。
なんだあれ? 宇宙人? 山に現れた魔物?
すると、あたしの視線に彼が気づく。
「ん? あぁ、これね。話すと長くなるんだけど、オレの一番古い友達のイルカなんだ。追々話すよ」
彼は懐かしむ様に友達の骨を丁寧に置いた。
古い友達……あたしの知らない彼の交友関係は、きっと過去が関係しているのだろう。
「それで、リンカちゃんはなんでこの里へ? 何度も連絡したんだけど、電話じゃ都合が悪い話?」
緊張が緩んだ所に彼から再度、質問がやってくる。
「えっと……その……」
「あ、そう言えばアヤ――あの和服美人さんね。オレの許嫁って聞いてると思うけど、彼女とはもう婚姻関係には無いから」
「そ、そうなのか?」
「うん。彼女も色々とあってねぇ。もう問題は解決したから、変に構えなくて良いよ」
彼はあたしがその件で来たのだと思っている様だ。いや……そうじゃない。
決めたハズだ。もう、言えずに後悔しない為に思ってる事はきちんと言うって――
「……また、居なくなると思ったから」
あたしはボソリと言った。撫でる手を止めた犬達は心配そうに見てくる。
「……そうだね。うん。リンカちゃん」
そう言いながら彼は少しだけ考えて立ち上がる。
「見せたいモノがあるんだ。一緒に来てくれない?」
「はい。お兄様が、夫婦よりもこの方がより良き関係を築けるとおっしゃって頂きまして」
「ほほう」
夕刻の公民館。
カレンは突然の来客にも関わらず、熊肉BBQへの参加を勧められて、夕飯代が浮いた、と考えつつ食べていた。
「それにしても、お兄様ねぇ」
「何かおかしいでしょうか?」
「いんや。アンタがそれで良いなら私は口を挟まないよ」
アヤからは使命感の様な雰囲気が消えている。自然体で笑う様子を見るに、ケンゴは上手くやった様だ。ケンゴの呼ばれ方は色んなバリエーションになってきたなぁ。
「ここだけの話しだけどさ」
「はい?」
「ケンゴと寝た?」
「お兄様とは二度、身を寄せ合いました。ですが……私のふしだらな様をお兄様は諌めてくださったのです」
「ほー」
「この件に関しては、あまり追求を避けて頂けますと助かります……」
「あはは。ごめんごめん」
顔を赤く、困ったように頬に手を当てるアヤ。
良くもまぁ、ケンゴは我慢したな。こんな和服美女と一緒に寝て、手を出さないとは。
リンカとも一線は越えなかったみたいだし……アイツ、何かの病気持ちか?
反応はしてたから、身体の問題では無さそうだ。精神科医に知り合いが居るから紹介してやるか……
「私はアヤの事が少し心配だったからね。子を持つ母親だからなのかもしれないけどさ。どうしても、自分よりも年下の子って気になっちゃうの」
「……そこまで謙虚に表れてましたとは……ご迷惑をおかけしました」
アヤは丁寧過ぎる故に、問題を捌くのが苦手そうだもんなぁ。
「アヤは色んな悩みを抱えてたんじゃないの?」
「……カレンさんは……母親には分かるのですね」
「半分以上は勘だから、あんまり深刻に考えなくていいよ」
「いえ。とても勉強になります」
ケンゴがアレほどおちゃらけても、最後はきちんと着地出来るのは、やっぱり年下を護る兄目線だからなのだろう。
「そうだね。アヤは年下の世話を焼いてあげると、言い感じになるかもね」
「親族に年下の方は居ります」
アヤは、BBQを食べるユウヒとコエに目線を向ける。
「たまに会う親戚じゃなくてさ。常に近くにいて世話を焼く様な子。そう言う子は居ない?」
「門下生の方は私以外は皆様、大人ですし……」
「実家は道場やってるの?」
「流派があります」
「本格的か。ならさ、年下の子供に教える部門とか作っても良いんじゃない?」
カレンの提案にアヤは目から鱗の様に、なるほど……と納得する。
「良い案ですカレンさん。それなら、もっと多くの方に『白鷺剣術』を知って貰えます」
「世界行けそう?」
「行けそうです」
「いいねぇ、夢はでっかく、羽ばたいて行けー」
「はい」
帰ったら父に相談してみよう。小さい頃から『白鷺剣術』の心技体を学び、その子にとって少しでも歩く手助けが出来るのであれは何よりも価値のあるモノとなる。
一層、キラキラし出したアヤにカレンも一安心の息を吐く。
「そう言えば、カレンさんは何故『神ノ木の里』に?」
「私? 私は今回はタクシー役」
さてさて、リンカの方はどうなったかねぇ。
「……え? リンカちゃん? なんでこんな所にいるの?」
驚いてこちらを見る彼の言葉は最もだった。
彼は一度も故郷の事は話してくれなかったし、当然ながら連れてきてくれた事もなかった。だから、こうしてあたしが現れた事は、全くの予想外だろう。
「えっと……あれだ!」
「あれ?」
言いたい事はあるハズなのに、言葉が出て来ない。何て言って切り出せば良いのか……何か……キッカケは――
「そこで立ちっぱなしもなんだしさ。隣座る?」
「……わかった」
結局の所、彼に助けてもらった。あたしは居間から縁側にやってくると、彼の隣に同じ様に座る。
すると、犬が様子を見る様に匂いを嗅いで来た。なかなかの迫力を纏う故にビクっとする。しかし、こちらに敵意が無いと思ったのか、頭を下げて来た。思わず撫でると、嬉しそうに尻尾を振り、残りの二匹も寄ってくる。
「ほぅ。リンカちゃん、なかなかやるね。コイツらが初対面で頭を許したのは結構凄い事だよ」
「そうなのか?」
「うん。こいつらは少しでも何かしらの雰囲気を持ってたら絶対に気を許さないからね」
そう言われると、彼の家族に認められたみたいで何だか嬉しくなる。
撫でると愛着が湧き、三匹の威圧のある雰囲気は和らいだ気がした。
「仲良くなって良かった。リンカちゃんは動物に好かれる雰囲気あるからね」
「動物は好き――」
と、彼の方を見ると何か動物の骨が横に置いてある。鳥のくちばしみたいな先端があるが、大きさが鳥のソレじゃない。
なんだあれ? 宇宙人? 山に現れた魔物?
すると、あたしの視線に彼が気づく。
「ん? あぁ、これね。話すと長くなるんだけど、オレの一番古い友達のイルカなんだ。追々話すよ」
彼は懐かしむ様に友達の骨を丁寧に置いた。
古い友達……あたしの知らない彼の交友関係は、きっと過去が関係しているのだろう。
「それで、リンカちゃんはなんでこの里へ? 何度も連絡したんだけど、電話じゃ都合が悪い話?」
緊張が緩んだ所に彼から再度、質問がやってくる。
「えっと……その……」
「あ、そう言えばアヤ――あの和服美人さんね。オレの許嫁って聞いてると思うけど、彼女とはもう婚姻関係には無いから」
「そ、そうなのか?」
「うん。彼女も色々とあってねぇ。もう問題は解決したから、変に構えなくて良いよ」
彼はあたしがその件で来たのだと思っている様だ。いや……そうじゃない。
決めたハズだ。もう、言えずに後悔しない為に思ってる事はきちんと言うって――
「……また、居なくなると思ったから」
あたしはボソリと言った。撫でる手を止めた犬達は心配そうに見てくる。
「……そうだね。うん。リンカちゃん」
そう言いながら彼は少しだけ考えて立ち上がる。
「見せたいモノがあるんだ。一緒に来てくれない?」
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる