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第519話 山に現れた魔物?

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「へー、ケンゴとは婚姻を解消したんだ」
「はい。お兄様が、夫婦よりもこの方がより良き関係を築けるとおっしゃって頂きまして」
「ほほう」

 夕刻の公民館。
 カレンは突然の来客にも関わらず、熊肉BBQへの参加を勧められて、夕飯代が浮いた、と考えつつ食べていた。

「それにしても、お兄様ねぇ」
「何かおかしいでしょうか?」
「いんや。アンタがそれで良いなら私は口を挟まないよ」

 アヤからは使命感の様な雰囲気が消えている。自然体で笑う様子を見るに、ケンゴは上手くやった様だ。ケンゴの呼ばれ方は色んなバリエーションになってきたなぁ。

「ここだけの話しだけどさ」
「はい?」
「ケンゴと寝た?」
「お兄様とは二度、身を寄せ合いました。ですが……私のふしだらな様をお兄様は諌めてくださったのです」
「ほー」
「この件に関しては、あまり追求を避けて頂けますと助かります……」
「あはは。ごめんごめん」

 顔を赤く、困ったように頬に手を当てるアヤ。
 良くもまぁ、ケンゴは我慢したな。こんな和服美女と一緒に寝て、手を出さないとは。
 リンカとも一線は越えなかったみたいだし……アイツ、何かの病気持ちか?
 反応はしてたから、身体の問題では無さそうだ。精神科医に知り合いが居るから紹介してやるか……

「私はアヤの事が少し心配だったからね。子を持つ母親だからなのかもしれないけどさ。どうしても、自分よりも年下の子って気になっちゃうの」
「……そこまで謙虚に表れてましたとは……ご迷惑をおかけしました」

 アヤは丁寧過ぎる故に、問題を捌くのが苦手そうだもんなぁ。

「アヤは色んな悩みを抱えてたんじゃないの?」
「……カレンさんは……母親には分かるのですね」
「半分以上は勘だから、あんまり深刻に考えなくていいよ」
「いえ。とても勉強になります」

 ケンゴがアレほどおちゃらけても、最後はきちんと着地出来るのは、やっぱり年下を護る兄目線だからなのだろう。

「そうだね。アヤは年下の世話を焼いてあげると、言い感じになるかもね」
「親族に年下の方は居ります」

 アヤは、BBQを食べるユウヒとコエに目線を向ける。

「たまに会う親戚じゃなくてさ。常に近くにいて世話を焼く様な子。そう言う子は居ない?」
「門下生の方は私以外は皆様、大人ですし……」
「実家は道場やってるの?」
「流派があります」
「本格的か。ならさ、年下の子供に教える部門とか作っても良いんじゃない?」

 カレンの提案にアヤは目から鱗の様に、なるほど……と納得する。

「良い案ですカレンさん。それなら、もっと多くの方に『白鷺剣術』を知って貰えます」
「世界行けそう?」
「行けそうです」
「いいねぇ、夢はでっかく、羽ばたいて行けー」
「はい」

 帰ったら父に相談してみよう。小さい頃から『白鷺剣術』の心技体を学び、その子にとって少しでも歩く手助けが出来るのであれは何よりも価値のあるモノとなる。

 一層、キラキラし出したアヤにカレンも一安心の息を吐く。

「そう言えば、カレンさんは何故『神ノ木の里』に?」
「私? 私は今回はタクシー役」

 さてさて、リンカの方はどうなったかねぇ。





「……え? リンカちゃん? なんでこんな所にいるの?」

 驚いてこちらを見る彼の言葉は最もだった。
 彼は一度も故郷の事は話してくれなかったし、当然ながら連れてきてくれた事もなかった。だから、こうしてあたしが現れた事は、全くの予想外だろう。

「えっと……あれだ!」
「あれ?」

 言いたい事はあるハズなのに、言葉が出て来ない。何て言って切り出せば良いのか……何か……キッカケは――

「そこで立ちっぱなしもなんだしさ。隣座る?」
「……わかった」

 結局の所、彼に助けてもらった。あたしは居間から縁側にやってくると、彼の隣に同じ様に座る。
 すると、犬が様子を見る様に匂いを嗅いで来た。なかなかの迫力を纏う故にビクっとする。しかし、こちらに敵意が無いと思ったのか、頭を下げて来た。思わず撫でると、嬉しそうに尻尾を振り、残りの二匹も寄ってくる。

「ほぅ。リンカちゃん、なかなかやるね。コイツらが初対面で頭を許したのは結構凄い事だよ」
「そうなのか?」
「うん。こいつらは少しでも何かしらの雰囲気を持ってたら絶対に気を許さないからね」

 そう言われると、彼の家族に認められたみたいで何だか嬉しくなる。
 撫でると愛着が湧き、三匹の威圧のある雰囲気は和らいだ気がした。

「仲良くなって良かった。リンカちゃんは動物に好かれる雰囲気あるからね」
「動物は好き――」

 と、彼の方を見ると何か動物の骨が横に置いてある。鳥のくちばしみたいな先端があるが、大きさが鳥のソレじゃない。
 なんだあれ? 宇宙人? 山に現れた魔物?
 すると、あたしの視線に彼が気づく。

「ん? あぁ、これね。話すと長くなるんだけど、オレの一番古い友達のイルカなんだ。追々話すよ」

 彼は懐かしむ様に友達の骨を丁寧に置いた。
 古い友達……あたしの知らない彼の交友関係は、きっと過去が関係しているのだろう。

「それで、リンカちゃんはなんでこの里へ? 何度も連絡したんだけど、電話じゃ都合が悪い話?」

 緊張が緩んだ所に彼から再度、質問がやってくる。

「えっと……その……」
「あ、そう言えばアヤ――あの和服美人さんね。オレの許嫁って聞いてると思うけど、彼女とはもう婚姻関係には無いから」
「そ、そうなのか?」
「うん。彼女も色々とあってねぇ。もう問題は解決したから、変に構えなくて良いよ」

 彼はあたしがその件で来たのだと思っている様だ。いや……そうじゃない。
 決めたハズだ。もう、言えずに後悔しない為に思ってる事はきちんと言うって――

「……また、居なくなると思ったから」

 あたしはボソリと言った。撫でる手を止めた犬達は心配そうに見てくる。

「……そうだね。うん。リンカちゃん」

 そう言いながら彼は少しだけ考えて立ち上がる。

「見せたいモノがあるんだ。一緒に来てくれない?」
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