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第504話 23年前 夢と現実
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「ステラが落ちたぞ! 浮き輪を持ってこい!」
「波が高くなってきた! 命綱は絶対に外すなよ! 次に落ちたらもう引き上げられねぇぞ!」
マーカス、フェイン、ジョイスは『WATER DROP号』から『ガルート号』へ降りきると他の船員達同様にステラの救助へ入る。
「ふっは!」
「! あそこだ!」
海面に出たステラを見つけた船員が浮き輪を投げる。近くに落ちたソレを視認したステラは少し泳いでしがみついた。
「よし、引っ張れ!」
波が高くなる海から数人がかりでステラを引き上げる。彼女は全身がずぶ濡れになっているものの怪我は無かった。
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫か?」
「Mr.トキ……」
急に荒れた海に放り出されてパニックにならなかったのは流石だ。今は呼吸は荒いが少し間を置けば整うだろう。
「ステラ、ジョーはどうした?」
「Mr.ジョージは――」
そこでステラは、降りる寸前で児童を見たことを思い返す。
「生存者がいました! 東洋人の児童で、年齢は3歳ほどの……船長――くっ無線が……」
「ホントか?」
他の船員が聞いてくる中、ステラは確かに見たと断言する。マーカスは無線でブリッジへ連絡を取る。
「船長、生存者がいたそうです。指示をお願いします」
『……数人で『WATER DROP号』へ――』
「マッケラン、もう『WATER DROP号』へは誰も上げるな」
マッケランの指示にトキが横槍を入れる。
『……良いのか? 恐らく、君たちが捜していた者ではないのか?』
「それでも、これ以上の乗船は間違いなく死人が出る。船を離す用意を」
『……わかった』
無線を船員に返すトキは雨の降り始めた船上にも関わらず、甲板から『WATER DROP号』を見上げる。
「Mr.トキ……」
「トキサン……」
「なんじゃお前達。海の専門家がワシよりも湿気た顔をするでないわい。ワシらまで沈んだら誰がジョーを受け止める?」
誰よりも『WATER DROP号』へ乗り込みたいのは彼女だと、船員たちは悟る。しかし、トキがソレを言わない以上、離脱する準備を整える為に各々の持ち場へ戻った。
「ジョーは必ず帰ってくる」
トキは『WATER DROP号』を見上げながら呟く。
夫がソレを違えた事は過去に一度もなかった。
見間違いではない……見間違うハズがない!
「健吾!」
ジョージは持っているノートPCを捨てると、揺れる『WATER DROP号』に翻弄されつつも、ケンゴの後を追った。
何故逃げる? ワシだと分からないのか?
「くっ!」
まるで転がる車の中に居るように、揺れは大きくなり足をとられる。
「健吾! ワシだ! 覚えてないか!?」
孫はまだ3歳。人を視認し見分けるには幼すぎる年頃だ。側にいた将平やアキラならいざ知らず、里に居る時しか関わりの無い自分の事を覚えていない可能性は十分にある。
「っ!」
揺れる通路の角を壁にぶつかりながら曲がる。しかし、ケンゴは更に先の角を曲がった所だった。
重心が低い分、子供の方が移動しやすいか。それに、半年も船に乗っていたなら揺れにも慣れているとも考えられる。
「待て……頼む……ケンゴ!」
ジョージは何とか追いかけて角を曲がる。しかし、そこは通路を塞ぐように荷物が置かれており行き止まりだった。
「…………」
周囲の扉が空いている気配はない。ジョージは足を止めて、通路を塞いでいる荷物に話しかける。
「健吾」
「……じーも……消えちゃうんでしょ?」
荷物には隙間があり、その中にケンゴは潜り込んでいた。
「何故、そう思う?」
「……目をとじると……みんないる……でも……目をあけると……みんないなくなるから……」
孫は自分の事を覚えていてくれた。しかし、ケンゴは全てを諦めた様に次の言葉を呟く。
「……きょうも……おとーさん……おかーさん……笑っていてくれた……でも……起きると……みんな……みんないなくなるの……」
「…………」
「だからこれも……起きると……じー、消えちゃう……だから僕……もう……起きたくない……」
ジョージはその言葉で全てを悟った。
ケンゴは『WATER DROP号』で、ずっと一人で過ごしていたのだ。
いつ、助けが来るかも分からない状況で、残された食料を細々を食べて、疲れて眠ったら将平とアキラと夢の中で再会する。
でも、それは目を覚ますと全て消えてしまう。
ケンゴは眠る度に二人との別れを何度も経験していたのだ。
それは……どれだけ辛い事だったか。そして今、ケンゴの中では現実と夢の区別がつかなくなっているのだろう。
「健吾、ワシは消えたりしない」
ジョージは夢と現実を説明してもケンゴは理解できないと考える。
「…………」
「いつも側にいる。ワシは絶対にお前を一人にはさせない」
「…………じー、うそつかない?」
「ああ。じーは嘘をつかないよ」
すると、もぞもぞと隙間からケンゴが出てきた。まだ、暗い表情をしているが、ジョージはゆっくり抱きしめる。
「家に帰ろう」
「うん……」
「波が高くなってきた! 命綱は絶対に外すなよ! 次に落ちたらもう引き上げられねぇぞ!」
マーカス、フェイン、ジョイスは『WATER DROP号』から『ガルート号』へ降りきると他の船員達同様にステラの救助へ入る。
「ふっは!」
「! あそこだ!」
海面に出たステラを見つけた船員が浮き輪を投げる。近くに落ちたソレを視認したステラは少し泳いでしがみついた。
「よし、引っ張れ!」
波が高くなる海から数人がかりでステラを引き上げる。彼女は全身がずぶ濡れになっているものの怪我は無かった。
「ハァ……ハァ……」
「大丈夫か?」
「Mr.トキ……」
急に荒れた海に放り出されてパニックにならなかったのは流石だ。今は呼吸は荒いが少し間を置けば整うだろう。
「ステラ、ジョーはどうした?」
「Mr.ジョージは――」
そこでステラは、降りる寸前で児童を見たことを思い返す。
「生存者がいました! 東洋人の児童で、年齢は3歳ほどの……船長――くっ無線が……」
「ホントか?」
他の船員が聞いてくる中、ステラは確かに見たと断言する。マーカスは無線でブリッジへ連絡を取る。
「船長、生存者がいたそうです。指示をお願いします」
『……数人で『WATER DROP号』へ――』
「マッケラン、もう『WATER DROP号』へは誰も上げるな」
マッケランの指示にトキが横槍を入れる。
『……良いのか? 恐らく、君たちが捜していた者ではないのか?』
「それでも、これ以上の乗船は間違いなく死人が出る。船を離す用意を」
『……わかった』
無線を船員に返すトキは雨の降り始めた船上にも関わらず、甲板から『WATER DROP号』を見上げる。
「Mr.トキ……」
「トキサン……」
「なんじゃお前達。海の専門家がワシよりも湿気た顔をするでないわい。ワシらまで沈んだら誰がジョーを受け止める?」
誰よりも『WATER DROP号』へ乗り込みたいのは彼女だと、船員たちは悟る。しかし、トキがソレを言わない以上、離脱する準備を整える為に各々の持ち場へ戻った。
「ジョーは必ず帰ってくる」
トキは『WATER DROP号』を見上げながら呟く。
夫がソレを違えた事は過去に一度もなかった。
見間違いではない……見間違うハズがない!
「健吾!」
ジョージは持っているノートPCを捨てると、揺れる『WATER DROP号』に翻弄されつつも、ケンゴの後を追った。
何故逃げる? ワシだと分からないのか?
「くっ!」
まるで転がる車の中に居るように、揺れは大きくなり足をとられる。
「健吾! ワシだ! 覚えてないか!?」
孫はまだ3歳。人を視認し見分けるには幼すぎる年頃だ。側にいた将平やアキラならいざ知らず、里に居る時しか関わりの無い自分の事を覚えていない可能性は十分にある。
「っ!」
揺れる通路の角を壁にぶつかりながら曲がる。しかし、ケンゴは更に先の角を曲がった所だった。
重心が低い分、子供の方が移動しやすいか。それに、半年も船に乗っていたなら揺れにも慣れているとも考えられる。
「待て……頼む……ケンゴ!」
ジョージは何とか追いかけて角を曲がる。しかし、そこは通路を塞ぐように荷物が置かれており行き止まりだった。
「…………」
周囲の扉が空いている気配はない。ジョージは足を止めて、通路を塞いでいる荷物に話しかける。
「健吾」
「……じーも……消えちゃうんでしょ?」
荷物には隙間があり、その中にケンゴは潜り込んでいた。
「何故、そう思う?」
「……目をとじると……みんないる……でも……目をあけると……みんないなくなるから……」
孫は自分の事を覚えていてくれた。しかし、ケンゴは全てを諦めた様に次の言葉を呟く。
「……きょうも……おとーさん……おかーさん……笑っていてくれた……でも……起きると……みんな……みんないなくなるの……」
「…………」
「だからこれも……起きると……じー、消えちゃう……だから僕……もう……起きたくない……」
ジョージはその言葉で全てを悟った。
ケンゴは『WATER DROP号』で、ずっと一人で過ごしていたのだ。
いつ、助けが来るかも分からない状況で、残された食料を細々を食べて、疲れて眠ったら将平とアキラと夢の中で再会する。
でも、それは目を覚ますと全て消えてしまう。
ケンゴは眠る度に二人との別れを何度も経験していたのだ。
それは……どれだけ辛い事だったか。そして今、ケンゴの中では現実と夢の区別がつかなくなっているのだろう。
「健吾、ワシは消えたりしない」
ジョージは夢と現実を説明してもケンゴは理解できないと考える。
「…………」
「いつも側にいる。ワシは絶対にお前を一人にはさせない」
「…………じー、うそつかない?」
「ああ。じーは嘘をつかないよ」
すると、もぞもぞと隙間からケンゴが出てきた。まだ、暗い表情をしているが、ジョージはゆっくり抱きしめる。
「家に帰ろう」
「うん……」
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