懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
432 / 701

第431話 むっつりもいい加減にしろ!

しおりを挟む
「1課の人達は流石ね。七海課長が居なくてもキチンと回っているわ」
「逆ですよ~。居ないからこそ、キチッとしておこうって皆思ってるんです」

 鬼灯先輩が1課のヘルプに行ったのは、課の様子を見る事も考えの一つだったようだ。

「少し緩くて気持ちが浮わついてますけど……詩織先輩が来てくれたおかげで、改めて引き締まりましたから!」

 優しくても、ガッカリさせたくないと思わせる鬼灯先輩の魅力にはオレも共感出来る。
 先輩は優しいし怒らないけど、サボッちゃおーって気にはなれないんだよなぁ……あれ? これってもしかして、自らの魅了チャームをコントロールしてらっしゃる?

「そう言ってくれると、本当に嬉しいわ」
「午後もばりばりに働きますからね!」
「ふふ。無理をし過ぎると七海課長が戻った時にバテちゃうわよ?」

 ま、泉は幸せそうだから良いか。1課全体でも上手く回ってる様だし。
 鬼灯先輩の居ない3課は少し寂しいが、こちらも獅子堂課長が居ない分、皆しっかり動いている。

「前から聞こうと思ってたんですけど、鬼灯先輩って学生時代は凄くモテたんじゃないですか?」
「はぁ? なに言ってんのよ鳳。詩織先輩がモテないワケないじゃない!」

 オメーに聞いてねぇよ。

「ええ。あまり自慢する事では無いけれど」

 本人は控えめに言ってはいるが当時は凄かったんだろうなぁ。

「あぁ、いいなぁ。私も当時に生まれたかったです~。詩織先輩と学生時代を過ごしたかったぁ」
「ふふ。その時に泉さんが居てくれたら、学生時代はもっと楽しかったわね」
「やっぱり、ガードする人とか居たんですか? 鬼灯先輩って凄く魅力を振り撒いてますし」

 当時からこの魅了チャームを放っていたのなら、思春期真っ盛りの男子高校生は黙ってなかっただろう。

「ええ。物静かでとても強い幼馴染みが側に居てくれたの。アルバイトをしてた所のお孫さんだったんだけどね」
「へー」
「初耳です!」

 あまり自分の周りを語らない鬼灯先輩がその辺りを喋ってくれるなんて、少し意外だ。

「どこでアルバイトをしてたんですか?」

 泉のヤツ……ここぞとばかりにぐいぐい行くなぁ。

「ユニコ君の商店街は知ってるかしら?」
「はい。この辺りでは有名なマスコットが居る商店街ですよね」

 あの獣は可能性だらけだ。裏の顔を知ってる身としては、触らぬ神に祟りなし、が存分に当てはまる存在だと思っている。昨日は社長が入ってたし……

「そこにある古い店で『スイレンの雑貨店』と言う所よ」
「雑貨店ですか?」
「…………」

 初耳の泉は質問を続けるが、オレは自分の中で幾つかの点が繋がった気がした。確認の為に聞いてみる。

「あの……鬼灯先輩」
「なに?」
「もしかして、写真を撮られたりしました?」
「――ふふふ。そう。鳳君はスイレンさんの店に行ったのね?」
「まぁ、成り行きですが」
「ちょっとちょっと! 私にも教えてよ!」

 鬼灯先輩の話題になると泉は九官鳥の様にうるさい。蓋をするためにも教えてやるか。

「ちょっと諸事情があって、例の雑貨店に行ったんだ。そこで……まぁ、店主のお婆さんと仲良くなってな。コスプレカタログの前任者の写真を見せてもらった。あれ、高校生時代の鬼灯先輩ですよね?」
「スイレンさんも困ったものね」

 鬼灯先輩はそう言うが、特に困った様子はない。
 今思えば、あの写真の女子高生はどこかで見たことがある気がしていた。そりゃそうだ。成長した本人がすぐ近くに居たんだからさ。

「コ、コスプレ……」
「浴衣とかメイド服とかバニーガールとか……ノリノリな感じでしたよ」
「ええ。凄く楽しくてノリノリだったわ」
「くっ……こうしちゃ居られない!」

 すると泉のヤツは席から勢い良く立ち上がる。

「今日、何としても定時であがって! その雑貨店に行ってきます!」

 見せてもらうつもりか?
 おいおい。小動物が魔女の店にいけば即効で捕まって、あやしい薬の材料にされるぞ。

「泉さん。その店は少し特殊なの。出来るなら付き添いの人が一緒の方が良いわ」

 少し特殊……で済むレベルじゃないからな。あの店は罠だらけで入店者を補食する。

「ぬぅ……詩織先輩の高校生時代を拝むには険しいと言うことか……」
「何なら、陸君と一緒に行くと良いわ」
「えぇ!!? ぼ、僕ですか!?」

 隣に泉が座ってからわかりやすい程に緊張して黙り込んでいた陸君が驚きに声を上げる。

「ええ。一度行っている鳳君よりも、弁護士の陸君の方が良いと思うわ」

 確かに……オレも逆転弁護士ムーヴでお婆さんを丸め込めたから、本物ならばさぞ有効だろう。

「陸! あんたは今日定時!?」
「え、て、定時ですけど……」
「よし。じゃあ終業後にちょっと付き合いなさい。行くわよ……『スイレンの雑貨店』へ!」
「う、うん」

 こうしちゃ居られない! と泉は席を立つと鬼灯先輩に、失礼します! と言って食堂を後にした。少しでも早く仕事を終わらせるつもりなのだろう。

「じゃ、じゃあ僕も行きます……」
「陸君、泉さんの事をよろしくね」
「はい」

 そう言うと陸君も去って行った。

「ふふ。それにしても、鳳君がスイレンさんの店に行くなんてね」
「まぁ……さっきも言いましたが成り行きですよ」

 オレは席を少し移動。鬼灯先輩の対角側に座り直す。ここまで来たらオレはもう少しだけ今回の会話に踏み込んで見る事にした。

「鬼灯先輩。ガードしてた人ってやっぱり先輩と付き合ってたんです?」
「いいえ。当時は本当にただのお友達だったわ。彼自身、そう言うことに距離を置く様な性格って事をもあってね」

 何とも贅沢なヤツだ。鬼灯先輩のサイドをポジショニングしておいて、好意の欠片も無いとは! むっつりもいい加減にしろ!

「でも……彼が一番私を救ってくれたの」

 すると鬼灯先輩は本当に嬉しそうな笑みを作る。まぁ、この笑顔を作れるならソイツの事を許してやるか。ん? お前は何様だって? 後輩様ですが、なにか?

「ちなみに、その方のお名前とかをお伺いしても?」
「『スイレンの雑貨店』。その店主でもある人の名前は“真鍋翠蓮”と言うの。これで良い?」
「…………え? 真鍋?」

 話を整理すると……鬼灯先輩のアルバイト先である『スイレンの雑貨店』は当時ガードしてた人のお婆さんがやってる店で――

「鬼灯」

 考え込んでいると、横から気配も無しに4課のおさ――真鍋・・課長が話しかけて来た。

「どうか致しましたか? 真鍋課長」
「国尾と大見姉妹の件で意見が欲しい。少し時間は取れるか?」
「問題ありませんが、今は1課のヘルプに入ってまして」
「先ほどすれ違った1課の泉君に事情は話した。昼の始めはこのまま4課へ来てくれ」
「はい」

 ああ。なるほどね。護ってるのはフィジカル、頭脳共に日本最強の侍ってことね。むっつりとか……心で叫んで本当にスミマセン……

「鳳君、少し鬼灯を借りる」
「あ、問題ないです。オレももう課に戻るつもりなので」

 そう言いつつ、オレは手を振って去っていく鬼灯先輩に手を振り返した。

「……鬼灯先輩と付き合うには、真鍋課長を越えないといけないのか」

 無理ゲーも良い所だ。あんなん、誰も手を出せないだろ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件

遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。 彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。 「高校生になってもずっとお友達だよ!」 「……あ、うん」 「友達は友達だからね?」 やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。 本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...