懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第407話 異議あり!

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「イッヒッヒ」

 オレとショウコさんの案件に話がついた婆さんは、次にリンカへ向き直る。
 笑い方も相まって、少々不気味。カレンさんが側にいるので変な事にはならないと思うけど、それでも収集がつかなくなったらオレも口を挟まなければなるまいな。

「……前に、ここで写真を撮って貰ったと思うんですが」
「覚えてるよ。イッヒッヒ」
「え? リンカちゃん、ここでそんな事を――」
「ケンゴ。聞きたいことはこっちの話が終ってからにしなよ」

 カレンさんに注意されて成り行きを見守る。
 すると、リンカは自分のバッグから一刷の雑誌を取り出した。

「これ、何冊あるんですか?」
「イッヒッヒ。その1冊を含めて全部で3冊さ。試作品でね」
「残りの2冊は?」
「カウンターにあるよ。明日には大量発注をかける予定さ。商店街に置いて貰おうと思ってね。イッヒッヒ」
「即刻、停止してください……」

 危なかったぁ、と言った感じのリンカ。あの雑誌。一体、何が載っているのだろうか。スゲー気になる。

「イッヒッヒ。お嬢ちゃんや。この雑誌の件は互いに了承したと思ってるんだけどねぇ」
「うっ……け、けど。人目に触れるのは色々と問題があると言いますか……ネットだけにしていただければ……」
「イッヒッヒ。なかなかの難癖をつけるじゃないか」

 うぅ……と困った様子のリンカ。婆さんの言ってる事に間違いは無い様子で、リンカの方が無茶振りを言っているみたいだ。

「お婆さん、ちょっと良い?」

 すると、カレンさんの助け船。ママさんチームのストライカー発進!
 某裁判ゲームの様なペナルティゲージが互いに出現したぞ!

「この子はまだ高校生なの。色々と周囲の目が気になる時期で目立ちたくない年頃でもあるからさ。そこんトコを考慮してくれない?」
「カレンさん……」
「イッヒッヒ。良い返しだねぇ」

 おっと、婆さんの論争ゲージが減ったな。これはリンカ陣営優勢か?

「イッヒッヒ。今、新しい事業の足掛け段階でね。この期を逃すとどれだけの損失になるのか、想定できるかい?」
「え?」
「どんな事業ですか?」
「コスプレを出張レンタルする事業さ。『谷高スタジオ』との共同事業でねぇ。売り上げは億になるとワタシは推測してるよ。イッヒッヒ」
「……また億……」

 バァン。とリンカ側のゲージが減る。あのゲージはリンカとカレンさんの共通のモノらしい。

「……他のカタログとか、別の方の写真で代用は出来ないんですか?」
「イッヒッヒ。ソイツは難しいねぇ。何より新鮮な10代は貴重なのさ。初々しい肌は何よりも得難いからねぇ」

 リンカの提案に対し、唐突な魔女口調による反撃。生け贄を定めるまなこがピチピチのリンカに向けられる!(リンカ陣営ゲージ、バァン。残り4割)

 おいおい。負けるぞ。しょうがない――





「異議あり!」

 オレは店のカウンターに回ってから横からビシッと口を挟む。当然、ショウコさんを含む、全員の視線が集まる。
 心なしかBGMも鳴ってる気がする。

「イッヒッヒ。なんだい?」
「お婆さん……確かに貴女にとっては今が絶好の機会かもしれません。しかし、それは彼女の青春を壊してまで達成するものなのですか?!」
「イッヒッヒ。コイツは……」

 バァン。と婆さんのゲージが減る。残り4割。
 やはり、か。高齢とは言え、木の股から産まれたワケではあるまい。子供か孫を育てた経験上のある親ならば、思春期の重要性は理解しているハズ! そこに隙がある!
 オレはカウンターを一度、バン、と叩き、ビシッと指先を向けて続ける。

「リンカちゃんはまだ16歳です! そりゃ、胸は大きくて身体も大人っぽいですけど! 中身はまだ高校生なのですよ! 一生モノの傷になるかもしれない! そんな彼女の人生を壊す可能性のある事業など許容するべきではない!」
「イッヒッヒ。言うじゃないか」

 バァン。婆さんのゲージ残り2割。いいぞぉ、効いている! このまま止めを刺す!

「リンカちゃんは可愛いです! 片親の苦労を顔にも出さず毎日頑張っています! 料理も上手で、お母さん思いで、自分よりも身内の事を第一に考えてるんです! とても優しい女の子です! ずっと近くにいたオレだからわかります! そんな彼女だからこそ、その笑顔は守護まもらねばなら――」
「待て! 待って! も、もう! いいから! いいからぁ!!」

 すると、リンカからの“異議あり”が飛んできた。しかも、顔を真っ赤にしてオレの口を手で塞いでくる。何故だ……オレは味方のハズ……

「ちょっ、リンカちゃん。もう少しで終るから――」
「終るのはあたしだから! もう、黙っててよ!」

 リンカは頭から湯気を出しながら必死にオレの口を塞ぐ。
 オレは素直にリンカの良い所を訴えるだけだ。何故、リンカがダメージを受けているのかわからない。
 離してくれ、リンカよ。婆さんのゲージは残り2割。添い寝の時の笑顔の事を“くらえ!”って叩きつければ確実に勝てるんだ!

「くっくっくっ……アッハッハ!」

 と、カレンさんが笑いだした。しかも、お腹を抱えてマジの爆笑。

「ハハハ。お婆さん、妥協案があるけど聞く?」
「イッヒッヒ。なんだい?」

 笑い涙を拭いながらカレンさんの交渉が始まる。

「彼も言ったけど、リンカはまだ高校生だから、その雑誌を広めるのはまだ止めて欲しい。その代わりに、今回はアタシを撮るってのでどう?」
「え! カレンさん! それはダメだよ!」

 リンカが叫ぶ。自分の事でカレンに負担をかけるつもりで連れてきたワケではない様だ。

「どう? 自分で言うのもなんだけどさ。童顔って言われるから、服を変えればそれっぽく見えない?」
「イッヒッヒ」

 婆さんはカレンさんを見る。
 確かにカレンさんは身長も見た目も程よくて対比するモノが無ければギリギリ高校生に見えなくもない。
 リンカと居たときは、遠目にも姉妹の様に見える外見だったし。

「それで手を打とうかねぇ。イッヒッヒ」
「OK」
「カレンさ――」

 同行以上の迷惑をかけられないリンカは抗議するも、その口に飴が押し込まれた。

「さっきもファミレスで言ったでしょ? 子供は大人を頼りなさい」
「もごもご……」

 どんな話をしたのかわからないが、申し訳なさそうにしている。

「それに、結構面白そうだしさ。嫌々でもないから気にしなくていいよ」

 それ以上は何も言わないリンカは申し訳なさそうながらも納得はしたようだった。
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