懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第405話 お兄さんは許しませんよ!

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「にしても、今回は知らない顔が二人程居るねぇ。イッヒッヒ」

 突如として現れた雑貨店の店主たる老婆。その登場の仕方にオレらは驚愕するも、お婆さんはイッヒッヒと笑っている。

「お婆さん……あたしがここに来た理由がわかってるなら……」
「イッヒッヒ。それなりの対価は頂くよ」
「うっ……」

 なんだ? リンカは魔女と契約でもしているのか? お兄さんは許しませんよ! 火遊びをするなんて、セナさんが知ったらどんなに心配する事か! …………でもセナさんもノリノリで巻き込まれて行きそうだよなぁ。

「あのー」
「イッヒッヒ。なんだい?」

 取りあえず、オレはもやもやしている事を第一に尋ねる。

「どうやって、オレたちの後から?」

 唐突な出現をオレは問う。
 扉には鍵がかかってた。そして、扉鐘も着いているので、扉に少しでも動きがあれば近くに居たオレ達は簡単に気づいただろ。

「イッヒッヒ。ニイさんや。お前さんは、魔術と言うモノを信じるかい?」
「え? 魔術?」

 めちゃめちゃ雰囲気を醸し出しながら老婆が語る。

「この世には人間の知らない事が星の数以上存在するのさぁ。けど、いきなり心臓を抜かれるより恐ろしい事なんてアリはしないんだよ、イッヒッヒ」

 心臓がキュッとなって、背筋がゾクッとした。老婆の言葉に呼応したように室温が下がった気がする。

「あー、なるほどね」

 オレが言葉を選んでいると、カレンさんが入り口の扉を調べて納得していた。

「この扉鐘、遠隔ロックが着いてるね。扉に鍵がかかったロック音は、こっちがロックされた音だったみたいだよ」
「え? って事は……どういう事です?」
「アタシらの勘違い。扉は鍵がかかって無かった。扉鐘が鳴らなくなっただけで、お婆さんは普通に入ってきただけ」
「イッヒッヒ。やるねぇ、お嬢ちゃん」
「どーも」

 店内の放送に気を取られている間にお婆さんは扉から音もなく入ってきたと言う事か。
 木製の押し扉は開閉時に殆んど音を発しない。それを補う為の扉鐘だとすれば辻褄は合う。
 んだよ。魔術じゃないじゃん。ネタが割れれば全部科学で片付く事じゃん。あー、心臓をキュッてして損した。

「イッヒッヒ。ワタシは翠蓮すいれんだよ」
「音無歌恋です」
「鳳健吾です。あちらの二人は――」
「流雲昌子に鮫島嬢だねぇ。イッヒッヒ」
「……」

 名乗る前から名前を当てられて、ショウコさんはオレの影にサッ。ショウコさんの持つ厄祓いの感性が、相当に婆さんを警戒しているなぁ。
 リンカに関しては前に面識があるからか他よりも警戒心は弱い。

「何故……私の名前を?」
「イッヒッヒ。アンタは有名だよ」

 スイレンさんがちらりと視線をカウンターに向けると、そこには『谷高スタジオ』の写真集が! ショウコさんが表紙を飾る一般的な一刷である。

「…………」

 それでもショウコさんは警戒している。そりゃそうか。オレだって、イッヒッヒって笑いながら唐突にトリックで背後に現れる老婆に警戒しないハズはない。
 というか、真夜中の道端でこの婆さんと遭遇したら素直に小便チビるだろう。

「終始こんなノリだから。この人」

 オレらの中で唯一、理解の進んでいるリンカはどことなく頼もしい。

「イッヒッヒ。それにしてもお嬢ちゃんや。例の件を何とかするために、人数で押し掛けて来るなんてねぇ」
「あ、オレ達は別件です」

 ひとくくりの要件だと思われない様にオレは手を上げる。

「イッヒッヒ。そうかい。ニイさんと流雲嬢は何用だい?」
「えっと、サマー・ラインホルトの“届き物”を受け取りに来たんですが」
「イッヒッヒ」
「いや……イッヒッヒじゃなくて……」

 イッヒッヒのトーンが全部同じなので、その台詞から感情が全く読み取れねぇ! これは魔女の魔術の一旦か……?

「あるにはあるけどねぇ。タダじゃ渡せないねぇ。イッヒッヒ」
「なにぃ!?」

 なんだと……普通にお使いをして、それで終わって、PS5がゲット出来るのではなかったのか?!

「アンタらがサマーの使いって証拠は何もありはしないからねぇ。イッヒッヒ」
「えーっと……『ハロウィンズ』です」
「イッヒッヒ。上流階級をおちょくってるハッカー組織だねぇ」
「一応、メンバーなんっすよ、オレ」
「アンタみたいなのは知らないねぇ。イッヒッヒ」

 あれー? サマーちゃん? オレの事、認識されてませんよー?

「流雲嬢も、何でこんなところに居るのか不明だねぇ。イッヒッヒ」

 ショウコさんに関しては最近に関わりがあったので仕方ない……って言うか、ショウコさん名義で届いた荷物じゃ無かったのか?

「……受取人に流雲昌子ってなってません?」
「なってるよ。イッヒッヒ」
「えっと……彼女がショウコさんです」

 オレは肩口からスイレンさんを覗くショウコさんに視線を向ける。

「イッヒッヒ。この荷物はかなりデリケートな代物でね。確実な補償が無い限りは渡すのは控える様にしてるんだよ」

 なんだ、この婆さん。面倒くさいなぁ。オレは最終手段としてサマーちゃんと直接話しをしてもらう為にスマホを取り出す。

「じゃあ、直接サマーちゃんに話を――」

 スマホを見ると何故か『圏外』となっていた。おほ? なんで?

「どうかしたのかい? イッヒッヒ」
「…………」

 間違いなく、この婆さんが何かやってる。
 外で連絡をしよう。オレは一度店内から出る為に扉に手を掛け――

「――うほ?」

 思わずゴリラになる。
 扉にノブがない……だと!? バカな! 一体、何が起こってるんだ!? しかも、この扉は内開き! 押しても開かないのである!

「…………お婆さん」
「イッヒッヒ」

 オレとショウコさんが慌てている後ろでリンカだけが、やれやれと頭を抱えていた。

「ただ者じゃない事だけは確かだねぇ」

 カレンさんも特に焦った様子なく、そんなことを呟いた。
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