懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第386話 ファンタジーじゃん

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「え……女郎花……社長が来る?」
「ええ。説明会を聞いて会社に興味を持ったみたいで、日本を発つ前に一度、来訪するそうなの」

 いつも通りの業務の最中。オレは鬼灯先輩から女郎花が本日に会社に来訪する事を聞いた。

 女郎花教理おみなえきょうり。大企業『プラント』の社長にして、『ラクシャスの英雄』と言う、現在進行形で世界的な偉人として認定されている超大物だ。

 しかし、オレは知っている。ヤツの本性は、私の光ぃ! とか言ってショウコさんを拐ったロリコン野郎だ。さっさと檻にぶちこむか、おしり警察の取り締まりを強く願う。

「ふふ。そんなに身構えなくても大丈夫よ、鳳君。3課に来たら私が対応するから」

 裏側の事情を知らない鬼灯先輩は、ニコニコしながら告げる。
 大丈夫かなぁ……。鬼灯先輩もショウコさんに負けず劣らずの絶美を持つ美女だ。今度はこっちを標的にしないとは言いきれない。

「あの……本日は4課の方々は?」
「真鍋課長と鷹先生はいらっしゃるわ。どうして?」
「あ、いえ。他の課を覗く際に……対応する方はいるのかなーって」

 それなりに誤魔化す。真鍋課長と鷹さんがいるなら大丈夫か。
 奴らに負けず劣らずの魑魅魍魎を飼っているこの会社に、直接乗り込んで騒ぎを起こせば骨も残らずに消滅するだろう。

「基本的には社長が付き添うそうよ。でも、少しタイミングは悪いわね。名倉課長は本日、出先で戻らないし、七海課長は休暇だから」

 獅子堂課長は言わずもがな。熊吉防衛戦線に参加中で不在だ。(表向きは家族旅行)
 名倉課長が不在なのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 すると、内線が鳴った。

 課長クラスが軒並み不在な現在では、社内における伝達事項は各課の関わる案件の場合のみ、課長席の内線が鳴る。
 今の3課では鬼灯先輩か徳さんがそれを取る事にしており、基本的には近い席の徳さんが対応をする。

「皆。女郎花社長が来た様だ。変に気を張る必要はない。いつも通りの挨拶をね」

 女郎花が来た旨を徳さんが告げる。彼の声は特に大きくないものの自然と場に通るのだ。全員、はーい、と返事をする。

「通路なんかでスレ違ったら失礼の無いようにね」
「はい」

 オレにそう言うと鬼灯先輩も席に戻った。

「……ヤツが来るか」

 皆は普通に対応できるだろうが……オレとしては中々なイベントだ。
 ヤツは洞察力も桁違い。ユニコ君『Mk-VI』で顔や体格や声は隠せていたが……それでも、ヤツとの接触は極力避けよう。
 なんやかんやでボコボコにしちゃってるワケだし。





「どうやら。完全に治った様ね、リン」
「その説はお騒がせしました」

 早退した日より2日後にはすっかり風邪も良くなったリンカはいつもの日常に戻っていた。学校でいつも通りに親友のヒカリに話しかけられる。

「ふふーん。聞いたわよ。ケン兄が迎えに来たんだって?」
「そう言う事は、ホントに耳が早いよね……」

 警察官の娘ですから。関係ある? などとツッコミを入れるのは二人にからすれば日常会話である。

「まぁ、カレンさんからの情報なんだけどね。リンの事、ダイキも心配してたって」
「皆、大袈裟だなぁ」

 それでも、気にかけてくれる身内の存在はとても嬉しい。迎えに来てくれた彼の事も含めて。

「そう言えば、LINE見たけど。文化祭の出し物。本当に『獣耳メイド喫茶』に決まったの?」
「うん。皆、意外にも乗り気でさ。説客する男子も執事服を着て犬耳を頭に乗せるって」
「ファンタジーじゃん」

 男子は元より、女子もそれなりに許容したのは意外だった。

「箕輪先生も、楽しく接客経験が積めるならって許可してくれてね。細かい所は後々詰めるらしいけど、一旦はそれで決まり」

 などと会話をする二人であるが、実の所はヒカリのメイド服を見たいと言う“力”が裏で動いての事だった。

「そう言えば、そうなった時の衣装はヒカリの方であてがあるんじゃなかったっけ?」
「あるわよ。そこで、リンにお願いしたくて」

 ヒカリは申し訳無さそうに両手を合わせる。

「その店に行って直接話を聞きに行かない?」
「そう言うのって電話とかじゃ駄目なの?」
「直接訪問した方が色々と話を聞けると思うし。もし、無理ならすぐに次を考えないといけないからね」

 と、ヒカリはその店のカタログを鞄から出し、リンカの机に置く。

「『スイレンの雑貨店』って所。今、ママの会社の新企画でもお世話になっててさ。コスプレの写真もあるよ。なんか、一部の写真は新しい子に更新したとかで――」

 と、雑誌を開こうとしたソレをリンカは阻止する。

「わかった。行く」

 リンカの思い出すのは、イッヒッヒッなブービートラップに引っ掛かって色々とコスプレ写真を撮られた時の事である。
 恐らく、この雑誌にはあたしが写っている。ウイッグやいつもと違う服装なので、ヒカリにはまだバレてはいないようだが、写真と自分が並ぶと気づかれる可能性があった。
 まさか……身内がこの店と接触する事があろうとは!

「じゃあ、いつ行く?」
「明日、土曜日で休みだから行くよ」
「日曜日で良くない? 私、明日は撮影だからさ」

 ならば好都合。これ以上、カタログが発行される前に停止する様に交渉せねばなるまい。

「いいよ。一人で行くから」
「うーん。一応、商品を交渉するワケだし、最低限、誰かと一緒がいいよ」

 クラスで誰か付き添えないが確認を――と動いたヒカリの手をリンカは掴む。

「大丈夫……あたしに宛てがあるから」

 クラスメイトと一緒に行って、カタログの件が露出したら大惨事だ。

「そ、そう? な、ならまかせるわ」

 メイド服がそんなに楽しみなのかぁ。と、この件に異様な凄みを見せるリンカにヒカリは全て任せる事にした。
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