懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第383話 仲間外れは嫌なんです

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 最終戦。七海恵VS白鷺綾。
 場所は室内から移動し、公民館の玄関前広場に移っていた。

「本当に良いんだな?」
「はい。これが最も納得できる形になると思いますので」

 軽く伸びをする七海は、丁寧な姿勢で前に立つアヤに再確認する。

「それじゃ、最終戦は組手だよ。打撃は無しで先に地面に手を着いた方の負け」

 コエが二人の間に立ち告げる。

「別に着替えて来ても良いぞ。着物は動きづらいだろ?」

 動きやすい長ズボンにシャツ姿の七海に対して、アヤは着物姿で帯で袖だけを捲る。

「侮っているワケではありませんが……私は着なれた服装の方が動きやすいのです」

 そう言って、草履だけを脱ぐと素足で地面に立つ。

 ……なるほど。嘘じゃないみたいだな。

 上流階級の人間は自ら泥を踏むような行為を絶対にしない。しかし、アヤは本気を出すために平然と裸足になった。
 目的の為に汚れと傷を負う事を厭わない。
 僅かながら、白鷺綾と言う人間が只の気品あるお嬢様ではない様を垣間見る。

「良い女だな。お前は」
「ふふ。ありがとうございます」

 アヤは愛くるしく笑うが、その雰囲気は既に闘志を感じさせる。七海はスイッチの切り替えも相当に早いと感じ取った。

「それじゃ、始め」

 ギャラリーが見守る中、コエが上げた腕を振り下ろして開始を宣言した。





 さて……どう切り込むかねぇ。

 開始と同時にアヤは猫足立ちの構えを取る。その様は自然と馴染んでおり、一切の隙が感じられない。

 あっちは“受け”を選んだか。まぁ……着物ならそれが妥当だわな。

 元よりアヤは自分から攻める様なスタンスでは無いのかもしれない。それに構えからもわかる。
 恐ろしい程にブレない体幹は、彼女の培った深い鍛練によって構成されているのだと。

 フェイントを混ぜて、誘って見る――

 その瞬間、空気がふわりと動いた。

「――――」

 生物には正常であっても咄嗟に動けない瞬間が幾つか存在する。

 何かをやろうと他に意識を向けた時。
 視線を外した時。
 どのように動くか身体の動作を決めた時。

 そのどれもがコンマ数秒の瞬間であるものの、達人同士の間合いに置いては致命傷となる。

 攻めてこないと言う考えの裏を取ったアヤの動きは、完全に虚を突き、七海の手をごく自然に握る。

「――全部“擬態”です。七海様」

 動きづらいと認識させる着物も、猫足立ちの構えも、全ては“攻め気はない”と相手に認識させるカモフラージュ。

「ハッ――」

 しかし、七海も常人ではない。アヤの動きにワンテンポ遅れるも的確に反応。残った手で逆にアヤの襟首を掴む。

「ありがとうございます」

 七海が掴んだ瞬間にアヤは身体を半回転させ、そのまま背負い投げに移行。その動きも熟練者の様に洗練されている。

「――――」
「びびったぜ」

 しかし、七海は持ち上がらず地面に足は着いたままだった。
 アヤの動きは完璧だった。10人中9人はまともに反応できずに投げられていただろう。

「柔術に関しては化物みたいなジジィと何度も戦り合ってるからな」

 柔術に関しては、ゲンと幾度と組手をした七海に一日の長があった。
 しかし、咄嗟に重心を変化出来たのは七海の判断の早さと技量があっての事だろう。

「――――」

 しかし、アヤの判断も早い。投げられないと悟ると向き直り、手を離しつつ即座に離れ――

「逃がすか」

 七海は掴んだアヤの襟首だけは、決して離さなかった。縄が張る様に七海の腕が延びきり、アヤの後退を阻止する。

「ソレを逃がすほど俺はマヌケじゃねぇよ」

 そのままアヤを引き寄せ――

「『地崩し』」

 その様な言葉が出た瞬間、七海は足場から踏み外した様な浮遊感を感じた。





「アヤ。お前は無理に何もかもやろうとしなくて良い。自分に出来る事だけをやりなさい」

 御父様は私に強制はしなかった。だから、私もそれに応えて、出来る事だけをやった。
 けれど……一つだけワガママを言った事がある。

「御父様。私に『古式』を教えてください」

 御父様が並ならぬ技量を持つ事は知っていた。御母様もその事に関しては理解している様だったけれど、二人は私には決して話してくれなかった。

「アヤ。アレはお前には必要ないよ」
「……仲間外れは嫌なんです」

 私の最初で最後のワガママに御父様は、参ったなぁ、と言い御母様は、もう知っておくべきよ、と言ってくれた。

 『神島』『国選処刑人』『楔』『古式』。

 御父様は全てを話してくれた。それが嘘か本当かは疑う必要さえもなかった。

「『古式』は弱者の為の術だ。自分よりも強い者にしか機能しない。お前にはあまり意味がないと思うが……」
「教えてください」

 敵わないと思える程の驚異から御父様と御母様を護るために。


 その時は、そう思っていた。
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