懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第345話 この馬鹿ども

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「すみません。荒谷蓮斗さんの病室はどこでしょうか?」

 町が夕焼けに染まる時間帯。
 久岐一くきはじめは部下からの連絡に病室を訪れると、受付で蓮斗の部屋番号を聞くと真っ直ぐ病室へ向かう。

「心配すんな、野郎ども。念のために一日泊まるだけだ」
「ホントっすか?」
「やっぱり死ぬとか無しですよ?」
「無茶し過ぎっすよ」

 蓮斗が割り当てられたのは意外にも個室である。質の高いベッドに座り、機嫌は良い。
 そこへハジメが横戸の扉を開けて入室。四人は視線を向けた。

「「「姉御」」」
「おう、ハジメ」

 四人の反応にハジメはつかつかと歩くと、何も言わずに蓮斗の頭に拳骨を叩き下ろした。
 蓮斗は前のめりになり、頭から煙を出す。

「痛ってぇ……」
「「「社長ー!!」」」
「おう、ハジメ。じゃない、この馬鹿ども」

 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! と部下三人にも拳骨が落とされる。そして、蓮斗の襟首を掴んで引き起こした。

「会社にパンクした後輪とドアの外れたバンが運ばれて来たぞ? 何をやらかしたか、きちんと説明が出来るんだろうな?」
「ま、待て! きちんと説明する! 一から十まで嘘偽り無くだ!」
「それは最低条件だ。その後にお前達の処分を決める。いいな? バンの修理費で半年はお前らの給料が減ると思え」
「「「そんなぁ!」」」

 部下の反論に対してハジメは一睨みで黙らせる。

「ハジメ」
「なんだ、馬鹿」
「コイツらは関係ねぇ。全部この俺様の責任だ。修理費は全額、俺の給料から差し引いてくれ」
「「「しゃ、社長!!!」」」
「馬鹿言うな。連帯責任だ。例外は作らないと前に言っただろう」

 止められなかった部下にも責任がある。ハジメは、これは自分達の決め事であり、会社や蓮斗達を護る為に必要な事なのだ。

「さっさと話せ。どこでどんな馬鹿やったら、バンがあんな事になって、お前がそんな怪我をする?」

 怒りの収まらないハジメは腕を組んで佇むと睨みながら事の顛末を催促した。





「って事だ」

 ショウコの誘拐を手伝った所から覆面アベン○ャーズによる救出までを蓮斗は全て説明する。
 ハジメは目頭を抑えて、はぁ……と深く息を吐く。

「よりにもよって黒金と……お前は本当になんて事を……」

 黒金陣営は政界でも火防陣営と並ぶ、野党第一として名を連ねる存在だ。
 ソレに対して大立ち回りをしたなど、頭が痛くなる。

「折角……烏間筆頭が目にかけてくれたと言うのに……」

 この一件で後に頼まれた仕事も全部流れてしまうかもしれない。

「なんだ! 烏間のばっちゃんと会ってたのかよ! 元気そうだったか?」
「あの方は元気だ。まったく……この馬鹿が」

 それでも誘拐した流雲女子から訴えられる事はないのは不幸中の幸いだ。

「それで、一体誰の金でこんな個室に入ってるんだ?」

 こんなヤツはタコ部屋で良いだろうに。ハジメは蓮斗に不釣り合いな個室を用意された経緯を聞く。

「黒金のおっちゃんがよ。医療費とバンの修理費は全額持つって言ってくれたのよ! これも俺様の人徳の成せるワザだな!」

 そう言って、がーっはっはっ! と蓮斗は笑うと、痛てて……と刺された箇所を押さえる。

「黒金の方が……か」

 この行為は今回の件に対して全面的に黒金が己の非として捉えていると見て良いのだろうか? いやいや、楽観視は出来ない。しかし、確認するにしても烏間筆頭を頼るのは……

 するとノックが聞こえ蓮斗が、どうぞ! と入室を促す。

「失礼するよ」

 入ってきたのは黒いハットを被った老婆だった。全員が顔を見合わせるが誰も見たことの無い人物である。
 老婆は場を一瞥して、

「あんたが荒谷蓮斗あらたにれんとだね」
「おう。婆さんは?」
「アタシはこう言う者さ」

 老婆は名刺を取り出すとハジメがソレを受け取る。名刺の名前を見ると、数秒置いてハジメの顔色が変わった。

「み、三鷹弥生弁護士!? な、なぜここに!!?」

 弁護士界隈でも伝説の人物の登場に、ソレを理解するハジメだけがあたふたする。
 蓮斗と部下三人は、誰だ? 売店の人じゃないっすかね? などと能天気な会話をしていた。

「現役は退いたよ。今は若い奴らの尻を叩いてる隠居さ」

 そうは言うが、動けば弁護士界隈に留まらず、警察に政界にも大きな影響を与える人物であることは確かだ。この名刺も喉から手が出るほど欲しがる政界人は多い。

「あ、あの。く、久岐一と言います! 遅れながら! ど、どうぞ!」

 ハジメも名刺をビシッと渡す。鷹さんは、ありがとね、と年下の女子に甘い笑みでそれを受け取った。

「そ、それで今回はどんな用件で!?」
「少し話と提案をしに来ただけさ」
「話しですか?」

 三鷹は確実に状況を把握する為に真鍋から蓮斗に調書を取るように頼まれての訪問である。そして、

「ウチの若いのから聞いたよ。“何でも屋荒谷”。随分と力を持て余している様じゃないか」
「お、お恥ずかしながら、この有り様でして……」

 頭にたんこぶを作る四人とハジメの計五人の会社。三鷹は若々しい彼らを見て、フッと笑う。

「そこで、提案なんだけどね。ウチのトップに会ってみる気はないかい?」





「社長」
「なんだい? そろそろ夕飯は中華を食べたいね」
「鷹さんから、出張から戻ったら見て欲しい会社があると」
「ほう。名前は?」
「“何でも屋荒谷”だそうです」
「HPは?」
「ありません」
「ふっはっはっ! 良いね! 何をしているのか全く解らないよ! 甘奈君! 出張後の予定に組み込んでくれたまえ!」
「わかりました」

 後日『何でも屋荒谷』が参列会社として登録された。
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