懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第331話 どの部屋も袋小路だぞ!

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 蓮斗の一撃は白山へ炸裂する。
 超人体質と呼ばれる蓮斗の身体は筋繊維の密度が濃く、強靭な肉体を今も尚成長し続けている。それは肥大化せず引き締まっており、外見は多少大柄に見えてもその体重は現時点で200キロに近い。

 そんな蓮斗から放たれる一撃一撃は他で言う必殺クラスの威力を持つのだ。
 故に技術など要らなかった。圧倒的な身体能力は逆に相手を気遣わなければ、間違いなく死なせてしまう。

「んが!?」

 しかし、蓮斗は次の瞬間には顔面を地面に叩きつけていた。

「中々のパワーだが……この白山の前には無力!」

 何が起こりやがった!?
 蓮斗は肘をついて起き上がる。攻撃を当てると同時に上から裏拳が振り下ろされた。その威力は耐えられるモノではなく、地面に叩きつけられたのである。

「『流力』を極めたこの白山にあらゆる打撃は無効!」

 古式『流力』。攻撃を受ける前に身体を浮かせる事であらゆる衝撃を受け止める。更に捻りを加える事で車に轢かれようとも無傷で生還する事も可能とした。
 その捻りを応用する事で、身体を浮かせずとも受けた衝撃を流す事を可能とする。相手からすれば空箱を殴った様な感覚に陥るだろう。

 元は合戦において、敵の騎馬突撃を歩兵が正面から受けても生還する為の技であった。
 それを白山はより極め、今では受けた衝撃をそのまま相手へ返す事を可能としていた。

「荒谷蓮斗よ! 貴様は手加減しているな! もっと思いっきりこいや!」
「言ってくれるぜ……」

 蓮斗は白山の攻撃は一種のカウンターであると感じ取る。裏拳一つで効かされた。俺の攻撃がそのまま反ってきたのか?

 本能的に何が起こったのかを感じ取りつつ、再び拳を構える。
 馬鹿の一つ覚えと思われるかもしれないが、三人を釘付けにするには常に一撃必殺技の構えを取るしかない。

「うっふふ。こっちに来なさいな」
「……」

 ショウコと黄木は階段の上段と下段で綱引き状態。今は耐えているが、少しずつ下段の黄木がショウコを動かす。

 近づき過ぎると絡めとられるか。蜘蛛みたいな女だ。

 ショウコはマスクを着けた黄木の特性を瞬時に理解する。理解した上で――

「さぁ! さぁ!」

 黄木が強く引っ張った瞬間を狙って階段から跳んだ。黄木の頭上を飛び越えて敵中に着地する。

「! 今だ! 捕まえろ!」

 ユウマが叫ぶがそれよりも反射的に黄木、緑屋、灰崎は動きを停止した。

 彼らは個々の技量が尖った者達。故に咄嗟の連携は練度が低く、同士討ちを警戒し動きが止まったのである。

「おい! 馬鹿力! こっちに来い!」

 ショウコが叫ぶと、蓮斗は相手が止まっている様子に白山に背を向けて彼女の元へ走り出す。

「なぁにぃ!? この白山に背を向けるとは! 殺る!」

 その蓮斗に殴りかかった白山。すると、蓮斗は咄嗟に踵を返した。

「自分の勢いが乗ったまま、さっきのが出せるか?」
「この白山を誘っただと!? やるじゃん!」

 ドォン! と蓮斗の拳が炸裂。しかし、咄嗟にも『流力』にて足を宙に浮かせた白山は、ダメージを軽減しつつ後ろに吹き飛ぶ。

 なんだコイツ……中身が無ぇのか?

 蓮斗が空箱を殴った様な感覚に困惑していると、その後頭部を緑屋の蹴りが炸裂する。

「超人らしいけどさ。頭はどうなのよ?」

 本来なら意識を失う頭部への一撃は蓮斗にとっては、耐えられないモノではない。宙に浮く緑屋の足を掴む。

「はは! スッゲ! 効かねぇのかよ!」
「おら!」

 蓮斗は緑屋を振り回す様に黄木に投げつける。黄木は避けようと動くが逆にショウコは糸を引っ張り動きを制限する。

「あら?」
「自分の巣に絡まったな」

 仕方無しに糸を外し回避。灰崎は緑屋を庇う様に彼を受け止める。

「ナイスキャッチ。灰崎」
「油断するなと言っただろう」

 灰崎は軽口が治まらない緑屋に呆れる。
 超人体質。規格外の戦闘力がここまで厄介だとは思わなかった。常人ならば三度は死んでいる頭部への攻撃に対して、平然と動いているのは予想外である。

「ほら、行くぞ。馬鹿力」
「ん? おう」
「あ!」

 拘束の解けたショウコは階段を上がり、蓮斗も近くの照明を適当に投げつけて後に続く。

「くー! お前ら何をやってんだ! とっととショウコを捕まえろ!」

 ユウマの声を無視し、ショウコは二階へ上がる。そして、近くの部屋をドアノブを回すも鍵がかかっていた。

「退いてくれ」

 だが、蓮斗にかかれば鍵などあって無い様なモノ。持ち前のパワーで簡単に蹴破ると難なく中に侵入。ドアを閉めて、扉の前に棚などを倒し進入路をふさいだ。





「中々、思いきった事をしたな姉ちゃんよ!」

 蓮斗は室内の物を更にドアの前へ重ねると完全に封鎖した。
 室内は客室の様で、ベッドなどを平然と持ち上げる蓮斗を見ると重力がバグったのではないかと思わせる。

「たまたま上手く行っただけだ」

 と、言いつつも蓮斗を見捨てられなかったのは事実だ。あの場に残っていれば間違いなく殺されていただろう。
 すると蓮斗はショウコに対して土下座をした。

「俺のせいでこんな事になってすまねぇ! 本当に申し訳ない!」
「そんな事をやってる場合じゃ無いだろう」
「いいや! 機会は無くなるかもしれねぇ! 言える時に謝らせてくれ! すまなかった!」
「わかったから。今は脱出に集中しろ」
「おう!」

 馬鹿正直なヤツだな、とショウコは呆れるも一応は誠意として受け取っておく。

「窓は完全に塞がれてるな」

 屋敷全てが外からの光を一切入れない程に塞がれている。客室があることから本来はこの様な用途で建てられた建物では無いハズだ。
 異常とも思える外との隔絶。一体、何を恐れている?

『ショウコ! 出てこい! どの部屋も袋小路だぞ!』

 部屋の外からヤツの耳障りな声が聞こえる。袋小路か……

「結構高けぇな!」

 しかし、蓮斗はバキバキと雨戸を窓の枠ごと取り外すと、窓から外を覗き込んでいた。

「常識の範疇なら袋小路だったな」

 意外と使えるなコイツ。とショウコは蓮斗の評価を改めた。
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