懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第330話 ありがとよ!

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「『国選処刑人』ですか?」
「日本を護るために抑止力として必要な事だ。20年前に“神島”が事実上の引退を宣言し、裏側の圧力は彼の老化と共に弱まるのは必定と言える。その為にも『国選処刑人』は政府が引き継がなければならない」
「……この話をしたと言うことは私も巻き込む算段ですか? 森総理」
「野党第一の君は私の後を継ぐ。今から仕組みを知っておいてもよかろう」
「この話しは烏間幹事長に通しておられて?」
「そんなわけないだろう。あの婆さんに知られれば必然と神島にも行く。編成は極秘に行われ、試運転も済んだ」
「試運転……ですか?」
「まぁ、そこは追々説明していこう。今季には稼働を始める。神島でさえ止めることの出来ない闇ならば、日本の“楔”は全て取り払えるだろうからな」

 それから一週間後。雨の降る夜に黒金の元へ一つの連絡が入る。

「はい。黒金――」
『黒金貴様! 裏切ったな!!』
「総理!? どうしたのですか!?」
『どうしたもこうもない! 『国選処刑人』が襲撃された! 貴様が烏間にもらしたのだろう!?』
「私は何も関与していません! そんな事をして今の陣営を崩すメリットは無いでしょう!?」
『う……確かにそうだが……ならばどこから……いや、それよりもこのままだとマズイ……恐らく襲撃者は――』

 そこで、ブッ、と通話が切れた。黒金は何度もかけ直したが連絡がつく事はなかった。

 その後、森総理は病気療養と言う形で表には出て来なかった。
 再度姿を表したのはその半年後、国会にて火防議員が汚職を糾弾する場面だった。
 まるで憔悴しきった様にやつれた森総理は火防議員の質問に対して全て否定も言い訳もすることなく肯定し、総理を任を降りた。

「彼らは生き残りよ」

 その後、烏間幹事長に連絡を受けて収監されていた五人を紹介された。

「彼らは辞表を提出し、いつ死んでも何者にも責任を問われない者達。それが『国選処刑人』。そして、日本国内において、殺意与奪を容認された者達よ」
「彼らはどうなるのですか?」
「さぁ。兄は殺せと言うでしょうね。誰も困らないし余計な火種は抱えない」
「……貴方も同じ考えで?」
「当然ね。『国選処刑人』なんて、本当は必要ないもの。彼らは関わり過ぎた。次に兄が動けば間違いなく皆殺しね」
「私の陣営で抱えます」

 迷いなくその言葉が出たのは癌で亡くなった警察官の父の影響があったからだろう。

「そう。頑張りなさい」

 烏間幹事長はそれだけを言うと去り、私は彼らにSPとしての役割を与え、陣営に迎え入れた。





 先に疾走ったのは緑屋だった。
 瞬間的な速度で接近すると飛び蹴りを蓮斗へ食らわせる。

「おお?」
「へっ」

 全体重を乗せた蹴り。それを踏ん張る形で受けた蓮斗は容易く耐えるとその足を掴む。
 しかし、緑屋は身体をひねって回転し掴みを外す。その攻防の最中にショウコは二階へ続く階段へ向かう。

「あらあら。どこへ?」
「緑屋ぁ! 抜け駆けは許せんぞ!」

 ショウコの前には黄木が散歩をするように前に立ち、蓮斗へは白山が前に出てくる。

「白山よぉ。こいつ硬ぇぜ?」
「殺ってみようではないか!」
「お前ら、あんまり油断するな」

 ブレイクダンスのように緑屋は派手に起き上がると、灰崎も蓮斗の制圧に乗り出す。

「荒谷蓮斗。両親は事故で他界。祖父母も病で亡くなり、幼い事から孤児院の『空の園』で育てられる」
「お前はゲームの紹介文か!」

 蓮斗は灰崎を指差すと突っ込みを入れる。

「確認だ。お前がここで暴れるのは良い。だが、その後がどうなるか考えた事はあるか?」

 その気になれば『空の園』を潰す事など彼らには容易い。灰崎は搦め手を用いて蓮斗の制圧にかかる。

「悪いがよ、眼帯の兄ちゃん。俺はもう迷わないって決めたんでね。一度決めた事を、この荒谷蓮斗が曲げる事はねぇ!!」
「やれやれ。バカもここまで振り切れると逆に清々しいな」
「ありがとよ!」
「誉めてねぇよ」

 そんな形で蓮斗は三人を抑えているものの、流石に不利だと悟る。
 コイツら……そこらのチンピラとは比べる者にならねぇな。こう言う時は……漫画だと狭い通路に誘い込んで一人ずつ……だぁ! ここは広いぜ! それに狭い通路は……無ぇ! でぇぇい! 考えるのは面倒くせぇ!

 蓮斗は拳を握り中腰で力を溜める。

「一人一撃。三発で決めるぜ!」
「ハッハッハ! おもしれーやつ」
「良いぞ! この白山にお前を見せてみろ!」
「お前達、相討ちは敗けだと思え」

 一度青野を見るが、彼はユウマを護る様に立ち、動く気配がない。そして、ショウコにもチラリ。

「皆、貧乏くじねぇ。うっふっふ」
「貧乏くじはお前かもしれないぞ?」
「私は死は麗しい者にこそ相応しいと思っているの。貴女はとてもイイわぁ」
「そうか」
「おい! 黄木! ショウコは殺すな! 傷もつけるなよ!」
「だ、そうだが?」
「正当防衛って便利な言葉よねぇ」

 どうやら黄木はユウマの命令を全て護る気は無いらしい。
 と、ショウコは階段の横にある立て掛けの照明をおもむろに掴むと黄木に投げつける。

「あらあら可愛い」

 スッとソレを避けた瞬間と同時にショウコは照明を踏んで黄木の横を抜けて階段へ登った。

「そんなに急いでどこへ?」
「!」

 しかし、腕を引っ張られる感覚に思わず動きが停止する。見ると、小さな釣り針が袖に引っ掛かり、それから伸びる糸が黄木の手元と繋がっていた。

「面倒な物を……」
「人は僅かな身体のブレに動きを左右されるの。貴女の身体の主導権は今、私にあるわ」

 階段の上と下で見えない綱引きをするように硬直するショウコと黄木へ蓮斗が意識を向けたその一瞬、白山が間合いに入る。

「この白山の前で意識を散らすとは! 甘いぞ! 荒谷!」
「! オラ!!」

 蓮斗は目の前に出てきた白山へ溜めた拳を叩き込む。
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