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第313話 終わったけど終わってない

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「ふいぃ……」

 オレはクルーザーの中に入るとユニコ君『Mk-VI』の頭部をようやくパージできた。空気がうめぇ。
 荷台の部分にはフルアーマーユニコ君が3機、捨てられた着ぐるみの様に雑に置かれている。
 こんなモンが空飛んでクリームをばらまくんだから恐ろしい時代だよ。

「お見事でした、鳳殿」
「人生で二度と無い経験だったよ……」

 オレはサマーちゃん達に『Mk-VI』のパーツを外してもらいながら、ヨシ君と会話する。

「よくぞ帰還し、た!」
「くふふ。『Mk-VI』も良いデータが取れましたねぇ」
「女郎花教理。人類の到達点相手に、見事じゃったぞ! フェニックスよ!」
「滅茶苦茶疲れた……」

 ユニコ君『Mk-VI』。映画なんかで出てくるパワーワードスーツに憧れが無かったと言えば嘘になるが、現実は上手く行かないモノだ。

「わしらの完全勝利じゃな!」

 と、ショウコさんが船室へ入ってくる。
 過程はどうであれ、全員が無事だ。オレも最後まで顔は隠しきれたし、ジジィに『古式』の件でバレる事は無いだろう。

「私は流雲昌子と言います」

 すると、オレの知るショウコさんとは違う声色で皆に言う。

「今回は私のために並みならぬ苦労をかけました。本当にありがとうございます」

 ペコリと頭を下げるショウコさん。皆の反応は――

「何も問題はな、い!」
「くふふ。我々は手を貸しただけですねぇ」
「我輩は仕事ですから」
「礼ならフェニックスに言うが良い! 流雲昌子! こやつが持ってきた案件だ!」
「別に気にしなくていいよ。君とはそう言う契約――」

 オレが言いきる前にショウコさんは抱きついてくる。まだヘッドパーツ以外を着けたままなので、ふくよかな胸部の感覚を味わえないのが惜しまれる。

「ありがとう。ケンゴさん。迎えに来てくれて」
「どういたしまして」

 自分に向けられる笑顔と言うのは本当に良いモノだ。





 マーク襲撃の件で警察に事情聴取されていた名倉はスマホが鳴ったので相手を見る。着信は舞子からだった。

「すみません、先に電話をよろしいですか?」
「どうぞ」

 警察から少し離れて名倉は電話に出る。

「舞子」
『翔。よかった無事か』
「君は心配するだけ無用か」
『心配してくれ。こう見えても結構危なかったんだ』
「そうか」

 いつも最低限の会話しかしない二人だが、それでも十分に通じ合える程の信頼関係がある。

「昌子がようやく悪夢を祓ったようだね」
『私もそう感じた。この襲撃はあの子の決断だったのだろう』

 二人は、生涯を賭して護るべき娘が自分の決断で自分達の元から巣立った事に嬉しさを感じていた。

「君はどうする?」
『暫く実家に行く事になった』

 その言葉に名倉は妻と実家の確執が少しは解消されたのだと察する。

「そうか。昌子も連れて行くかい?」
『……折角、私たちの元から飛び出したのだ。自由に選択をさせよう』
「そうだね」
『今、昌子に近いのはそっちだ。任せるよ』
「君にも近い内に会いたいものだ」
『…………突拍子なく言うのは止めてくれ。照れる』
「その反応を直接見れないのは残念だ」
『も、もう切るぞ!』

 慌てて舞子が通話を切った様子を察し微笑む。

「相変わらずだね。舞子も」

 名倉はスマホを胸ポケットに仕舞った。





「あ」

 陸は姉二人と過去の資料を漁っている所にヨシ君からのLINEの連絡を受け取った。

“流雲殿は無事です。詳しい事は戻ってお話致しますぞ”

「どうしました? 陸君」
「出動が必要で? 陸君」
「陸、ヨシから連絡かい?」

 木刀を持つ姉二人の様子から三鷹も連絡が着たのだと察する。

「流雲さんは無事です。詳しい事は――」

 すると、追加で写真も送られてきた。場所はクルーザーの様な船の中。ケンゴとショウコが写っている。

「鳳さんも居たみたいだ」
「これは根掘り葉掘り――」
「聞かないといけませんね」
「……全く……拐われた体でハロウィンでもやってたのかねぇ」

 妙なメカが端々に写る写真を見て、三鷹は嘆息を吐いた。





 君と出会ったときから運命を感じていた。
 君はあまり笑わない。しかし、心を許した相手に見せるその微笑みは何よりも輝かしいモノだった。
 俺は誰よりも君と視線を合わせている。
 女性とは幾度と視線を合わせたが、君を越える存在は過去や未来において、二度も存在しない。
 あぁ……俺のショウコ……君は俺だけのモノだ。
 なのに……なのに! 何故他の男と同棲などする!?

「もはや一刻の猶予もない……」

 彼女の“初めて”が奪われる前に……どんな手段を使ってでも俺の元に迎え入れなければ――





「やはり、焼き肉は格、別!」
「くふふ。お昼時を過ぎ、空いた時間帯に入れたのはベストですねぇ」
「ショウコさん。サラダばっかりで良いの?」
「肉は好きじゃないんだ」
「そんな草ばっかり食べおって! そのデカイ胸はどうやって維持しておる!」
「特に何かはしていないが。サマー、口元が汚れてる」
「いちいち拭かんでも良いわい!」
「後、箸の持ち方も変だ。これをこうして――」
「おぬしはわしの母親か!」
「なろうか?」
「ノータイムで肯定しようとするでない! テツ、レツ、フェニックス! こやつを何とかせい!」
「小生には荷が重、い!」
「くふふ。我々では下手をすれば事案ですからねぇ」
「白飯が欲しいな。すみませーん」
「どいつもこいつも役に立たん奴らよ!」
「サマー」
「なんじゃ!」
「膝の上に乗る?」
「乗らん! ええい! 頭を撫でるな!」
「可愛いな。サマーは」

 なんやかんやで三人と仲良くなったショウコさん(サマーちゃんは目くじらを立てているがどことなく嬉しそう)。
 しかし、オレ達は根本的な勘違いしていた。このストーカー事件はまだ終わっていなかったのだと。
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