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第307話 きぼぢわるい……
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女郎花の手がヘッドを取ろうと伸びてくる。
このままだとマズイ。顔を見られればマジでのマジで終わるし、サマーちゃんとも通信ができなくなる。
『フェニックス! 一瞬だけ出力を最大にするぞ!』
ユニコ君『Mk-VI』の筋力補佐が最大となる。隆起するスーツに全身が締め付けられるが、その代わりに得たパワーで無理やり女郎花の合気を振りほどいた。
「力の加減を誤ったか」
女郎花は拘束している手を離す。オレは『Mk-VI』の筋力補佐の収縮インターバルで数秒動けない。
そこへ、奴の追撃。自分から向かって来やがった!? だが……『Mk-VI』には十分な衝撃耐性がある。
腕をクロスして、ガードに徹する。自由に動けるまで時間を――
ドン、と女郎花が殴ってくる。端から見ればただのボディブロー。しかし、オレとしては――
「ユニニ!!?(ゴハォ!!?)」
まるでスーツ無しで殴られた様な衝撃を腹に受ける。弾丸さえも通さない衝撃耐性があるハズだと言うのに……
「ふん」
更に脇腹に一発。それによりガードが緩んだ所に胸に一発。肺の動きに支障。よろけた顔面にフックが炸裂し、オレは踏ん張りの利かずに後ろのコンテナにぶつかった。整理されていたモノが辺りに散らばる。
くそ……息が……
『どうしたフェニックス! 何を受けて倒れた!?』
サマーちゃんの言葉へ返答する息に余裕が持てない。オレの方こそ知りたい。何がどうなってんだ……?
「最新の防弾性能の弱点なのだ」
女郎花が歩いてくる。
「動きやすさと伸縮性を追求した結果、一定の速度と衝撃を散らすように設計された故に、それ以下の攻撃には対応出来ていない」
「ユニ……コーン(なに……言ってやがる)」
「正面からの衝撃には100%機能するのだろう。しかし、重く鈍く浸透する打撃には対応出来ないのだ」
オレを逃がさない様に女郎花は距離を詰めてくる。
「地下で起こった地震で、高層マンションの水槽を揺らす様に貴様の身体には打の衝撃が通り抜けているだろう。要するに打撃の“質”だ」
中国武術で良く聞く、浸透剄ってヤツか……痛みが引いたら次は気持ち悪くなってきた……
「お前は確実に消えてもらう」
「あぁ……」
ショウコは下に降りる寸前に、女郎花に引き剥がされたケンゴの様子を見て次の行動を停止していた。
ユニコ君『Mk-VI』。変なネーミングではあるが、性能はプロの格闘家や元軍人でさえも制圧した。それを女郎花はまるで子供扱いだった。
女郎花が最も優れているとされるのは、豊富な知識や並外れた運動能力ではない。どんな時でも冷静に状況を見定める感情である。
永久凍土の如く、崩れぬ理性を持つ女郎花教理は持ち前の能力からも感情的になる事は殆ど無く、全てにおいて最適解を駆け抜けて来た。
「……私なら」
そんな女郎花が唯一、感情的に固執するのがショウコだった。
このままではケンゴさんが殺されてしまう。私……私なら……
何とか出来るかもしれない。けれど、女郎花の背を前にして、足は動かなかった。
それは彼女を縛る“悪夢”。女郎花に近づけば引き込まれる闇から永遠に抜け出せないと思わせる恐怖が彼女の行動を阻害する。
『何をしておる! 流雲昌子!』
すると、サマーから連絡が入る。
『お主はさっさとクルーザーに乗るのじゃ! フェニックスはわしが何とかする!』
「だが……」
『流雲殿。今回の作戦は貴女の脱出が我々の勝利ですぞ。お急ぎを』
「しかし……」
ここで見捨てる……? ケンゴさんを? でも……私に……ヤツの……女郎花の前に立つ――
『ショウコ……さん』
ケンゴからの通信。それは息も途絶え途絶えだった。
『先に……行って。オレも後から行く……よ』
「! ケンゴさん――」
返答をするが、ケンゴとの通信はそれで途絶える。それは故障なのか意図したのかは不明だが……
「……私は……」
皆が逃げる事を望んでいる。その為にここまで騒ぎを起こして、敵を倒して、そして迎えに来てくれた。
ならば……私は……それに報いるべき――
赤紐を握る。家族の絆。私を護ってくれた多くの人達。
今、何を一番失いたくないのか。そして、どうすれば良いのか――
“他人の為に立ち上がろうと思った時、呪縛を振り払えるだろう”
「――」
日本に来る前に言われた師の言葉が呼び起こされる。
その為の“絆”を父からもらい、母から“言葉”をもらった。そして、
“迎えに来たよ。ショウコさん”
彼が悪夢の前に立つキッカケをくれた。
ダメだ気持ち悪い……
吐血こそ無いものの、女郎花の攻撃によってオレの身体は絶不調だった。
なんだよこれは……。浸透剄って内部にダメージ、ぐふっ! 吐血! って技じゃねーのかよ……
風邪みたいな嘔吐感はまだ回復に時間がいる。ジェットの打撃のように部分的なガードで防げるモノではない以上、追撃にて追加時間をもらうと更にマズイ……
「お前は確実に消えてもらう」
あちらさんは殺る気が凄い。ヤバいヤバい……けど気持ち悪過ぎて思考が定まらない。くそ……一つだけ……ヤツに勝てる可能性の『古式』があると言うのに……こんな状態じゃ……おぇ……
『フェニックス! 今フルアーマーを――何!?』
サマーちゃんがセルフで驚いた。ちなみにオレも驚いた。何故なら――
「――」
ショウコさんがオレに距離を詰める女郎花に青竜刀を振るったからだ。
「――!」
入れ替わる様に女郎花は避ける。仮面を着けたショウコさんはオレの前に立ち塞がる様に女郎花へ青竜刀の切っ先を向けた。
「……素晴らしい。陰りが消えた!」
そのショウコさんを見て女郎花は眼を輝かせてそんな事を言ってやがる。
オレは色々とショウコさんに物申したい事があるが、気持ち悪さが勝る。
おぇ……くそ……きぼぢわるい……
このままだとマズイ。顔を見られればマジでのマジで終わるし、サマーちゃんとも通信ができなくなる。
『フェニックス! 一瞬だけ出力を最大にするぞ!』
ユニコ君『Mk-VI』の筋力補佐が最大となる。隆起するスーツに全身が締め付けられるが、その代わりに得たパワーで無理やり女郎花の合気を振りほどいた。
「力の加減を誤ったか」
女郎花は拘束している手を離す。オレは『Mk-VI』の筋力補佐の収縮インターバルで数秒動けない。
そこへ、奴の追撃。自分から向かって来やがった!? だが……『Mk-VI』には十分な衝撃耐性がある。
腕をクロスして、ガードに徹する。自由に動けるまで時間を――
ドン、と女郎花が殴ってくる。端から見ればただのボディブロー。しかし、オレとしては――
「ユニニ!!?(ゴハォ!!?)」
まるでスーツ無しで殴られた様な衝撃を腹に受ける。弾丸さえも通さない衝撃耐性があるハズだと言うのに……
「ふん」
更に脇腹に一発。それによりガードが緩んだ所に胸に一発。肺の動きに支障。よろけた顔面にフックが炸裂し、オレは踏ん張りの利かずに後ろのコンテナにぶつかった。整理されていたモノが辺りに散らばる。
くそ……息が……
『どうしたフェニックス! 何を受けて倒れた!?』
サマーちゃんの言葉へ返答する息に余裕が持てない。オレの方こそ知りたい。何がどうなってんだ……?
「最新の防弾性能の弱点なのだ」
女郎花が歩いてくる。
「動きやすさと伸縮性を追求した結果、一定の速度と衝撃を散らすように設計された故に、それ以下の攻撃には対応出来ていない」
「ユニ……コーン(なに……言ってやがる)」
「正面からの衝撃には100%機能するのだろう。しかし、重く鈍く浸透する打撃には対応出来ないのだ」
オレを逃がさない様に女郎花は距離を詰めてくる。
「地下で起こった地震で、高層マンションの水槽を揺らす様に貴様の身体には打の衝撃が通り抜けているだろう。要するに打撃の“質”だ」
中国武術で良く聞く、浸透剄ってヤツか……痛みが引いたら次は気持ち悪くなってきた……
「お前は確実に消えてもらう」
「あぁ……」
ショウコは下に降りる寸前に、女郎花に引き剥がされたケンゴの様子を見て次の行動を停止していた。
ユニコ君『Mk-VI』。変なネーミングではあるが、性能はプロの格闘家や元軍人でさえも制圧した。それを女郎花はまるで子供扱いだった。
女郎花が最も優れているとされるのは、豊富な知識や並外れた運動能力ではない。どんな時でも冷静に状況を見定める感情である。
永久凍土の如く、崩れぬ理性を持つ女郎花教理は持ち前の能力からも感情的になる事は殆ど無く、全てにおいて最適解を駆け抜けて来た。
「……私なら」
そんな女郎花が唯一、感情的に固執するのがショウコだった。
このままではケンゴさんが殺されてしまう。私……私なら……
何とか出来るかもしれない。けれど、女郎花の背を前にして、足は動かなかった。
それは彼女を縛る“悪夢”。女郎花に近づけば引き込まれる闇から永遠に抜け出せないと思わせる恐怖が彼女の行動を阻害する。
『何をしておる! 流雲昌子!』
すると、サマーから連絡が入る。
『お主はさっさとクルーザーに乗るのじゃ! フェニックスはわしが何とかする!』
「だが……」
『流雲殿。今回の作戦は貴女の脱出が我々の勝利ですぞ。お急ぎを』
「しかし……」
ここで見捨てる……? ケンゴさんを? でも……私に……ヤツの……女郎花の前に立つ――
『ショウコ……さん』
ケンゴからの通信。それは息も途絶え途絶えだった。
『先に……行って。オレも後から行く……よ』
「! ケンゴさん――」
返答をするが、ケンゴとの通信はそれで途絶える。それは故障なのか意図したのかは不明だが……
「……私は……」
皆が逃げる事を望んでいる。その為にここまで騒ぎを起こして、敵を倒して、そして迎えに来てくれた。
ならば……私は……それに報いるべき――
赤紐を握る。家族の絆。私を護ってくれた多くの人達。
今、何を一番失いたくないのか。そして、どうすれば良いのか――
“他人の為に立ち上がろうと思った時、呪縛を振り払えるだろう”
「――」
日本に来る前に言われた師の言葉が呼び起こされる。
その為の“絆”を父からもらい、母から“言葉”をもらった。そして、
“迎えに来たよ。ショウコさん”
彼が悪夢の前に立つキッカケをくれた。
ダメだ気持ち悪い……
吐血こそ無いものの、女郎花の攻撃によってオレの身体は絶不調だった。
なんだよこれは……。浸透剄って内部にダメージ、ぐふっ! 吐血! って技じゃねーのかよ……
風邪みたいな嘔吐感はまだ回復に時間がいる。ジェットの打撃のように部分的なガードで防げるモノではない以上、追撃にて追加時間をもらうと更にマズイ……
「お前は確実に消えてもらう」
あちらさんは殺る気が凄い。ヤバいヤバい……けど気持ち悪過ぎて思考が定まらない。くそ……一つだけ……ヤツに勝てる可能性の『古式』があると言うのに……こんな状態じゃ……おぇ……
『フェニックス! 今フルアーマーを――何!?』
サマーちゃんがセルフで驚いた。ちなみにオレも驚いた。何故なら――
「――」
ショウコさんがオレに距離を詰める女郎花に青竜刀を振るったからだ。
「――!」
入れ替わる様に女郎花は避ける。仮面を着けたショウコさんはオレの前に立ち塞がる様に女郎花へ青竜刀の切っ先を向けた。
「……素晴らしい。陰りが消えた!」
そのショウコさんを見て女郎花は眼を輝かせてそんな事を言ってやがる。
オレは色々とショウコさんに物申したい事があるが、気持ち悪さが勝る。
おぇ……くそ……きぼぢわるい……
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