懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
279 / 701

第278話 前菜と前菜と前菜

しおりを挟む
「大丈夫?」
「あぁ。迷惑をかけてしまったな」

 オレはショウコさんと共に部屋を出て、アパートの外廊下で話をしていた。

 新鮮な夜の空気に当たる事で、色々とリセットするのが目的だ。正直、あのまま室内に居たら何とか戻った理性ゲージが再び枯渇するのは必定。換気は絶対に必要だ。

「聞かないのか?」

 オレが先程の添い寝をもやもやして考えていると、ショウコさんが聞いてくる。

「何を?」
「私がどんな悪夢を見ていたのか」

 “夢”ではなく、“悪夢”と言う言葉が一番に出てくるのは常にソレを見るからなのだろう。

「オレはそう言うのは聞かない主義だからさ。ショウコさんにも事情があると思うし、話したくなったらでいいよ」

 オレは廊下の柵から外を見る様にもたれかかる。
 人の抱えるモノを他人が進んで掘り起こすモノじゃない。オレ自身がそうして欲しいと言う事もあるが。

「オレも似たようなモノだからさ」
「何が?」
「言いたくない過去ってヤツがあるんだ」

 まぁ……それは、信頼できる彼女に聞いてもらう事になっている。

「ふむ」

 と、ショウコさんは外柵に背を預ける様に隣へ並んだ。

「実はストーカーの件は心当たりがあるんだ」
「そうなの? でも、昼間は知らないって言ってなかった?」
「あれは……父を安心させるための嘘だ」

 外で話す様な事じゃない。と、ショウコさんは部屋の扉を開ける。

「君には全部話すよ。契約したからな」

 そう言うショウコさんは少し困ったように微笑む。

「無理してない?」
「君には知っていてもらいたい。私の恋人だしな」

 恋人って便利な言葉だなぁ、と思いつつも彼女としては話すきっかけになっているのだろう。

「その前に、先に教えて欲しい事があるんだけど……」
「なんだ?」
「なんで、オレの布団に入ってたの?」
「男女が寝所を共にすると、子供が出来るんだろう?」

 何を言ってるんだす? このヒト。え? 子供?

「えっと……なんで子供?」
「可愛いだろう? 子供」
「まぁ……可愛いけども」
「だから欲しい」
「……ショウコさんは、セッ○スって知ってるよね?」
「ああ。もちろんだ」
「その内容は?」
「勿論知ってるぞ。だが、アレは単なる運動だろう? 基本は子供が出来る事は避けると聞いているが」
「それはそうなんだけどさ……」

 ショウコさんへの性教育はどうなって居るんですか? ご両親の方々……

「入らないのか?」

 その言葉にオレも続いて部屋へ戻る。
 オレは……流雲昌子と言う女性を理解するにはもう少し時間がかかりそうだと思った。

「……君だったから……なんだけどな」





 オレは携帯のアラームで目を覚ます。
 昨晩はショウコさんから過去に起こった事を聞き、オレは彼女が望まない限りは口外しないことを約束した。

「おはよう」
「……おはよう」

 ショウコさんは先に起床していた。眼前に彼女が覗き込む形で存在していたので、一気に意識が覚醒する。

「ショウコさん……」
「なんだ?」
「起きれない……」

 ふむ。と言ってショウコさんは退いてくれた。オレは、ピピピッピピピッと鳴るアラームを止めるとボリボリと頭を搔きながら上半身を起こす。

「朝食は私が用意するから、君は仕事への支度をすると良い」
「ありがとう」

 朝食の準備途中だったのか、ショウコさんはエプロンを着けていた。台所に戻って行く。
 オレは布団を畳んで、ショウコさんの分も押入れに戻し、スーツに着替える。
 いつでも出れる様に鞄をチェックし、問題ない事を確認。朝食の用意に時間をかけなくて良いから、いつもよりも余裕があった。

「できたぞ」

 そう言ってショウコさんが朝食を持ってくる。随分、包丁をトントンしてたけど、何を作ってくれたんだろう?

 コトッ、と目の前に置かれた大皿には芸術的に皿に盛り付けられた玉ねぎのスライスと薄切り大根のサラダ。前菜かな? 朝食にしては本格的だ。

 コトッ、と次に置かれたのは千切りキャベツとポテトとコーンのサラダ。うん。これも前菜かなぁ。

 コトッ、と最後に置かれたのはキュウリとニンジンの野菜スティックだった。前……菜?

「それでは食べようか」

 正面に座るショウコさんは箸を取って両手を合わせる。

「……ショウコさん」
「何だ?」
「メインは?」
「これだが?」

 目の前にあるだろう? なんてリアクションをされても……

「私は菜食主義だ。あんまり肉類は食べない。新鮮な野草でも良いのだが、谷高社長に、文明圏の物を出すように言われてな」

 そりゃ、そうですよ。ショウコさんって仙人か何かなのか? インフラが停止しても平然と山で生活してそう。
 しかし、野菜ばかりだと栄養に偏りが出るよなぁ。

「……油分はどうやって補充してるの?」

 すると、次にコトコトコト、と三つのドレッシングがテーブルに置かれる。

「私のオリジナルだが、消化に良い油を使ってある。味も保証するぞ」
「ちなみにこの野菜はどこから? オレの冷蔵庫には玉ねぎくらいしか入ってなかったと思うんだけど……」

 聞くとショウコさんは立ち上がり、二つあるうちの旅行鞄の一つを開ける。
 中には保冷剤が入っていて低温が保たれている。そこで艶々で新鮮な野菜たちが、こんにちわー、と挨拶してくる。

「材料はこっちで持つから気にしなくて良い。4日分は確保してある」

 そう言って、温度が上がる前に旅行鞄を閉める。なるほどー、鞄を二つ持ち込んだのは、そう言う事だったのかー。

「後で冷蔵庫を借りてもいいか?」
「それは良いけど……何に使うの?」
「予備の保冷剤を今の内に入れておきたい。野菜は鮮度が命だからな」

 ショウコさんはそう言いながら席に戻り、野菜スティックを箸で摘まむと、生でモグモグと食べ始めた。

 そう言えば……セナさんの料理は野菜だけは全部食べてたっけか。

「食べないのか?」
「いただきます」

 悪くは無いんだけど……朝は米かパンが欲しいなぁ。何とか改善案を考えねば。

 ちなみに彼女の用意した野菜ご飯は全部美味しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件

遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。 彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。 「高校生になってもずっとお友達だよ!」 「……あ、うん」 「友達は友達だからね?」 やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。 本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...