懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第271話 再起動失敗?

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 宿泊研修での入浴は各自自由だった。
 身体的な特長に過敏な年頃である高校生にとって、同性だとしても入浴は抵抗のあると言う学校側の配慮だ。

「クラスの女子全員来てるわね」

 リンカとヒカリは大入浴場の脱衣所にいた。クラス毎に入浴の時間帯が決まっているので、その間に入浴を済ませなければならない。

 その為、入浴開始時刻になるとごった返すのは必然になった。さほど広くない脱衣所は少し窮屈に感じる。

「やっぱり、お風呂は一日一回は入りたいよ」

 初日は殆んど運動はしなかったとは言え、まだ長袖には早い温度にじんわりと汗を掻く。

「でも30分って短いわよ。せめて40分……いや、50分は欲しいわね」
「全クラス利用する事を考えたら仕方ないって」

 親友は長い髪を洗うのに時間がかかるのだろう。それを済ませて、ゆっくり湯船に浸かる時間を考慮すると、そのくらいになるのかも知れない。

「いつも使ってる専用のシャンプーとリンスは使いきりタイプを持ってきたから……失敗は許されないの!」
「洗うの手伝ってあげるから」

 ありがとー、リーン。と抱きつくヒカリに、ほら時間無くなるよ、とリンカはじゃれてる暇はないと言って脱衣を進める。ジャージと下着を脱いで籠に入れた。

 リンカも髪が長かった時に洗う手間は知っているので手を貸すのはやぶさかではない。

「それにしても……相変わらずね」
「どこ見て言ってるのか解るけど、至近距離で見ないで」

 ヒカリは自分よりも数値の高いリンカのステータスにマジマジと視線を送る。

「ヒカリも。昔からずっと変わらないじゃん」

 リンカは反撃するヒカリに告げた。理想的とされる身体を、成長に合わせてキープし続けている彼女は、同年代の中でも一際バランスが違う。

「わたしは普段から走ってるから。もう習慣みたいなものかな」

 うふ。とセクシーポーズを決めるヒカリ。普段から被写体になっているだけあって、他の生徒の目があっても慣れた様子だった。

「雨の日はどうするの?」
「ママがエアロバイクのヤツ買ったから。最近はそれでルームランナーしてるわ」
「それか!」

 いきなり背後から声を上げられて、ヒカリはビクッ! と跳ねる。
 リンカはヒカリの背後に立つ水間の姿を確認。

「人は水上よりも陸上に特化した生き物! 普段からの運動に加えて希に別の動きを取り入れる事で体幹を刺激し、身体全体の電気信号を活性化させる! 下手に筋肉をつければそれだけ重量が増えて、前に進む力にも負荷が生じると言うことね!」
「ちょっと! 水間さん! びっくりするでしょ!」
「すまないわ!」

 水泳女子の水間は引き締まった身体をしており、いかにもスポーツ女子である事が解る。

「やはり、反応速度とボディイメージが重要……谷高さん! 貴女の身体は知らずうちに理想に近づいていたと言うことね!」
「えぇ……」

 ヒカリとしては別にそんなつもりは無い。
 しかし、水間としては自分よりも速く泳げるヒカリの身体にはご執心だ。

「ほんとに……こんな華奢で何であのスピードが……うむむ……」

 分析する様に見る水間の視線にヒカリは少しずつ恥ずかしくなってきた。

「リン! 行くよ!」
「少しはジロジロ見られる気持ち解った?」
「解った! 解ったから!」
「あぁ! 谷高さん! もっと黄金比を観察させてちょうだい!」

 ヒカリに背中を押されてリンカは浴室へ入る。それを皮切りに他の女子生徒もゾロゾロと続いた。

 今頃、母と彼は夕飯時かなぁ。
 いつもとは違う時間を別れて過ごすと不思議と考えてしまうのであった。





「ショウコさん。起きてー」

 オレはショウコさんを揺さぶると、少し気だるそうに身体を起こす。
 そして、半覚醒の垂れ目で、手を振るセナさんを見て、オレを見ると、再びZzz……

「再起動失敗? ショウコさーん」

 次に揺さぶっても身体を起こす気配は無い。どういう状況だ? コレ。

「ショウコちゃん起きない?」
「うーむ……人生に置いて一度もない事態なので少し解決出来そうにありません」
「それじゃ、ショウコちゃんの分は片付けるわ」
「すみません」

 ショウコさんは予期せぬ出来事で眠ってしまい、彼女に用意されたセナさんの食事は殆んど手をつけられずに下げる事になった。
 野菜だけは丁寧に食べていたので、全く口に入れなかったと言う分けでは無さそうだ。

「良いのよ~。私のせいでもあるし」

 ちなみにオレは完食。米粒一つ残していない。

「片付け、手伝います」
「動ける~?」

 いつもの流れて手伝おうとしたが、膝の上に身体を預けるショウコさんにロックされて立ち上がれなかった。
 無理矢理なら行けるが……果たしてそれは正解だろうか……

「気にしなくて良いわ~。二人は今日はお客様なんだし」
「すみません」
「そこは、ありがとう、よ~」

 そう言ってセナさんは夕飯の後片付けを始めた。オレは何とか動く為にショウコさんの起動を試みるも、銅像みたいに動かない。
 お酒は始めてって言ってたし、普段とは違う形で眠ったから、起きにくいのかなぁ。

「ケンゴ君」
「はい」

 洗い物を始めながらセナさんは背を向けたまま話しかけてくる。

「ケンゴ君は、ショウコさんの事は好き?」
「まぁ……LIKEの方ですかね……」

 そもそもLOVEが欠落してるオレだ。誰かを心底好きになる感覚はわからない。

「そう。ケンゴ君はね~とても魅力的なのよ~」
「そうですかね……」

 あんまり自覚した事はなかった。人当たりは良いとは度々言われる。

「ふふ。そう言うのは自分じゃ気づかないモノだからね~」

 外から見なければと言うヤツか。人間が一番理解していないのは自分の事らしいし。

「女の子だけじゃないわ~。誰でも貴方の隣で笑顔になるなら、それは側にいて心地良いって感じてる証拠よ~」
「なんか照れます」
「ふふふ。そんな中、私はリンカを特別視するわ」

 セナさんは真剣な口調で告げた。

「ケンゴ君。貴方の事情は解るわ。けど、リンカの事を少し真剣に考えてあげて。妹分としてではなく、異性として」
「……セナさん」
「お節介なお姉さんからはそれだけ~」

 普段は親しみやすい人から、真面目に言われてオレは渇を入れられた気持ちになる。

「リンカちゃんに後でLINEで現状を伝えます」
「ええ。帰ってきたら、うんと抱きしめてあげなさいな~」
「それは……まだハードルが高いかと……」

 法律的な壁ってヤツは凡人には破る事は叶わないんです。

「ふふ。楽しみね~」

 セナさんがどんな未来を思い描いて居るのかはわからない。
 オレとしては全てを清算しなければ、本当の意味で誰の隣にも居る事は出来ないと感じた。
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