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第249話 そんなにわかりやすいですか?

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 リンカは少しだけそわそわしていた。
 ケンゴが樹を抱えて、ただ事でない様子で走って戻って来たからからである。

「よし! 次は箕輪君とリンカ君! 懐中電灯があるとは言え、夜道だ! 気を付けたまえ!」
「……」

 ケンゴからは、専門家が森の中で待機していると聞いたが、それでも前の二組は血相を変えて戻ってきた。まるで何かから逃げる様に……

「鮫島。無理する必要はないぞ」
「先生」

 リンカの戸惑っている様を察した箕輪鏡子は彼女の担任として心配していた。

「大人だってああなんだ。下手な精神負荷でトラウマになるかもしれない。夫も普通に悪人顔だしな」
「おい~、ソレと結婚した女がひでぇ事言いやがるぜぇ~」

 箕輪は気だるそうに肩をコキっと鳴らす。

「リンカちゃん。気が進まないなら、代わりにオレが箕輪さんと行くよ。七海課長でさえもああだし……」

 七海は樹にキットカットの文字の件を説明されて、んだよ! まぎわらしい! と遅れてキレていた。

「そうそう。無理するな。鮫島はまだ子供なんだから」
「……行きます」

 子供。その言葉を過剰に反応したリンカは入り口で待つ箕輪(夫)の所へ歩いていく。

「大丈夫かぁ~?」
「……は、はい!」
「良い返事だぁ。社長、行ってきやす」
「夜目は効きづらいから気を付けるんだよ!」

 そうして、二人は夜の山道へと消えて行った。

「……言葉を間違えたかな」
「背伸びしたい年頃だと思いますし……難しい判断ですよ」

 ケンゴと鏡子はその場で二人の帰りを待つ事にした。





 3組目、箕輪錬治×鮫島凛香の場合。
 箕輪が懐中電灯を持ち、その後にリンカが続く。気軽に話せる話題を持たない二人にとっては無言になるのは仕方がなかった。

「……」

 会話が無いと意識は周囲に向いてしまう。山道を通過する端から後ろが塞がれて行くような……闇の中に飲み込まれる用な錯覚を覚える。

「7月によぉ~」
「え? は、はい!」

 ふと、前を歩く箕輪から話題を振られてリンカは慌てて返事をする。

「駅でナンパ共から助けた嬢ちゃんは~元気かい?」

 それは、7月に駅でヒカリが絡まれた事件だった。ケンゴが助け、最終的には箕輪が取りまとめた一件である。
 その時、箕輪はケンゴの無実を証明するためにリンカと電話越しだが会話をしたのだ。

「はい。友達は何事も変わり無いです」
「そいつぁ良かったぜぇ。高校生っていやぁ、色々と多感でちょっとした事が一生モンの傷なんかを負ったりするからなぁ~」

 口調はねちっこいが、ヒカリのその後を気になっていたようだ。

「えっと……箕輪さん」
「どしたぁ~?」
「箕輪さんは、過去にあたし絡みで彼を助けてくれたと聞きました」
「ん~? どうだったかねぇ……」

 社内でも外で起こる荒い問題を受け負う事が多い箕輪にとっては特定の件を思い出すには少し時間がかかる。

「えっと……あたしが誘拐された件です」
「……あぁ~そういや、あったなぁ」
「! 覚えてますか?」
「思い出したぜぇ~。鳳の奴が手を出したかと思ってよぉ~。味方のフリして終身刑にするつもりだったんだよ~最初はなぁ」
「えぇ……」
「ガキに手を出す奴ぁ、シャバで生きる資格はねぇからなぁ~」

 しかし、ケンゴは拘置所に訪れた箕輪を見るなり、すぐにリンカを助けに行って欲しいと言ってきたのだ。
 社会的に死ぬ可能性が高い自分の事よりも迷いなく他人を優先するケンゴを見て、箕輪はあらゆるコネを使って一時間で彼を釈放したのである。

「けど、アイツは誰よりも他人を優先してやがったからなぁ~」
「……昔から、そう言う人なんです」

 嬉しそうにするリンカの様子に箕輪は、肩をコキッと鳴らす。

「本人が見てない所で他を笑顔に出来る奴はそうそう居ねぇぜぇ~。他に取られないうちなぁ~」
「……そんなにわかりやすいですか?」
「鋭い奴ぁ~気づいてると思うぜぇ?」

 すると、懐中電灯は霊碑の近くにある木の反射テープを捉える。

「雰囲気あんじゃねぇか~」
「……」

 リンカは両手を合わせて目を閉じ、霊碑に黙祷を捧げる。箕輪も片手で軽く礼をした。

「全く。社長も意地悪だねぇ~」

 箕輪は“勝訴”と書かれたキットカットを一つ取り、リンカも選んでいると、ある単語が眼を入りそれを取った。

「帰るかぁ~」
「はい」

 ただ暗いだけの山道。何事もなく二人は下山を始める。

「あの……箕輪さん」
「なんだぁ?」
「箕輪さんは……あたしのお父さんについて何か知ってませんか?」
「そりゃぁ~、誘拐の時の事かぁ?」
「はい」

 リンカは“父”と書かれたキットカットを手に持っていた。
 と、箕輪は少し考えるように無言で歩く。

「あたし……お父さんの事は殆んど知らないんです。けど、あの事件が終わった後、お母さんはお父さんが助けてくれたって言ってて……その時は彼と父を間違えたのかと思ってたんですけど……」
「そうだなぁ~。まぁ……あっちの世界じゃ良くある事かもなぁ」

 箕輪はリンカの言葉を聞いて自分の中で納得したようにコキッと肩を鳴らす。

「もし、知っているのなら……」
「弁護士には個人情報を保護する義務があってなぁ~。信用問題に関わるんだぁ~」
「そうですか……」
「悪いなぁ~」
「なら、この質問は答えてくれますか?」
「言ってみなぁ~」

 幼い頃は気づかなかったが、今になって、当時の事を聞いた上で解った事がある。

「あの誘拐の時に父は動いていたんですか?」
「……俺はよぉ。まだ子供ガキは居ねぇから良くわかんねぇが――」

 邪の欠片もない眼差しに弱い箕輪は少しだけリンカへ情報を出す。

「俺が親なら、どんな手を使っても理不尽から娘は護ると思うぜぇ~」

 顔は殆んど覚えてない。しかし、箕輪の背中は、朧気な記憶の中にある父の背中と重なった気がした。

「――ありがとうございます」
「けけけ。弁護以外でのお礼ってのも~悪くねぇなぁ~」

 箕輪は再び、コキッと首を鳴らした。

「……肩叩きましょうか?」
「10分200円で頼めるかぁ~」
「ふふ。タダで良いですよ」

 そんな会話をしつつ、何事もなく河川敷に戻った。
 すると、大丈夫だったか!? とその他大勢に情報の開示を求められる。

「箕輪さんのおかげで何もなかったよ」
「大した事無かったぜぇ~」

 その後、トコトコと椅子に座った箕輪の肩をリンカは微笑ましく叩き始めた。
 その様子に、本当に何があったんだろう? とケンゴと鏡子は不思議がる奇妙な構図が出来上がる。

「どうやら杞憂に終わったようだね! 箕輪君とリンカ君のおかげで少しは皆の恐怖心が和らいだのではないかな!」
「そうですね。余計な事をしなければと言う事でしょうか?」
「その通りだ! では次は我々だ! 行くぞ! 泉君!」
「ラジャ」

 四組目。黒船、泉ペアは夜の山を見上げる。
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