懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第242話 勝負アリ

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 少しだけ国尾さんによるイレギュラーがあったものの、オレとリンカと岩戸さんは同時に相手の後方への突破を試みる。

 社長の位置はオレが抜け、箕輪婦人の位置はリンカ、真ん中は岩戸さんで行く。

『やるじゃねぇか! 茨木! ならコイツを受けられるかぁ!?』
『正直、女子相手に家伝を使うのは初めですよ!』

 インカムをオープンチャンネルにしていると通話が入ってくる。
 バチバチに戦り合ってるなあの二人。凄く楽しそうだ。怪我しなければいいけど。

「――いないな」

 オレは一番社長とぶつかる可能性の高いルートを選んだが誰とも接触しない。
 社長は七海課長の援護に回ったのか? それか旗の元へ防備に戻ったか……

『うわっぷ!? なんスか!? 七海さんと茨木さん!? 人間の動きじゃないっスよ!?』

 岩戸さんは激戦区に入ったらしい。

「考えても仕方ないな」

 オレは社長の事は姿を確認してから考える事にした。念のため、警戒心は頭の片隅に置き、今は突破出来た事を吉と取る。

「探知では確かこの辺りに――」

 と、木々の間を抜けると切り株に座ってスマホをいじっている樹さんを発見。その膝の上には“旗”が見える。

「あった――」

 オレは樹さんへダッシュ。アレを取れば俺達の勝ちだ。

「茨木君の撹乱で意識が真ん中に向いたか。数が片寄って穴が出来るとは……つくつぐ、恐ろしい男だな」
「ですね」

 すると、オレのチェックメイトを阻止する様に田中が目の前に割り込んで来た。

「田中……」
「言っておくけどな鳳。主任へは指1本触れられないぜ?」

 その雰囲気は邪なフォースに呑まれた時とは打って変わって、守護する意思を強く宿す。これは中々に厄介な眼をしているな。

「悪いが越える」
「させるかよ」

 オレは田中と戦闘に入った。





 平面と俯瞰では見える光景が違う。
 木々は視界を狭め、不安定な足場はいつもとは違う形で体力と進行意欲を奪う。
 右へ左へ。容易く移動は出来ない。

 僅かなタイムラグとぶつかる人員が勝敗を左右するこの陣取りゲームにおいて、目視で“旗”を捉えられたAチームの敗北は秒読みとなった。

「――鬼灯さん。これって……どういう事だと思います?」
「そうね……作戦勝ちになるかしら?」

 人員と旗の位置を、全てモニターで見ている運営にとっては不可解な動きにしか見えなかった。

「加賀君。現場は大丈夫?」
『こっちは問題なさそうですよ。若干、カズさんと七海課長が激しいですけど、互いに怪我は無さそうです。他は大混戦ですが』

 轟は卓上の情報では現場の危険性は把握しきれなかったが、加賀の言葉に一応は問題ないと見る。

『けど、これ……もうすぐ終わりますね』
『大物同士の戦いは残ってるけど』
「二人はどっちが勝つと思う?」

 一足先に終幕を感じた加賀と泉は鬼灯の質問に自分なりの解答を返す。

『俺の予想はAチームです』
『私はBチームだと思います』

 二人では見えている視点が違う形の返答となる。





「旗を見つけた! 樹さんが持ってる!」

 オレはインカムで十メートル圏内の全員にその事を伝えた。
 それはAチームにもこちらの動きを確定させる情報であるが、人手が集まるのはこっちが先だ。オレは――

「田中を止める!」
「それは俺のセリフだぜ! 鳳!」

 問題は社長だ。未だに姿を見せない所を見るとオレらの旗へ向かってるのだろう。
 しかし、こっちの方が詰めの動きは速い!

「けどな――」

 オレはサンボにて組み付こうと接近し、それを田中は膝で迎撃。しかし、それはフェイント。田中は見事に釣られてくれた。

「なに!?」

 ピタッ、と止まったオレは一呼吸置いて、次の意識が決まる刹那に田中へサンボタックルを決めた。

「鳳!」

 田中は踏ん張り、引き剥がそうとする前にオレは股下と肩に腕を回し、少し浮かせ、捻る様に横へ投げる。

「落ち葉が多いから安心しろよ」
「クソ!」

 倒れた田中は即座に起き上がってオレに手を伸ばすが、空を切る。

「樹さん。ゲームセットですよ!」
「ふむ。それは早計じゃないかな?」

 すると、目の前に佐藤が割り込んで来た。

「させるかよ!」
「チィ! 大人しく寝てろよ!」

 オレは止まる。下手をすればこっちが殺られるからだ。

「田中! 行けるな!?」
「佐藤! 二対一でも気を抜くな! 主任を守るぞ!」

 佐藤と田中は前後から同時に攻めてくる。
 オレは正面から投げようと襟首を狙う佐藤の動きを弾きつつ、背後からタックルをしてくる田中の気配を感じた。

「――――」

 僅か数秒間。オレたち三人の身体は思考ではなく最適だと感じる本能が動かしていた。
 田中のタックルを横へ転がって避けたオレへは二人の圧を感じて樹さんから距離を離すしかない。

『鳳さん! そっちに佐藤先輩が行ったっス! 大丈夫っスか?』
「……正直、部は悪いな」

 夏祭りの時よりも二人の動きは読みづらい。一人でも手に余るのに……これは突破出来ねぇな。
 護る意思の強さはオレが一番良く知っている。

「おっと、二人とも。“旗”を取られたよ」

 佐藤と田中を引き付けている隙に、遅れて抜けてきた岩戸さんが、樹さんを捕獲し、その“旗”を確保していた。

『勝ったっス! 姫野さん! ウチらの勝利――』

 その様子に気が抜けたオレを佐藤と田中が取り押さえた。

「ぐぇ!? お前ら! 勝負は終わっただろ!」
「さぁて」
「それはどうかな?」

 そこへ、姫さんから通信が入る。

『岩戸さんは旗を持っていませんよ? Aチームの旗は別の位置にあります』
『え?』

 オープン回線のやりとり。岩戸さんは樹さんを降ろすと手に持った“旗”を確認する。

『あ。ニセモノっス』
「なにぃぃ!?」

 木の枝をペンで黒く塗ってハンカチを結びつけたダミーだった。急ぎ足と遠目で本物に見えたのだ。

「主任、探知スマホ確保です。鳳が持ってました」
「鳳よ。お前達の敗けだ」

 なん……だと……いったい誰の……

「まさか……」
「私と黒船社長の共同作戦だよ、鳳君。いやはや、敵に回すと恐ろしい男だね。黒船正十郎は」

 なら……社長は――





 拓けた空間にある1本の木。その上に引っ掛かる旗はBチームのモノだった。
 そしてソレを守護する真鍋は正座して眼を閉じていた。

「ふむ。やはり、最後の砦は君か。真鍋」

 そこへ、探知スマホを片手に黒船が現れる。すると、真鍋はゆっくりと眼を開いた。

「やはり……鳳達には貴方を読みきれませんか」
「その様だね! ふっはっは! まだまた彼らは青い!」

 真鍋は丁寧な所作で立ち上がる。

「正直に言うとね、真鍋。私は今未知の領域に踏み込むワクワクに興奮している。ここからの勝敗は全く予想がつかないのでね」
「そう言うときは、大概良くない方が当たりですよ」

 サァ……と風が通り抜けた。
 それによって枝から散った一枚の葉が二人の視界を覆った刹那――

「――――」

 黒船と真鍋は急接近し最終盤面の幕が上がる。
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