240 / 701
第239話 接敵
しおりを挟む
「この勝負には旗の他に間接的に勝負を決める決定打が存在する」
ゲームが始まる前にルールの中にて、その事を気づいた両陣営は旗の役割を大きく見直す事になった。
“相手の旗を取る”
それが敗北条件であると同時にそこに到達するプロセスは至極単純であり、それ故に簡単には行かないだろう。
「時間です。ゲームを開始してください」
スマホの時間で13時を差した瞬間に運営の統括者である轟は両チーム、全員のインカムへ開始の宣言をした。
Aチーム(黒船陣営)。
「相手のスマホを抑えるんですか?」
がさがさと森の中を進む佐藤はインカムにて、横に距離を置いて進む黒船へ尋ねる。
「勝ち負けは旗だけどね! ソレを探知するスマホはこのゲームにおいて重要な要素なのだよ!」
その会話に樹も参加した。
「基本的には旗は誰かに護らせる方が良い! だが、それは実力差がある場合しか機能しないからね!」
一度、旗を目視で捉えられれば詰み。しかし、その詰みを最初から外す事が出来るのは旗を隠す事にある。
「森の中に旗を隠した場合に自力でソレを探し出すのは不可能だ。そこで機能するのが探知スマホなんだ」
十メートル圏内にいる七海も会話に割り込んだ。
「旗を隠すと言う行為は諸刃の剣だ。だが、我々の作戦なら何も問題はあるまい」
黒船の考案した作戦はある種の賭けに近いモノだった。しかし、勝算は七割近くあるとチーム全員が納得しての実行である。
「こっちのレーダー係の情報は逐一頼むよ! 状況によっては一度に両方を取れるかもしれないからね!」
Bチーム(真鍋陣営)。
「……鳳どう見る?」
「あー、オレが知る限り一番相手にしたくない陣形ですね」
真鍋は自陣で最も山中活動に精通しているケンゴに状況の危険度を問いただしていた。
黒船達は通信が取れる十メートル以内を維持してこちらへ向かってローラー作戦をやっている。
進行先は探知スマホを持つ者が指示を出しているのだろう。
「そうか」
「あれじゃスマホを持ってる人が誰なのか分かりませんよ。可能性として高いのは樹さんか社長です」
小柄で障害物の多い森の中を動きやすい樹か指揮能力と個人としての実力の高い黒船。更にその考えの裏をかいて、別の誰かが持ってる可能性もある。
「やっぱり旗は――が持ってた方が良いです」
「なら……そうするか」
「オレもそろそろ潜ります」
「鳳」
「はい?」
真鍋は行動に入るケンゴに改めて問う。
「負ける気はない。相手が上司でも遠慮はするな」
「その辺りは大丈夫ですよ。本気でやるときは……絶対に負ける気はないんで」
Bチームも動く。
Aチームのローラー作戦の進行中、一つの太い幹の木を通過しようとした瞬間である。
木の影から飛び出した腕が佐藤の首に蛇のように絡まる。
「うげぇ!?」
隠れていた茨木が真ん中を歩いていた佐藤を強襲。容易く意識を奪い、静かに木に座るように寝かせた。
「おっとゴメンねー」
謝りつつ探知用のスマホを持ってないか探る。ついでに旗の有無も確認。収穫はゼロ。
「S無し」
茨木はインカムでチームに分かるように報告を入れる。
その通信に黒船と七海は驚いて反応が少し遅れていた。
「中継がやられた!」
「七海さん、私は予定通り動くよ」
「頼みます」
七海は隣に居た鏡子にそう言うと佐藤の元へ走る。恐らく黒船も現場へ向かってるハズだ、と。
「佐藤!」
映画でやられた敵役のように木にもたれ掛かって気を失っている佐藤を発見。
道場で自分が鍛えている手前、簡単にやられる様なヤツではない。
「あっさり殺れる奴とすれば――」
その七海を木の上からそっと背後に降りた茨木は捕まえようと襲いかかる。
「お前だよな? 茨木」
気配を感じとり、茨木の捕縛を身を屈めて避けた七海は身体を回転させて容赦なく回し蹴りを放つ。
「うっは! やっぱり……強力ですねぇ。七海課長!」
側頭部を狙った蹴りを茨木は肩で受け止めると、片方の手で蹴打の足を捕まえようと動かす。
すると、七海は飛んだ。地に着けていた軸足をためらい無く跳躍に使うと、そのまま茨木の首と腕を取って空中十字固めへ――
「やっば!」
ソレを察した茨木は捕縛を諦めて身を低く後ろに下げる。するっと動くような独特の歩法は使い込んだ技術を感じる動作だった。
不発に終わった七海は地面に落ちるが、落ち葉と受け身でノーダメージ。茨木は倒れた七海へ追撃しようとするも、逆に敗北の悪寒を感じて止まった。
「……んだよ。来ねぇのか?」
うつ伏せで待っていた七海は、悠々と起き上がると身体についた落ち葉を払う。
「いやー、やっぱり半端ないですね、七海課長は。初めてですよ。女子にリアルな敗北の未来を見せられたのは」
「お前も相当だ。オレの本気じゃなかったとは言え、オレの蹴りを耐える女は日本には居ないと思ってたからな」
「本当ですか? 嬉しいなぁ♪」
くっくっく。あははは。と笑う二人は互いの実力を勝算する。そして、ひとしきり笑いあった後、
「互いに見なかった事にしません?」
「悪いがそれは出来ねぇな。ウチのメンバーが一人殺られてる。お前にな」
「ああ、そうでしたね」
「おう」
そして、それ以上の言葉はなく、二人は不適な笑みを作ると戦闘を再開した。
「…………」
俺……死んでないんだけどなぁ。
佐藤は気を取り戻していたが目を開けずにじっとしていた。
目の前で猛獣が二匹暴れているのなら死んだフリが一番安全だと思ったからである。
ゲームが始まる前にルールの中にて、その事を気づいた両陣営は旗の役割を大きく見直す事になった。
“相手の旗を取る”
それが敗北条件であると同時にそこに到達するプロセスは至極単純であり、それ故に簡単には行かないだろう。
「時間です。ゲームを開始してください」
スマホの時間で13時を差した瞬間に運営の統括者である轟は両チーム、全員のインカムへ開始の宣言をした。
Aチーム(黒船陣営)。
「相手のスマホを抑えるんですか?」
がさがさと森の中を進む佐藤はインカムにて、横に距離を置いて進む黒船へ尋ねる。
「勝ち負けは旗だけどね! ソレを探知するスマホはこのゲームにおいて重要な要素なのだよ!」
その会話に樹も参加した。
「基本的には旗は誰かに護らせる方が良い! だが、それは実力差がある場合しか機能しないからね!」
一度、旗を目視で捉えられれば詰み。しかし、その詰みを最初から外す事が出来るのは旗を隠す事にある。
「森の中に旗を隠した場合に自力でソレを探し出すのは不可能だ。そこで機能するのが探知スマホなんだ」
十メートル圏内にいる七海も会話に割り込んだ。
「旗を隠すと言う行為は諸刃の剣だ。だが、我々の作戦なら何も問題はあるまい」
黒船の考案した作戦はある種の賭けに近いモノだった。しかし、勝算は七割近くあるとチーム全員が納得しての実行である。
「こっちのレーダー係の情報は逐一頼むよ! 状況によっては一度に両方を取れるかもしれないからね!」
Bチーム(真鍋陣営)。
「……鳳どう見る?」
「あー、オレが知る限り一番相手にしたくない陣形ですね」
真鍋は自陣で最も山中活動に精通しているケンゴに状況の危険度を問いただしていた。
黒船達は通信が取れる十メートル以内を維持してこちらへ向かってローラー作戦をやっている。
進行先は探知スマホを持つ者が指示を出しているのだろう。
「そうか」
「あれじゃスマホを持ってる人が誰なのか分かりませんよ。可能性として高いのは樹さんか社長です」
小柄で障害物の多い森の中を動きやすい樹か指揮能力と個人としての実力の高い黒船。更にその考えの裏をかいて、別の誰かが持ってる可能性もある。
「やっぱり旗は――が持ってた方が良いです」
「なら……そうするか」
「オレもそろそろ潜ります」
「鳳」
「はい?」
真鍋は行動に入るケンゴに改めて問う。
「負ける気はない。相手が上司でも遠慮はするな」
「その辺りは大丈夫ですよ。本気でやるときは……絶対に負ける気はないんで」
Bチームも動く。
Aチームのローラー作戦の進行中、一つの太い幹の木を通過しようとした瞬間である。
木の影から飛び出した腕が佐藤の首に蛇のように絡まる。
「うげぇ!?」
隠れていた茨木が真ん中を歩いていた佐藤を強襲。容易く意識を奪い、静かに木に座るように寝かせた。
「おっとゴメンねー」
謝りつつ探知用のスマホを持ってないか探る。ついでに旗の有無も確認。収穫はゼロ。
「S無し」
茨木はインカムでチームに分かるように報告を入れる。
その通信に黒船と七海は驚いて反応が少し遅れていた。
「中継がやられた!」
「七海さん、私は予定通り動くよ」
「頼みます」
七海は隣に居た鏡子にそう言うと佐藤の元へ走る。恐らく黒船も現場へ向かってるハズだ、と。
「佐藤!」
映画でやられた敵役のように木にもたれ掛かって気を失っている佐藤を発見。
道場で自分が鍛えている手前、簡単にやられる様なヤツではない。
「あっさり殺れる奴とすれば――」
その七海を木の上からそっと背後に降りた茨木は捕まえようと襲いかかる。
「お前だよな? 茨木」
気配を感じとり、茨木の捕縛を身を屈めて避けた七海は身体を回転させて容赦なく回し蹴りを放つ。
「うっは! やっぱり……強力ですねぇ。七海課長!」
側頭部を狙った蹴りを茨木は肩で受け止めると、片方の手で蹴打の足を捕まえようと動かす。
すると、七海は飛んだ。地に着けていた軸足をためらい無く跳躍に使うと、そのまま茨木の首と腕を取って空中十字固めへ――
「やっば!」
ソレを察した茨木は捕縛を諦めて身を低く後ろに下げる。するっと動くような独特の歩法は使い込んだ技術を感じる動作だった。
不発に終わった七海は地面に落ちるが、落ち葉と受け身でノーダメージ。茨木は倒れた七海へ追撃しようとするも、逆に敗北の悪寒を感じて止まった。
「……んだよ。来ねぇのか?」
うつ伏せで待っていた七海は、悠々と起き上がると身体についた落ち葉を払う。
「いやー、やっぱり半端ないですね、七海課長は。初めてですよ。女子にリアルな敗北の未来を見せられたのは」
「お前も相当だ。オレの本気じゃなかったとは言え、オレの蹴りを耐える女は日本には居ないと思ってたからな」
「本当ですか? 嬉しいなぁ♪」
くっくっく。あははは。と笑う二人は互いの実力を勝算する。そして、ひとしきり笑いあった後、
「互いに見なかった事にしません?」
「悪いがそれは出来ねぇな。ウチのメンバーが一人殺られてる。お前にな」
「ああ、そうでしたね」
「おう」
そして、それ以上の言葉はなく、二人は不適な笑みを作ると戦闘を再開した。
「…………」
俺……死んでないんだけどなぁ。
佐藤は気を取り戻していたが目を開けずにじっとしていた。
目の前で猛獣が二匹暴れているのなら死んだフリが一番安全だと思ったからである。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件
遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。
彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。
「高校生になってもずっとお友達だよ!」
「……あ、うん」
「友達は友達だからね?」
やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。
本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。
しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。
ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。
桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる