懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第217話 きいてまふか!?

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 それぞれの鍋の前での談話は、ほのぼのと進み、それなりに酔った者達もちらほら出てくる。
 

「それでにぇ! ユニコくんじゃないれすよ! きいてまふか!? 鳳ひゅん!」
「聞いてます。聞いてますって……」

 オレはレモンハイの二杯目を飲みながら酔いの回った轟先輩に絡まれていた。この人酔うと本音が出る系だったのか。しかも絡み方が無駄に可愛い分、無下にも出来ない。

「ふっはっは! ってわらうのは良いんしゅよ。でも後始末はわらひの役目なんだつーの。ふっはっは! じゃないんらつーの!!」
「と、轟先輩って社長の事はあんまり良い印象が無かったりするんです?」
「……」

 今度は黙った。俯いてロード中の様に固まっている。

「ひょんな事……ないれす。ないれすよ! ひょーめいしまひょうか!?」
「わー! 解りました! 轟先輩の言いたいことは解りましたから!」
「わかればよろひい!」

 グビグビと、轟先輩は更にアルコールを追加する。誰か代わってくれないかなぁ、と正面を見るとカズ先輩がヨシ君に代わっていた。カシャリ、と一写。

「ふむ。旅の一幕ですな」
「ヨシ君……いつの間に」
「ほっほ。社長より、轟殿は多めに撮るように言われておりますので」

 ヨシ君は酒が全く飲めない体質であるらしく、鍋料理を堪能している。

「ヨシ君やないれすか……」
「おや。ロックオンされてしまいましたな」

 と、ヨシ君は再びシャッターを切る。

「うおぅ! しょーぞーけんのしんがいれすよ! うったえるれす!」
「おや。これは困りましたな。どうすれば許して頂けますかな?」
「ろうすれば……って、社会人らら、自分で考えるれすよ!」

 轟先輩。どんどんワケわかんなくなって来てるな。

「ふむ。では湯上がりの社長の一枚で手を打ちましょう」
「なんれすと!」
「おいおい、ヨシ君。それ大丈夫なのか?」
「別に風呂上がりで移動の所を何気なく撮った一枚ですぞ」
「そんな……暗黒な取引……のらないれす。わらひをばかにしてるれすか!?」
「確かに……ここには本人がいらっしゃいますな」
「ろこに!?」
「轟殿の列の先端ですぞ。写真で見るよりも直接の方が手間はかかりますまい」
「…………てんさいれす! ヨシ君てんさい!」

 そう言って轟先輩は立ち上がると、せーじゅーりょーさーん、と社長の元へ飛び込んで行った。

“べろんべろんだね! 甘奈君!”
“てんさいのひらめきれす!”

 酔った勢いは凄まじい。人目を惜しまず後ろから抱きつく轟先輩に、社長は少しだけ驚いた様子だった。
 社長と轟先輩は他の面子の注目を一身に集める。女性陣に関してはキャー!

「……ヨシ君。とんでもない事になってるぞ」
「ほっほ。我輩は少し背中を押しただけですぞ」
「崖から突き落とすレベルの“押す”だよ、それ」

 素面シラフに戻った明日がとんでもない事になりそう。……知らねっと。

 ふと、轟先輩の来訪に苦笑いするリンカと目が合う。しかし……眼を反らされてしまった。じわじわと効いてくるなぁ。この拒絶……

「はぁ……」

 オレも馬鹿みたいに酔って、勢いで謝るかなぁ。とレモンハイを見つめているとヨシ君が話しかけてくる。

「鳳殿。何か悩み事でも起きましたかな?」
「……そう言えばヨシ君って妹さん居たよね?」
「歳はだいぶ離れておりますが、実家の方に居ますぞ。今年で中学に上がったばかりです」
「例えば……その妹さんに拒絶された場合さ。どんな風に関係を修復する?」

 ふむ、とヨシ君は少し考えた様子だった。流石に一発で答えは出ないらしい。

「人と人の距離と言うものは全て同じでは無いですからなぁ。相手が自分の事をどう想っているのかを考えるのが一番ですぞ」
「うーん……」
「鮫島殿との件ですかな?」
「げ、わかる?」
「ほっほ。急に距離が空いた様を見れば周囲も気づくのは時間の問題ですぞ」

 流石は弁護士。入浴から宴会までの僅かな間で僅かな変化を的確に捉えている。
 となれば……オレの痴情がしれ渡るのも時間の問題か……そいつはヤベェ。

「何にせよ、一歩踏み出す事が重要ですな。真剣な悩みほど一歩踏み出すまでが難しい。終わってみれば大した事は無かったり致しますし」
「ヨシ君……」

 凄く良い事言ってくれてるんだけど……
 すまないヨシ君。関係悪化の原因は局部を目の前で晒したなんてアホみたいな理由なんだ……

「うぅむ……」
「ほっほ。そこまで悩むほど関係を修復したいのでしたら善は急げですぞ。旅行は後二日ありますし、お二人に限っては今後も長い付き合いになるのでしょう?」
「……まぁね」

 思えば今まで散々変な事してきたっけか……そう考えると今さら局部を晒すなんて大した事無いのかもしれない。

「……いや、待て。その考えは普通におかしいだろ」

 一瞬、ヤバい方向に思考が寄った。アルコールは本当にヤバいな。リンカには少し酔いを冷ましてから話しかける方が良いのかもしれない。

“諸君。この可愛い生物を寝かしつけて来るよ。引き続き、楽しんでくれたまえ”
“帰って来なくて良いぞー”
“甘奈、良かったわね”
“ごーれすよ! ごー!”

 半分酔い潰れて居る轟先輩を背負った社長は宴会会場から出ていく。
 すると、リンカは手の塞がる社長の代わりに扉を開ける係として同行する様子。

「丁度良いのではないですかな?」
「ヨシ君。ありがとな」
「お気になさらずに」

 ヨシ君に背中を押されて少し酔った状態だがオレは立ち上がり、三人の後を追う。
 押された先が崖になるかどうかはオレ次第か。

「せかいが、ぶんれつしてるれす……」

 轟先輩は飛び過ぎたな……酒は飲んでも飲まれるな、か。ああならない様に気を付けよう。
 背後でヨシ君がカシャリとシャッターを切っていた。
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