懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第179話 ネイキッドヒートルーム

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 脱衣場で服を脱ぎながら、わたしは少しだけ冷静になった。
 今、とんでもない事をしようとしているのではないのか、と。

「うぅむぅぅ……」

 女子の前以外で肌面積を広く晒すなど……どうかしている。ケン兄の時は……事故みたいなモノだった……けど、今回は自発的に見せに行くのだ。

「……」

 ブラを手にかけた所で少し躊躇いが出て――

“ヒカリちゃーん! まってよー!”

「あぁ! もう! 手間のかかる弟ね!」

 昔から最後尾を走るダイキが背中を押してくる。
 わたしが守護まもらねば! 
 服と下着を全て脱衣籠に入れ、バスタオルで胸から下を覆う。

「……よし」

 長い髪は鏡を見ながら木製のピンで巻き上げて止めると準備万端。サウナの扉に手をかける。

「……くっ!」

 手は恥ずかしさから動かない。ぷるぷる震える。動け! 動けよ、あたし! ダイキを護るのだ! ホモの魔の手から!

“ヒカリ、女は度胸だ!”

「だぁ! 女は度胸ぉ!」

 母の言葉にも背を押され、サウナの扉を開けた。





「ほっほう……」
「ヒ、ヒカリちゃん?」

 サウナ室に入ってきたヒカリを見て、二人の反応は驚きであるが、その意味合いは別だった。

「ダイキ、寄って」
「え……あ……うん……」

 ダイキは少し動いて間を作る。ヒカリは二人の間に入る様に座った。

「……」

 無言。気まずさから言葉を失ったのではなく、混乱の方が大きかった。特にダイキの心と脳内は台風の様に荒れ狂っている。

 な、なんでヒカリちゃん!? 裸! じゃないけど……でもタオル一枚で!? ここって男湯……でもないんだっけ? あれ? サウナって男と女は分かれてる……んだよね?

 ぐるぐると思考が回る。世界が回る。隣には好きな女の子。胸から下はバスタオルに隠れてるとは言え、その肌は日焼けの一つも無い。美しいと感じる程に白い肌はサウナで焦げてしまいそうな程に真新しさを感じる。
 タオル越しでも分かる整ったボディラインに備わる胸もまた、大き過ぎず小さ過ぎず、額からつたる汗が落ちて――

「ダイキ」
「は、はい! ごめんなさい!」

 思わずヒカリを凝視していたダイキは咄嗟に眼を反らして正直に謝った。

「キツくなったら出なさい。あっちの出口から水風呂のある浴室に繋がってるから」
「あ、う、うん……」

 ヒカリちゃんは……いつも通りだ。いつも通り……僕の事を気にかけている彼女だ。僕も……いつも通りに――

「ふー、暑……」

 と、ヒカリは少しタオルをずらして胸元を開ける。ダイキの視線は本能から思わずそちらへ――

「――あれ?」

 ぽたり、とダイキは鼻から流れる自分の血に気がついた。

 知識と認識。
 ダイキも中学の授業で、赤ちゃんの作られる過程やソレに必要な行為に関してもきちんと習い理解している。
 しかし、知識と認識は全くの別物なのだ。

 一途に一人の異性を想い続ける意識と、幼く純真無垢な有り様は逆に眩しくさえあり、野球部でも女子マネによって下劣な性知識から護られていたダイキ。
 彼の両親も変に教えて性欲に苛まれるよりも自然に知ることを待った。

 故に異性に対して性認識の目覚めが未だに無かった。好きな人と一緒に居れるだけで幸せだと思えるダイキにとって、その先を全くイメージしておらず、

「ご、ごめん……顔洗ってくる」

 結果、サウナ熱と想い人の半裸により理性よりも本能が性認識を強制解放アンロック。戦意以外の興奮で出てきた鼻血の意味は当人も良く解っていないものの、初めていきり立った下半身は見られるべきではないと悟った。

「顔を洗ったら水風呂に浸かってなさい」
「う、うん!」

 浴室へ続く扉から出ていくダイキにヒカリは助言した。





「……ふっ。意外だったよ。案外、はしたないんだな!」
「……無垢につけこむ人に言われたくないです」

 サウナ室に残った国尾とヒカリは互いに同じ方向を向いたまま、静かに火花を散らす。

「身体を使って彼を誘惑するとは……痴女のやることだよ! 高校生にはまだ早いんじゃないかな!?」

 わっ! と笑いながら国尾は言うと立ち上がる。

「残念だったね。俺の特訓は別にサウナじゃなくても出来る。さーてと、真っ白なキャンパスについた汚れを綺麗にしなきゃな」

 国尾はダイキを追って浴室への扉に手をかける。その時、

「彼、わたしに興奮しましたよ?」

 国尾はピタリと止まる。

「わたしの身体を見て、隣に座っただけで凝視していました。国尾さんが隣に座っても全くの無反応だったのに、わたしが来たとたん凄く興奮してました。貴方は負けたんです。残念でしたね。彼の本能はわたしを選びました。貴方は彼に選ばれたけれど、それは理性の話。本心までは手が届かなかった様ですね」
「……谷高ちゃん。言うねぇ!」

 国尾は、わっ! と笑って扉から手を離すと、ドスン、と元の位置に座る。

「どうやら俺は君を侮って居たようだ。認めよう。君も心に強い愛を宿す“愛戦士”なのだと!」
「ようやく、理解しましたか」

 ヒカリも熱で少しだけ脳細胞をやられてしまい、変な思考に陥っている。

「どうやら……この恋の最大の生涯は君の様だ」
「わたし、負けず嫌いなんです。もう負けませんよ」
「フッ。今の戦績は互いに1勝ずつ。俺は理性、君は本能を勝ち取った。ならば、次の1勝で全て決まる」
「望む所です」

 国尾はヒカリの事を可愛い猫ちゃんのイメージから凶悪な怪物として認識した。

「そこは虎とかにしてくださいよ」
「ん? そう? じゃあ」

 くわっ! と牙をむく虎のイメージに変更する。

決着ケリをつけよう」

 カットインが入る二人。
 しかし、その場のノリに流されているだけで、何をすれば勝ちなのかは当人たちも理解していなかった。
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