懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第169話 リンカと七海課長

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「……」
「……」

 オレは正座し、リンカは腕を組んで見下ろし、犬はへっへっへとリンカの横でおすわりしている。

「言えよ」
「……はい?」
「言い訳あるんだろ?」
「これはウォーミングアップなんだ! 天月新次郎って知ってる!? メダリストの! 彼が七海課長と――あ、七海課長ってのはあそこに立ってる人の事で課は違うけどオレの上司ね! 天月さんと七海課長が色々あって勝負する事になって! オレはそのウォーミングアップに付き合ってただけなんだぁぁ!」

 土下座しながらオレは無茶苦茶早口で叫ぶ。そんなオレの肩をリンカの手が優しく触れる。オレは理解して貰えたと思い顔を上げると彼女の笑顔があった。

「よく、わかった」
「リン――」
「でも、寝技は意味無いよな?」

 その言葉と共に優しい笑みが眼の笑わない笑みに変わる。ヒュエ……や、や、や、殺られるっ!

「な、七海課長! 説明してください!」

 何故沈黙しておられるのですか! 七海課長! ……七海課長?

「酷いものだ。組手をしていたら急に押し倒して獣の如く私を――」

 よよ……と若干の嘘泣きをする七海課長。え? ちょっと……七海課長? 私って……そんなキャラじゃないですよね?

「うん。良くわかった。うんうん。さーてと」

 リンカはたこ焼き返しをチャッと取り出す。うわー! なんで!? どこに持ってたんだ!?

「通報はしない。その変わり痛みを受け入れろ!」
「七海課長ぉぉ!!」
「だっはっはっは! お嬢ちゃん、そこまでだ、そこまで」

 映画の最終決戦のボスと主人公のナイフ戦の様に馬乗りにされたリンカのたこ焼き返しを耐えていると、七海課長が笑ってリンカを止めた。

「コイツの言ってる事は本当だよ。わりーわりー、ちょっとからかっちまった」





「こちらは七海恵課長。さっきも言ったけどオレの上司」
七海恵ななみけいだ。課は違うけどコイツは部下としてこき使ってる」
「ほ、本当なんですね……見苦しい所を……お見せしました」

 リンカは深々と頭を下げる。誤解が解けた様で何よりだ。

「あたしは鮫島凛香さめじまりんかといいます」
「やっぱり、お前が噂のリンカか」
「? あたしの事、知ってるんですか?」
「おう。シオリのLINE友達だろ? お前からメッセージを受け取る度にアイツ嬉しそうにするからな」

 多分、お前の事は妹みたいに思ってるよ、と七海課長の言葉にリンカは少し嬉しそうだ。

「それに、コイツが会社の行事を断って何かと帰る時はリンカちゃん絡みだったりするしな。なぁ?」
「ま、まぁ……」
「ふーん」

 相変わらずオレに対する目線は変わらないが、少しだけ機嫌が直った様子。

「でも、天月新次郎ってのは現実味のない言い訳だと思いますけど……」

 まぁ、普通なら現物を見ない限り、信じがたいよね。

「マジだ。細かい経緯は置いといて、俺とヤツで戦り合う事になってる。鳳には身体温めるのに付き合ってもらっただけだ」

“別に取ったりしないから安心しろ”
“! そ、そんなんじゃ……無くは……無いです……”

 と、七海課長は近づくと小声で何かと言う。リンカも顔を赤くして眼を伏せてしまった。また、何か言ったのだろうか……ハラハラ――

「あのー、リンカちゃん?」
「あんまり……誤解する様なことすんなよ」
「あはは……気をつけます」

 リンカの誤解も解けた様で一安心。
 今回は神がかったエンカウトだったが、今後は気をつけよう……
 すると、ガララ、と道場の更衣室が開き、そこから大宮司青年が現れた。ん? 道着を着てる……

大宮司亮だいぐうじりょうです」
「あ、どうも。鳳健吾おおとりけんごと申します。自己紹介は初めてだったね」

 礼儀正しい大宮司青年は一礼をしてから名乗った。

「鳳さん、俺と組手をしてくれませんか?」
「……ん? オレと? 君が? 七海課長とじゃなくて?」
「はい」

 大宮司青年、誘う人間違ってますよ? リンカは、先輩? と不思議がり、七海課長は、へー、と何かを察したご様子。

「俺は不器用です。こんな形でしか相手を知る方法が思い付きません」
「いやいやいや! それはちょっと考えが飛躍しすぎじゃないかな!?」

 殴り合うことで理解を深めるとか、河川敷の決闘じゃないんだから……
 飯でも行こう! 一緒に!

「鳳。大人として答えてやれや」
「七海課長……絶対面白がってるでしょ?」
「そんな事はねぇぞ。フッ」

 今、笑った……

「組手だろ? 本気で殴り合う訳じゃないんだから少しくらいは大丈夫だろ」

 リンカまで若干、大宮司青年寄り。

「天月のヤツまだ戻ってこねぇからな。余興やれや」
「本音でてますよ……」
「安心しろ、リョウは手加減も得意だぞ」
「押忍」
「いや……押忍じゃなくて」

 向けられる“戦ってみろやオーラ”にオレは断り切れず流される事に。

「オレ、ちょっとサンボやってるだけで何も得られるモノはないよ?」
「強くなる為の組手ではないで」
「そうっスか……」

 大宮司青年と解り合うには組手が必須かぁ。社会に出るまでには治しておかないといけない事だゾ!

 ちなみにシモンさんと大宮司青年の弟は少し離れたところで柔軟をし、犬はおすわりを維持していた。
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