懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
144 / 701

第143話 おぉおいぃ!!

しおりを挟む
「逃げろ?」

 屋上の気持ち良い晴天の下、食事を始めたオレたちに連絡が入る。
 今はあまり使われない同期のLINEグループに泉から“逃げろ”のメッセージにオレらは頭に疑問詞をつけた。

「なんだこれ?」
「主語が抜けていますなぁ」

 取りあえず、何が? と返してスマホを仕舞うと、加賀へ向き直る。

「それで加賀。いつから姫さんと付き合い始めたんだ?」

 オレはコンビニで買った、新作のおこわおにぎりを頬張りながらさっきの姫さんと加賀の様子を問い詰める。
 あのイチャイチャ具合の距離感は先輩後輩の枠をまたいでいた。

「え? 別に付き合ってなんてねーぞ」

 しかし、加賀の口から返ってきたのは少し違った解答であった。姫さんから貰った弁当を食べながら、ははは、と笑う。

「何言ってんだよ、鳳。俺みたいなヤツが、姫さんみたいな美女と付き合えるワケないだろー」

 加賀は本気でそう思っている様子だ。
 確かに、姫さんは何かと世話焼きな所があるなぁ。オレもヘルプであの人の下に就いた時は、良くして貰ったっけ。素で天然なんだよ。あの人。

「それに……しばらくは女性関係はいいんだ……」
「おいおい。なんかあったのか?」

 何か暗いモノを思い出す様な加賀にオレは問う。

「加賀殿はストーカー被害に合いましてな。それが軽いトラウマなのですぞ」
「え? 初耳」

 ヨシ君は、一つの写真をオレに見せてくる。それは、バス停でバスを待っている所を反対側の歩道から撮った写真。
 ショートヘアーで横顔からでも整った美形である事が解る。ヒカリちゃんやシズカには劣るものの、標準的な目線では美少女に当たる女の子だった。多分高校生。

「可愛いじゃん」
「ひっ、ヨシ君! それまだ持ってたのか!?」

 写真を見た加賀は、ざっと遠ざかる。相当精神をやられてやがるな……

「失礼。念のためですぞ」
「普通に可愛いじゃん」
「そいつ……中身はミザリーなんだよ……」

 ミザリーって……あのヒューマンサイコホラーのタイトルにもなってるヤバい女か。あれ、実話らしいが……

「んなもん、現実にいるわけ――」

 ないだろ、と言おうとしたオレに加賀は、マジなんだよ、と目力で訴えてくる。
 言葉の否定ではない様子から、オレも事の深刻さを理解した。

「けど、姫さんは違うと思うぜ?」
「俺も分かってるんだけどよ……人間の腹の中なんて何が潜んでるかわかんねぇだろ?」

 こりゃ……重症だな。オレも人の事は言えんが。

「でも、ストーカーの件は終わってるんだろ?」
「箕輪殿が処理をしました。接近禁止も指定しております。特定の人間以外は守秘義務を強いておりますゆえ」
「オレも胸の内に仕舞っとくわ」

 加賀の女性に対する考え方は当人次第か。にしても、オレが居ない間にいろんな事が起こってるなぁ。

「おぉおいぃ!!」

 その時、どこからともなく声が響く。
 え? 上から聞こえたけど……上は空だ。晴天だ。しかもこの声は――

「国尾さん……?」
「声はしましたな」
「声はしたぞ……」

 オレらは嫌な予感に辺りを見回す。しかし、あの体格が隠れる場所など拓けた屋上には存在しない。

「俺はココだぜ!」

 また天からの声。

「え? どこだ?」
「どこからですかな?」
「ど、どこから来やがる?」

 キィ……と屋上の扉が不気味に開く。

「ココだぜ!」

 わっ! と笑顔で狭そうに扉をくぐるマッチョメン。
 どうやって空から声を降らせていたのか全くもって不明だが、国尾さんとエンカウントした。

「今は……昼休みオフだぜ! ほっほう!」

 やっば……止められる人も居なければ袋小路じゃん……





「それでさ。姫って加賀の事、アリなの?」
「ぶふー。ごほっ!」

 紙パックのジュースを買って飲んでいた姫野は茨木の発言に思わず握り潰した。圧力で勢い良く出た中身に思わずむせる。

「え? 姫先輩、そうなんですか?」
「い、いや違うよ!」
「いや……違わないでしょ。普通は弁当なんか手作りしないって」
「なんだ、姫。加賀に気があんのか?」
「ちょっと栄養配分が気になっただけですよ! 七海課長!」

 それって加賀の事を常に見てるってことじゃん、と茨木と泉は思ったが姫野のリアクションが面白いので口には出さない。鬼灯は微笑ましく傍観者を決め込んでいた。

「お前らは先輩後輩だと思ってたけどな。沖縄の一件で枠がぶち壊れたか」

 2泊3日の沖縄磯研修の一件で大きく関係が変わったのは加賀と姫野が一番だろう。

「あんなヤツのどこが良いんですか? カニにびびる雑魚ですよ?」
「当人にしかわからない魅力があるんだろうよ、泉。恋は盲目ってヤツ」
「もー、私先に帰るからね! 失礼しますっ!」

 からかわれる事を察した姫野は顔を赤くして一人席を立ち、歩いて行った。

「あらら」
「お前ら、もうちょっと引っ張れよな」

 話のネタが居なくなった事に七海は茨木と泉を見る。すみませーん、と二人は簡単に謝った。

「そう言えば、七海課長はどうなのです?」
「あ?」

 静観を決め込んでいた鬼灯が口を開く。

「他の支部からの派遣で来るのは間違いなく天月君ですよ?」
「……クソみたいに面倒な事になりそうだ」

 と、七海は心底うんざりした様子で舌打ちをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※続編がスタートしました!(2025.2.8)  ※1日1話ずつ公開していく予定です。  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...