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第142話 “逃げろ”
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「あ、見つけたよ。加賀君」
オレと加賀とヨシ君は昼休憩で屋上へ向かう際に二人の先輩社員と遭遇した。
一人は姫野雫先輩。名前の通りにお姫様を連想させる黒髪ロングにその容姿は社内でもトップ三に入る美人さん。着物で座っていたら現代にタイムスリップした姫と見間違うレベルの人物である。(四課の人事調査(ヨシ君管理))
鬼灯先輩が“頼れるお姉さん先輩”であるのなら、彼女は“友達のような先輩”であり、そこんとこも評価が高い。愛称は姫さん。(本人公認)
「げ、姫さん」
「げっ、てなに? げっ、て」
姫さんは2課の女性社員で加賀の直接的な教育係だった。
「またパンばかり食べてるー」
「別に何食べてもいいでしょ」
「ダーメ、没収ー。代わりに私がお弁当作って来てあげたから」
「えー、他人のオカンが作ったモノなんて何か嫌ですよー」
「全部私が作ったので、その言い訳は効きませーん」
パン返してくださいよー。取れるかなー? と目の前でイチャイチャし出した二人にオレは少し驚いた。
「……カズ先輩。二人ってあんなに距離近かったんですか?」
いつの間にかオレらの側に立って二人を眺めるのは同じく2課の女性社員の茨木和奏先輩。
身長はオレやヨシ君よりも頭一つ高く、趣味でバスケをやっている健康ポニテの美人さん。七海課長と運動神経でタメを張れる社内唯一の人間だったりする。皆からの愛称はカズ。(和をカズ読みから)
「うーん、やっぱり沖縄の一件からかねぇ」
「暁才蔵の件ですな」
「あの忍者、そんな名前だったんだ」
オレが居なかった磯研修の沖縄旅行は、他の支部の人間も参加し、横の繋がりを強めるモノだったらしい。参加したかったぜ!
「姫、今日は食堂なのに弁当持ってた理由が加賀?」
「だってカズ、加賀君。パンだけで栄養取れると思ってるんだよー? 見過ごせないでしょー」
ひょいっ、と茨木先輩の後ろ移動した姫さんの手には加賀から強奪したパンの袋を抱えて、カズガード! と半身を出して隠れる。
「それ、全部で三百円くらいですよ? 弁当1個と値段の釣り合いは取れないでしょ」
「気にしなくてよいよい。容器をちゃんと洗って返してくれればねー」
カズ行こー、とメルヘン全開で姫さんは去って行った。
「悪いな加賀。姫のわがままにちょっと付き合ってやってくれ」
と、代わりにカズ先輩は謝ると、姫さんの後を追って歩いて行った。
「む!?」
国尾は持参したプロテインドリンクを飲み物に、食堂でスタミナ丼を食べていた所、啓示の様な電撃を受け取った。
「どうしたの? 国尾君」
同席している鬼灯は国尾が喉に食べ物を詰まらせたのかと思い、水を寄せる。
「姉御……俺の恋人候補が一人、ツバを付けられたみたいなのです」
「?」
「……」
鬼灯の横に座る泉は、相変わらず訳分かんない人だなぁ、とうどんを啜りながら静観を決め込む。
「あ、鬼灯さーん」
すると、食堂に着いた姫野が三人を見つけて寄ってくる。茨木は食券を買って列に並んでいた。
「姫野さん」
「姫先輩」
ここ良いですか? どうぞー、と国尾の体格から六席の場所に陣取っていた鬼灯と泉の所に姫野も座る。
社内でもトップ美人の鬼灯と姫野が揃ったその席は異性ならば何としても同席を望む場所へと成り代わった。
特に二人は異性との相席に対してもそれほど否定的ではなく、正に女神と姫。
しかし、国尾の存在が中々に障害である。
「姫野さん。今日はパンだけ?」
「残飯処理です」
「何かあったんですか?」
すると、国尾は姫野のパンの入った袋を見ると腕を組んで、
「姫野。お前はどうやってソレを手に入れた?」
「え? 何? 国尾君」
「それは俺の恋人候補である加賀が毎朝寄っているパン屋の袋だ! お前の通勤路には決して存在しないモノなんだよ!」
わっ、と笑顔で国尾は姫野に吠える。
……恋人候補? と泉は訝しげに、聞き違いかなぁ、と国尾の発言の一端をスルーする。
ちなみに国尾と姫野と茨木は同期である。
「そうなの? 姫野さん」
「いえ……初めて知りました」
「フッ」
国尾は今度は笑った。そして勝利した様な様子で立ち上がる。
「甘い、甘いなぁ、姫野。その程度では加賀の心は動かないぜ。しかし、万が一と言う事もある。お前の策謀は微塵も入らない様にさせて貰う! ほっほう!」
そして、国尾はスタミナ丼を米一粒も残さずに完食するとプロテインを飲み干し、立ち上がる。
「俺が今からお前のを上書きしてくるぜ! お前は残り香でも漁ってな! じゃあな! 姫野!」
呆然とする姫野を尻目に国尾は食器をカウンターに返すと一度天井を見上げ、屋上だな! と、わっと笑って、ずんずんと歩いて行った。
「……詩織先輩。国尾さんのアレってどういう行動です?」
「泉さん、加賀君に“逃げて”って連絡してあげて」
「んだよ。ここ空いてんじゃん」
と、席を探して右往左往していた七海が三人の元へ寄ってくる。
「席良いか?」
「どうぞ」
「こんにちはー」
「お疲れ様です、七海課長」
国尾が消えて、更にカズも座り美人偏差値の上がっていく席であるが、七海の居る席に入る度胸のある男子社員は居なかった。
「逃げろ、っと」
そして、泉は同期だけのLINEグループに端的なメッセージを残す。
オレと加賀とヨシ君は昼休憩で屋上へ向かう際に二人の先輩社員と遭遇した。
一人は姫野雫先輩。名前の通りにお姫様を連想させる黒髪ロングにその容姿は社内でもトップ三に入る美人さん。着物で座っていたら現代にタイムスリップした姫と見間違うレベルの人物である。(四課の人事調査(ヨシ君管理))
鬼灯先輩が“頼れるお姉さん先輩”であるのなら、彼女は“友達のような先輩”であり、そこんとこも評価が高い。愛称は姫さん。(本人公認)
「げ、姫さん」
「げっ、てなに? げっ、て」
姫さんは2課の女性社員で加賀の直接的な教育係だった。
「またパンばかり食べてるー」
「別に何食べてもいいでしょ」
「ダーメ、没収ー。代わりに私がお弁当作って来てあげたから」
「えー、他人のオカンが作ったモノなんて何か嫌ですよー」
「全部私が作ったので、その言い訳は効きませーん」
パン返してくださいよー。取れるかなー? と目の前でイチャイチャし出した二人にオレは少し驚いた。
「……カズ先輩。二人ってあんなに距離近かったんですか?」
いつの間にかオレらの側に立って二人を眺めるのは同じく2課の女性社員の茨木和奏先輩。
身長はオレやヨシ君よりも頭一つ高く、趣味でバスケをやっている健康ポニテの美人さん。七海課長と運動神経でタメを張れる社内唯一の人間だったりする。皆からの愛称はカズ。(和をカズ読みから)
「うーん、やっぱり沖縄の一件からかねぇ」
「暁才蔵の件ですな」
「あの忍者、そんな名前だったんだ」
オレが居なかった磯研修の沖縄旅行は、他の支部の人間も参加し、横の繋がりを強めるモノだったらしい。参加したかったぜ!
「姫、今日は食堂なのに弁当持ってた理由が加賀?」
「だってカズ、加賀君。パンだけで栄養取れると思ってるんだよー? 見過ごせないでしょー」
ひょいっ、と茨木先輩の後ろ移動した姫さんの手には加賀から強奪したパンの袋を抱えて、カズガード! と半身を出して隠れる。
「それ、全部で三百円くらいですよ? 弁当1個と値段の釣り合いは取れないでしょ」
「気にしなくてよいよい。容器をちゃんと洗って返してくれればねー」
カズ行こー、とメルヘン全開で姫さんは去って行った。
「悪いな加賀。姫のわがままにちょっと付き合ってやってくれ」
と、代わりにカズ先輩は謝ると、姫さんの後を追って歩いて行った。
「む!?」
国尾は持参したプロテインドリンクを飲み物に、食堂でスタミナ丼を食べていた所、啓示の様な電撃を受け取った。
「どうしたの? 国尾君」
同席している鬼灯は国尾が喉に食べ物を詰まらせたのかと思い、水を寄せる。
「姉御……俺の恋人候補が一人、ツバを付けられたみたいなのです」
「?」
「……」
鬼灯の横に座る泉は、相変わらず訳分かんない人だなぁ、とうどんを啜りながら静観を決め込む。
「あ、鬼灯さーん」
すると、食堂に着いた姫野が三人を見つけて寄ってくる。茨木は食券を買って列に並んでいた。
「姫野さん」
「姫先輩」
ここ良いですか? どうぞー、と国尾の体格から六席の場所に陣取っていた鬼灯と泉の所に姫野も座る。
社内でもトップ美人の鬼灯と姫野が揃ったその席は異性ならば何としても同席を望む場所へと成り代わった。
特に二人は異性との相席に対してもそれほど否定的ではなく、正に女神と姫。
しかし、国尾の存在が中々に障害である。
「姫野さん。今日はパンだけ?」
「残飯処理です」
「何かあったんですか?」
すると、国尾は姫野のパンの入った袋を見ると腕を組んで、
「姫野。お前はどうやってソレを手に入れた?」
「え? 何? 国尾君」
「それは俺の恋人候補である加賀が毎朝寄っているパン屋の袋だ! お前の通勤路には決して存在しないモノなんだよ!」
わっ、と笑顔で国尾は姫野に吠える。
……恋人候補? と泉は訝しげに、聞き違いかなぁ、と国尾の発言の一端をスルーする。
ちなみに国尾と姫野と茨木は同期である。
「そうなの? 姫野さん」
「いえ……初めて知りました」
「フッ」
国尾は今度は笑った。そして勝利した様な様子で立ち上がる。
「甘い、甘いなぁ、姫野。その程度では加賀の心は動かないぜ。しかし、万が一と言う事もある。お前の策謀は微塵も入らない様にさせて貰う! ほっほう!」
そして、国尾はスタミナ丼を米一粒も残さずに完食するとプロテインを飲み干し、立ち上がる。
「俺が今からお前のを上書きしてくるぜ! お前は残り香でも漁ってな! じゃあな! 姫野!」
呆然とする姫野を尻目に国尾は食器をカウンターに返すと一度天井を見上げ、屋上だな! と、わっと笑って、ずんずんと歩いて行った。
「……詩織先輩。国尾さんのアレってどういう行動です?」
「泉さん、加賀君に“逃げて”って連絡してあげて」
「んだよ。ここ空いてんじゃん」
と、席を探して右往左往していた七海が三人の元へ寄ってくる。
「席良いか?」
「どうぞ」
「こんにちはー」
「お疲れ様です、七海課長」
国尾が消えて、更にカズも座り美人偏差値の上がっていく席であるが、七海の居る席に入る度胸のある男子社員は居なかった。
「逃げろ、っと」
そして、泉は同期だけのLINEグループに端的なメッセージを残す。
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