懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第123話 ヒップタッチトレイン

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「忘れ物ないか?」
「ノープロブレムネ」

 オレとダイヤは鮫島家で朝食までお世話になると、準備を済ませて出社する。
 世話になりっぱなしだ。何かお礼を考えないとなぁ。

「おはよう、ケンゴ君」
「おはようございます、赤羽さん」
「グッドモーニング! Mr.アカバネ!」

 階段を降りると朝早くから敷地内の雑草をむしっている赤羽さんに各々で挨拶をする。

「赤羽さん、すみません。あのコインなんですけど……実は失くしちゃいまして」
「おや? そうかい」

 あら? 意外と気にしてない感じだな。

「折角お土産に貰ったのにすみません」
「仕方ないさ。物は失くなるモノだからね」

 すると、赤羽さんは一枚のコインを弾いてくる。あれ、ループしてる? と思いつつオレは、パシッとキャッチした。

「これって……」
「ベガスのカジノコインヨ」

 肩口にダイヤが覗いてくる。

「ラスベガスに行った時に大勝してね。ポケットに紛れてたんだ」
「今度はお土産っぽいです」
「なんだか物足りなさそうだね。呪術儀式の始祖仮面とかもあるけどそっちの方が良いかい?」
「いや、これで良いです」

 この人は1ヶ月ほどの旅で世界のどこを歩いて来たんだ? インディージョーンズにも引けを取らない大冒険をしてそう。

「仕事、頑張ってね」
「はい」
「イッテクルヨ!」

 駅に向かって歩き出す。その際に塀の上にいるジャックと、近くの電線の上に停まってるデカイカラスがやたら気になった。





『扉が閉まります。気をつけてください』
「おっとと」

 いつもの通勤ラッシュに巻き込まれたオレは吊革か扉の近くを確保するべく手を伸ばした。二駅ほど上がった所で降りるので、出来ればドアの近くを確保したい所。

「コレガ、ジャパンのラッシュアワーネ!」

 この混雑化。ダイヤは女性専用車両に乗せるべきなのだろうが、降りる駅を教えるためにも今回だけ一緒の車両に乗る。

「降りる駅を間違うと遅刻になるからな。ちゃんと覚えるように」
「OK」

 JRが動き出し、乗車率200%の車両内は移動する重心に少し揺れる。すし詰め状態だ。吊革を確保出来なかったダイヤはオレにしがみつく形を取っている。

「せめて窓際が良かったか」

 オレは平気だが、ダイヤはあまり経験のない。景観を楽しむような状況ではないが、少しでも窮屈さを軽減できればと考える。

 加速と減速をする度に電車は揺れ、その都度、アメリカで育った胸がオレに押し立てられる。出てこい、煩悩退散ジジィ! オレと殺し合え!

「? ニックス」

 脳内シミュレートで、キェー、と荒ぶる鷹のポーズを取るオレは銃を構えるジジィと向かい合う。阿保が、と撃ち殺された所でダイヤが話しかけてきた。

「どうした? 次で降りるぞ」
「OK」
「忘れ物でもしたのか?」
「そうジャナイネ」

 なんだ? とこの時は特に気にしなかった。JRは駅に付き、ここだ、とオレはダイヤと雪崩の様に出ていく社会人に混ざって下車する。

「この駅で降りるんだ。次からは別車両に乗るから降り間違えるなよ」
「ウン」

 と、ダイヤは閉まる車両を見ていた。

「なんか気になる事でも?」
「ウーン、ジャパンにヒップタッチ文化あるネ?」
「何言ってんだ? そんなわけ――」

 ダイヤの言葉にオレは車両を見るが、既に数多の乗車客によってすし詰め状態だった。
 発進のアラームが鳴り響き、扉が閉じる。

「ダイヤ。大丈夫か?」
「エ? 何がデス?」

 日本の事情に深くないダイヤはオレの真剣な表情に困惑の様子だった。

「……悪かった。オレの考えが浅はかだったよ」
「急にドーシタネ、ニックス」
「取りあえず会社に行きながら説明するよ」

 オレはダイヤに痴漢と言うものが深刻な問題になっているかを説明した。





「よし、朝の伝達事項は以上! ケンゴは引き続き、ダイヤ女子についてやってくれ! そんじゃ、仕事開始だ!」

 獅子堂課長の朝礼にも参加して業務が始まった。何人かはヘルプ先の課へ行き、オレはダイヤを連れて鬼灯先輩のデスクへ。

「おはようございます」
「おはよう、鳳君。ダイヤさん」
「オハヨー、シオーリ」

 元気なダイヤに鬼灯先輩は微笑ましく笑う。マスクは着けてない所を見ると、完全に回復したようだ。
 すると、鬼灯先輩はオレの雰囲気を察した。

「どうしたの?」
「実はですね――」

 オレは今朝の電車でダイヤが痴漢された事を相談する。当人は気にしてなくても犯人がエスカレートする可能性もあるからだ。

「そうなの……ダイヤさんは平気?」
「ショージキ、ニックス達がナンデ騒いでるノカワカラナイヨ」
「先輩、ダイヤは向こうだと会社に近い場所に住んでるんです。だから徒歩で行けるので余りラッシュ時の電車には乗らないんですよ」
「そうなの」

 事の深刻さをあまり理解していないダイヤに言葉で危機感を持たせるのは難しい。

「今日はダイヤさんはどうするの?」
「1課と2課に連絡して、何か社内で出来るヘルプがないか聞こうかと思ってます」
「4課には行った?」
「フォーオフィス?」
「そう言えばまだでした」

 昨日は七海課長に止められたんだった。理由は食堂で相席した火防議員が来訪したからだったんだろう。

「それなら丁度いいかもしれないわ。私が事前連絡はしておくから、今から行ってきなさい」
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