懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
85 / 701

第85話 兄妹キッス

しおりを挟む
「それじゃ、今日は終わりだ! 業務終了! 全員とっとと帰宅しろー」

 3課のオフィスでは課長の獅子堂の声がアラームのように響き渡り、各々が帰り支度を始めていた。

「鳳君」
「なんでしょう?」

 某天元突破ロボアニメのラスボスの様な覇気の無い顔のケンゴは鬼灯に声をかけられる。

「何か悩み事? 今夜ご飯でも食べに行かない?」
「すみません。めちゃくちゃ魅力的なお誘いなんですが……ヨシ君と加賀の先約がありまして」
「そう。七海課長と泉さんも来るんだけどね」

 七海は焚き付けた手前、ケンゴの表情がアンチス○イラルの様になっている事に責任を感じていた。

「先輩の隣は泉に譲ります。七海課長には気を使わせてしまいそうなのでまたの機会に、と」
「伝えておくわ」

 するとオフィスの窓から件の二人が、行くぞ、とジェスチャーしていた。

「お先に失礼します」

 そう行ってケンゴは鞄を持つと二人と合流。鬼灯先輩から誘われてたのか? こっちが先だからお前らに付き合うよ、と本日は男の友情を優先する。





 駅の近くをうろつき、個室の空いてる居酒屋を探して回ること数件。キャッチに捕まり、個室が空いてる事を聞いてからその居酒屋へ行くことにした。
 初めて行く所だが中々に小綺麗で、各々で酒を注文して乾杯する。

「それで、鳳殿はキスをしたのですかな?」
「ぶふぉふ! ゲボッ、ゲホッ!! おーおぇぇっほ!!」

 オレは逆流するレモンハイに喉と鼻を内側からやられた。呼吸困難になるほどの咳に目と鼻が全力で息を吸おうと異物を吐き出す。

「ほら、ティシュ」

 加賀からの援助を貰い、レモンハイの混じった鼻水を鼻孔から出す。
 あまりに異常な咳き込みに店員さんも、大丈夫ですか? と顔を覗かせる始末。ヨシ君もうちょっと段階を踏もうぜ、と言う加賀の言葉にヨシ君は、ここまで動揺するとは、とウーロンハイをぐびっていた。

「キスって? 一体、君たちは何を言ってるのかね?」

 オレは何となく隠しておくべきかと思ってしらばっくれる。

「鳳。信用しろって」
「吾輩たちはプライベートは尊重しますぞ。しかし、ここ二日の鳳殿は少々見ていられませぬ。吐きどころを作らなければと思いましてな」
「……加賀……ヨシ君」

 どこぞの暗黒面共とは大違いだ。オレは良い同僚を持ったとリアルに涙ぐむ。

 ちなみにヨシ君こと吉澤善明よしざわよしあきは4課に所属している。研修期間は無く、オレや加賀が他課に振り分けられた頃に鷹さんの推薦で入社したとか。無論、弁護士の資格を持っている。

「それで、何があった? キスしたのか?」
「加賀殿。吾輩と質問の意図が同じですぞ」
「それが本題だろ?」

 こいつら……オレがキスしたと確定してやる。いや、したんだけどさ……でも、なんでバレたんだ?

「カマかけただけだ。誰かから聞いたとかは無いから気にすんな」
「心を読んで来るなよ……」
「鮫島凜香殿ですかな? 相手は――」
「ぶほぉっほ!?」

 オレは再びむせる。こいつらの情報網はどうなってんだ!?

「ソースはお前の反応だ」
「ですぞ」
「…………そんなに顔に出てたか?」
「丸二日、手抜き作画の白黒だったヤツが何言ってやがる」

 と、オレの普段見ない一面を見て楽しむように加賀はソーダハイを飲む。

「……正直、対応に困っててな。どうしたら良いのかわからんのよ」
「状況を詳しく。判定してやるよ」

 男どもだけでリンカの気持ちを推測出来るかは不明だが……情報は全て開示するべきか。

「夏祭りに行ったんだ。一昨日の雨が降ったやつ」
「あれか? ハリウッド俳優が来たやつ?」
「そーそー」
「サインは貰いましたかな?」
「いや、なんかツレにちょっかいかけて来たから」
「……クモ男はお前か」

 鋭いな加賀。あの時はアレがベストだったんだよ。

「映像では中々に佐々木殿もやり手でしたな」
「まぁ、普通に強かったよ」
「あのベイ○ーとトルー○ーは何だ? 大スターのツレか?」
「この世に渦巻く、嫉妬と言う名の怨念の集合体だ」
「それは中々に……危険な相手でしたな」
「ガチで殺しに来てたからな。五体満足で帰ったオレを褒めてくれ」

 映像越しでも、どす黒いオーラでヤツらの姿は歪んでたからなぁ。心霊映像にピックアップされるレベルだよホント。

「あの仮面ラ○ダーは?」
「箕輪さんでは?」
「お、ヨシ君。正解」

 同じ課に所属している事もあり、ヨシ君は顔を隠していても特定の仕草で箕輪さんだとわかったようだ。

「まぁ、人物当てゲームはここまでにして、ほら続きを話せ。大スターと暗黒面からお姫様を救い出してから、それで?」
「一緒に帰って、アパートのとこで猫が原因で彼女が転びそうになってな。助けてあげたらそのまま、キスしてきた」

 そこまで話して、オレは心底自分が嫌になる。

「お前はどう思ってんだ? リンカちゃんのこと」
「どうって……ずっと妹だと思ってたんだけどな。向こうも頼れる兄貴だと思ってるモンだと考えてた」
「まぁ、鳳殿は少々特殊ですからな」

 加賀、ヨシ君、泉の同期三人はオレの事情を知っている。新人だけで行く沖縄旅行で計らずとも発覚してしまった事なのだが。

「……兄妹でもキスくらいするよな?」
「んなわけねぇだろ」
「ですぞ」

 少しは希望のあると思った抜け道を二人は即効で通行止めにする。

「兄妹キッスは再婚相手の連れ子が法律的に行けるパターンですな」
「正直、どうしたら良いのか迷ってる。二人ならわかるだろ?」

 今回の件でリンカがオレにどんな感情を抱いているのかはどことなく察した。
 あのキスは事故ではなく、明らかに好意を持っての行動だと。

「それで、脳をフル回転させた結果がアンチスパイ○ルか」
「まぁ……」

 答えを探す為に少しでも間があれば他の機能を全部最低限にして、脳の回転に回していた。

「ちなみに答えは見つかりましたかな?」
「いや……まだ検索中」
「多分、永遠に見つかんねぇぞ」

 この件に適切な解答は存在しない。加賀の指摘はオレが頭の片隅に追いやった結論を目の前に引っ張り出した。

「ふむ。しかし、良い機会なのでは?」
「何がだい? ヨシ君」
「鳳殿は恐ろしく深い難を心に抱えておられる。今回のキッスはソレを解きほぐす良いキッカケなのでは?」

 そうなのかなぁ。オレとしては自分の事でリンカを利用したくはない。それに……

「……悪い。オレには恐くてできねぇわ」

 もし、それでも何も変わらなかったらリンカを傷つけるだけになってしまう。それだけ絶対にやるべきではない行為だ。

「じゃあ、どうすんだ?」
「一度、話してみる」
「あの事を言うのか?」

 加賀の言葉にオレは目に見えて動揺しただろう。

「それもパス。彼女には嫌われたくない」

“ここを出る? ゲンの阿呆にほだされやがって。いいかマヌケ。良く聞け、お前は――”

「うるせぇ。クソジジィ」

 獅子堂課長に誘われて田舎を出る事を告げた時にジジィから返された言葉が頭の中で再生される。

「聞いたかよ、ヨシ君。フィクサーをジジィだとよ」
「末恐ろしいですな」
「ただの猟銃振り回してる老害だぞ? あんなん」
「この法治国家で銃を撃てるだけでフツーにやべぇよ」
「ですな」
「まぁ……リンカちゃんとは一度向かい合ってみるさ」

 簡単に見つかるような答えじゃないが、こんなオレでも気にかけてくれる親友がいる事は何よりも嬉しかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2024.8.2)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※続編がスタートしました!(2025.2.8)  ※1日1話ずつ公開していく予定です。  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...