懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
60 / 701

第60話 六年帝国の滅亡

しおりを挟む
 三鷹圭太みたかけいたは反抗期真っ盛りの中学一年生である。

 両親は片親で医者の父を持つ。あまり家にいない父には放任気味に育てられ、警察の世話になる程では無いものの、それなりに素行は悪かった。
 授業をサボったり、煙草や酒に手を出したりと、毎月のように父は学校に呼ばれる。

 そんなケイタは、まだまだ世間知らずの純情少年チェリーボーイ。特に恋愛事に対しては全くと言って良い程に教養はなく、誰からも教わることはなかった。

「もしかして、ケイタ君? うわー久しぶり! 会うのは六年ぶりかな? もう中学生だっけ?」

 その日、ケイタは自分でもよく解らない感情にドキドキする。
 隣の古民家。盆休みを利用して帰ってきた一組の母娘の娘の方は昔、一緒に遊んだ事があったからだ。

「覚えてる? 凛香。鮫島凛香だよ?」

 それは、多忙な父の代わりにいつも構ってくれた姉のような隣人だった。





 盆休みの初日からあたしは母の実家に帰省する事にした。
 それは殆んど記憶にない父が居た頃に共に暮らしていた家。
 今までは母の仕事が忙がしくて帰省は見送っていたが、本当の理由はそうじゃないと、どことなく察している。

「久しぶりねぇ。三鷹さんに様子は見てもらってたけど」

 綺麗な住宅街の中で一つだけ時間が逆行したかのような古民家が、あたしの実家だ。
 母が幼少期を過ごした家は、あたしにとっての祖父母が亡くなってから母が継いだらしい。

「リンちゃん、隣の三鷹さんに鍵を貰ってくるからちょっと待っててね」
「はーい」

 祖父母の友達であった隣人の三鷹さんは信用できる筋の人間だ。なんでも、盆休みで帰って来ているらしい。

 車から降りて荷物をすぐに家に入れられる様に玄関前に運ぶ。荷物と言っても着替えや、洗面道具などの、盆休み中に世話になる道具だけを持ち込んでいる。

「うわ……草すご」

 待ってる間、玄関までの道中を見ると、石畳以外の場所は延びきった草によって地面が見えない。
 虫達による六年帝国。繁栄の歴史は相当なモノだろう。まぁ、今日には滅亡するんだけど。

「強引にでも連れてくれば良かったか」
「ケンゴ君のこと?」

 ふふ、と笑いながら背後から声を出す母に驚く。

「お母さん、機転が回らなかったわ~。これを理由にケンゴ君を連れてくれば、盆休みも一緒に居られたのにね~」
「……早く鍵開けて」

 あたしの視線に母は、きゃ! こわーい、と相変わらず楽しそうにしているのだった。





「陛下! 今すぐお逃げください!」
「一体、何があった?!」
「神々が戻られたのです! 既に民は逃亡を始めています! 帝国は終わりです!」
「馬鹿な!? ええい! 民を引き連れて新たな地へ行くぞ!」
「しかし、ここ以外に受け入れてくれる地はどこに……」
「無ければ作るのだ! 新たな理想郷は必ずある!」
「おお……この身、永劫にお仕えいたします!」
「ぬお?!」
「ああ!? 陛下! 陛下ぁー!!」

「よいしょ」

 伐採した草の間にいたバッタリンカによって草ごと、傍らにあるごみ袋に入れられた。

「うーん……」

 丸まった腰を伸ばす様に手を当てて態勢を起こす。
 庭の草を処理し初めて一時間。母は家の中を掃除し、あたしは日陰の内に中庭の処理を始めた。

「日陰でも暑いなぁ」

 アスファルトからの熱が離れていても感じられる。直射日光ほどでは無いにしろ、汗は止めどない。

「まだ三分の一か」

 中庭はそんなに広くないので、簡単に終わると思っていたが少しだけ見通しが甘かった。しかし、自分がやると言った手前、きちんと任務は遂行せねば。

「ほらほら、逃げろー」

 草を揺らして、これから刈り取ると、虫達にアピール。太陽が中庭を照り出す前には全部終わらせたい。

「――ん?」

 すると、道路から向けられる視線に気がついた。





「ケイタ、なんか今日、テンション低くね?」

 友達に誘われてゲームセンターで遊んでいた三鷹圭太は、つまらなそうに台を離れた。

「今、盆休みで、うるせぇバァさんが来てるんだよ」
「ああ、確か弁護士やってるんだっけ? お前んとこの婆さん」
「まぁな。しかも家に居ると色々とうるせぇんだよ」
「でも盆休みだけだろ? 暫く俺のとこにでも泊まるか?」
「そうすっか」

 着替えやらを取りにケイタは一旦家に帰る事にした。

 何も替わらない日々。感じるのは季節で暑いか寒いかの二つだけ。後は毎日同じだ。
 帰っても誰も居ないし、朝起きても誰も居ない。
 勉強やら運動やらで結果を出しても誰も何も言ってくれない。
 なら、やる意味なんてない。全部つまらないのだ。
 だから、真面目に学校に行く意味もない。
 金は足りないと居間にメモを残せば、親父が10万を毎回置いていてくれる。
 それを見て、真面目に勉学に励む事が馬鹿らしく感じた。

「……本当につまんねぇな」

 それはナニに対してなのか。何も考えず口から出た言葉はケイタの口癖の様なモノだった。

「うーん」

 隣の家の前を通るとき、そんな声が聞こえてふと眼をやると山が二つあった。

「――――」

 その二つの山を持つのは見たことのないボブショートの髪をした女だった。年齢的には高校生くらい。麦わら帽子に軍手と鎌を持って、放置されていた中庭の草を処理している。

 最初に眼を引いたのは二つの山だが、汗を拭いながら作業を再開する横顔に心臓が早くなった。

「――ん?」

 女と目が合う。思わずケイタは恥ずかしさから眼を背ける。

「もしかして、ケイタ君? うわー久しぶり! 会うのは六年ぶりかな? もう中学生だっけ?」

 それは、ずっと会っていなかったにも関わらず、誰なのかを解っている眼をしていた。

「覚えてる? 凛香。鮫島凛香だよ?」

 六年前に突如として引っ越した、姉のような隣人であるリンカとの再会だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件

遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。 彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。 「高校生になってもずっとお友達だよ!」 「……あ、うん」 「友達は友達だからね?」 やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。 本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...