懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第37話 愛戦士

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「とんでもない野郎なんだ」

 ナンパ達はそう言って大宮司と七海に話を持ちかけた。
 何でも女を食い物にしてる奴を見かけて、助けようとしたら怪物みたいなジイさんに邪魔されたと。
 七海は相手にする必要は無いと判断し、こいつらアホだろ、と思っているとナンパ達がその対象を指差す。

「――解った。何とかする」

 大宮司の返事にナンパ達は笑みを浮かべて去っていく。

「どうした、亮。どう考えてもあいつらの自作自演だろ」

 どうせナンパを失敗しての腹いせとかなんだろ、と七海は理解していた。

「後輩だ」
「なに?」

 七海も大宮司の視線に合わせると、その先には海でキョロキョロと水着を探す美少女と、それを奪い取ったように掲げる男の姿。

「鮫島はどこか自暴自棄な感じだった」
「ほー、鮫島って言うのか。あの娘」

 地味に見えつつも、よく見ればかなりの美少女じゃん。胸もデケーし。男受け良さそうだな。

「ノリ、協力してくれ」
「あいよ」

 なるほどねぇ。不器用で寡黙な親友も恋する男だったか。

 七海は間違っていたときのブレーキ役として、大宮司のサポートをする事にした。

 面白そうだし♪





「テメェ……何しやがる!?」
「それはこっちのセリフだよ性獣ども」

 ナンパ達は突如として現れた七海へ向き直る。

「念のため、こっちの様子を見に来て良かったぜ」
「はぁ?! 亮君の腰巾着が! 調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 すると、七海は自分の口に人足し指を当てて、シー、と言う。

「小さい子が起きる。騒音は無しでお願いします」
「キザってんじゃねぇ――」

 と、大声を出そうとした一人を七海は一撃入れて黙らせた。

「起きるって言てんだろ」

 そこで七海は背に向けられるリンカの視線に気づく。不安にさせない様に後ろ目で、

「いやー、ごめんね。全部黙らせるから」

 決まったな、と満足する七海。当のリンカは、なんだコイツ? と言う眼を向けただけだった。

「ふざっ――」

 ボディブロー。

「テメェ――」

 顎を肘打ち。

「この――」

 顔面へ蹴り。

「助け――」

 チョーク。

「やれやれ。口はよく回る奴らだ」

 掃除でも終わった様に七海はナンパ達を文字通り黙らせた。
 その様を見ていたリンカの視線に七海はイケメンスマイルで応じる。

「えっと……助けてくれて、ありがとうございます」
「いやー、こっちこそごめんね。後処理は俺がやっとくからさ。君達は移動した方が良いよ」
「は、はぁ……そうします」

 七海としては颯爽と女の子を助けた俺カッコいい、と自分に酔っていたが、その顔についた返り血などを見てリンカは、ちょっと引いていた。

「じぃ……?」

 と、その騒ぎでルリが目を覚ます。彼女の目に映ったのは知らない男たちが浮き声を上げて倒れている現場である。

「ふぇ……」

 意味が解らなくて恐くなり、リンカにしがみつき、泣き出――

「あぁっと! ちょっと待った!」

 七海が慌てて静止する。ここで泣かれては面目が立たないと思ったのだろう。
 その様にルリの涙はピタッと止まった。

「もう大丈夫だから。お姉ちゃんと一緒に行って」

 と、目線を合わせて出来る限りの優しい表情で語りかける。
 その悪意のゼロの笑顔にはルリは安心しただろう。顔に返り血がついていなければ。

「じぃぃぃぃ! ふぇぇぇぇ!」

 ルリが泣き出した瞬間、窓に手がかかった。

「ルリ」

 その声にルリは泣き止む。
 そして窓から、ぬう、と獅子堂が這い上がって来た。ちなみにここは二階であるが高さ的には三階程の位置である。
 外から、獅子堂さーん。階段を使いましょー、とセナの声。

「もう大丈夫だぞ」

 窓から狭そうに室内に入る。少しだけ枠が歪みガラスにヒビが入ったが、とにかく室内に入り込む。

「じぃ!」

 獅子堂は駆け寄ってくる孫を片膝で抱き締めると、休憩室を一瞥する。
 倒れたナンパ達。
 返り血に佇む七海。
 ここって相当高かったよなぁ、と窓から外を見るリンカ。5メートル程下にいるセナと目が合い、手を振り合う。

「お前がやったのか?」
「え? ま、まぁ……」

 休憩室の状況からして色々と正当な流れはあるが、結果だけ見れば七海がやった事になるのだろう。

「じぃ……」
「ルリ。ちょっと待ってろ」

 家族の不安は全て廃する。それが獅子堂の存在意義であり、その為の肉体であるのだ。

「うお!?」

 七海も背は高い部類であるが、獅子堂は正に小山だ。窓からの夕焼けが完全に隠れている。

「とりあえず、お前には消えてもらう」

 ビリビリと肌を撫でる獅子堂の圧力に、七海は萎縮するどころか笑みが浮かんでいた。
 こんなヤツが近くに居たのか! と。





「……お前」
「面倒なタイプだな、君は」

 殴られたオレは少しだけ口の中を切った。しかし、それ以外はダメージはない。

「……」

 青年は追撃をしてこなかった。オレは少しだけ距離を開けつつ、どうしたもんか、と思考を巡らせる。

「殴った感覚じゃない」
「そうか? オレとしては普通に痛いけどな」

 あー、くそ。口内炎になるなコレ。チョコラBBを買って帰るか。

「箱を殴った様に手応えがない」
「箱を殴った事あんのかい」

 中々出来ない経験をしてるな、青年。

「必要であれば色んなモノを殴る。特に……彼女を傷つけるなヤツはな」

 青年が再び拳を握る。力の入った腕は岩をも砕きそうだ。実際には無理だろうけど。

「若いねぇ。だが、愛を向ける先を間違ってるぜ」
「……なに?」

 少し話をして青年の事が解った。コイツは一つの事を心の芯に置いて行動する不器用タイプだ。
 こう言う相手には舌戦が効く。

「その拳は何でも解決出来るだろう。だが、それで君の問題は解決するのか?」
「する。余計な世話だ」
「君自身の事だ。拳を振るう為に護る“彼女”とやらは今の君に納得しているのか?」
「…………」

 すると青年は少し考え込む。何とかなったかな? と思っていると青年は決意した様に再度拳を握った。

「俺はあの時、護ると誓った。例え周囲に間違っていると言われてもだ」

 マジか。今時こんな硬派ヤツいんの? 絶滅危惧種レベルじゃん。

「……君が捕まると“彼女”が悲しむとか考えないのか?」
「俺が犠牲になるならそれで良い」

 こっちは良くねぇ! しかし、あの眼は決意した眼だ! もうっ! 若いヤツは変なところにエネルギー使いやがって! 受け止める社会人の事を考えろよな! この愛戦士が!

「あら~青春してるわね~」

 オレも何となく構えていると、そこへ第三者が介入。
 青年の背後からニコニコしたセナさんが歩いて来ていた。

※この小説はバトル小説ではありません
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