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第26話 キラービー
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「いいわぁ! いい! もう、最高よん!」
夏を彩ったコーディネートに身を包むリンカに向けられたシャッターが切られる度に西城さんはポーズを変えて悶える。
彼女(彼)なりの称賛の動きなのだろう。周りのスタッフの方々は慣れているのか、黙々と作業をこなす。
「こ、これがプロの世界か」
「なんのだよ」
フィルムとレンズの調整の為に一時撮影が止まると、被写体のリンカが突っ込みを入れて来た。
「いや、西城さん。キャラ濃すぎでしょ」
オネエで、あの動きはヤバい。場所が場所なら薬の服用を疑われるレベルだ。
大自然の中で開放的になっているのだろうか……マイナスイオン怖ぇ。
「西城さんは前からああだぞ」
「マジで?」
どうやら標準だったらしい。一回、尿検査した方が良いんじゃない?
「それで……」
「ん?」
「……似合ってるか?」
リンカは少し恥ずかしそうに衣装を見せてくる。
夏でも涼しげな印象を受ける衣装は前にセナさん見せてもらった写真集の様に彼女にマッチしている。
薄着だと強調される胸もコーディネートのおかげでバランスが取れてそちらに目を惹かれる事はない。
「……」
「……何か言えよ」
「言うことがないくらい完璧です」
「……あっそ」
本当にコメントは無い。それくらい、リンカの魅力を引き出している。
「リンカちゃーん。再開しましょー」
「はい」
じゃあな、とリンカは再びカメラの前へ。その時、物騒な羽音――
「うわ!?」
「蜂だ!」
一匹の雀蜂が現場に乱入した。大自然の洗礼である。
そいつは、より煌びやかな衣装を着るリンカに向かって針を――
「――――」
突き立てる寸前でオレはリンカを抱き寄せると雀蜂を彼女の眼前で握り込んだ。
「あ……」
リンカは心配そうにオレを見る。
「おい! 大丈夫か?!」
「今、握ったよな!?」
スタッフの人たちが慌てて駆け寄って来る。オレは何でもない様子で笑って、
「まだ、来るかも知れませんから一旦コテージに入りませんか?」
「あ、ああ。君は大丈夫か?」
「運良く針は刺さらなかったみたいです。ほら、早くしましょう」
「皆ぁん! 一時撤収よん!」
西城さんの新たなキメポーズと指示に全員が機材を置いてコテージへ避難した。
「大丈夫そうだ」
オレは山育ちと言うステータスを武器に、皆がコテージに入ったのを確認すると、近くに雀蜂の巣が無いか確認して回った。
どうやらはぐれた一匹だったようだ。
「巣をつついた訳じゃないな。シャッターの光に気を取られてこっちに来たのか」
雀蜂騒ぎを聞いて、コテージの反対側で撮影していたヒカリちゃんも一時避難。オレは冷凍スプレーを主力武器として持ってきたが使う事はなかった。
「……あっちゃ~。久しぶりだったからかな」
オレは雀蜂を握り潰した手を見ると早速腫れていた。しかし、比較的に腫れが少ないのはオレの体質らしいが、その内あんぱんになるだろう。
「おい」
すると、居るはずの無いリンカの声にオレは驚く。
「え? リンカちゃん。なんでここに?」
「帰って来るのが遅いからだ。ばか」
何かあったと思われてしまったか。もう戻らなくては。
「……やっぱり」
と、リンカはオレの蜂に刺された手を見て呟く。
「見せろ」
「いや、大丈夫だって」
「見せろ」
「ほら、手も問題なく動くし! 大袈裟――」
「いいから見せろ」
近づきながら大きくなるリンカの圧に負け、はい……、とオレは刺された掌を差し出した。
「刺されてるじゃん……」
「お恥ずかしながら……」
「……ほんとに……ばかだ。お前……」
オレの手を守るようにリンカは自分の手を添える。
「手当てに戻るぞ」
そう言ってリンカは腫れ始めたオレの手を引いた。
一通り待ってから撮影は再開した。
オレは刺された手を消毒し包帯を巻かれ、安静に、と座るように言われていた。
もし動いたら西城さんが抱きついてでも止めるそうなので、オレは石像のように動きを停止している。
「大丈夫かい?」
「はい。まぁ、慣れたもんですよ」
哲章さんは雀蜂事件を聞いて、巣を殲滅出来そうな程に大量の殺虫スプレーを調達してきた。今、目の前のテーブルは殺虫スプレーで埋め尽くされている。
「山育ちなので、ある程度の危険はないと解ってました」
結果として大事になった者はいない。オレの手が鍋掴みの様に腫れる以外は。
「もし、先程の状況がリンカ君以外の者であった時、君は同じ行動を取ったかい?」
「? 当然です」
当たり前のように言いきるが、西城さんだとちょっと悩むかも。
「そうか。ふむ、なるほど」
と、哲章さんは何か納得する様に考え込んでしまった。
オレは頭に疑問視を浮かべていたが、哲章さんはヒカリちゃんに呼ばれて席を離れて行った。
夏を彩ったコーディネートに身を包むリンカに向けられたシャッターが切られる度に西城さんはポーズを変えて悶える。
彼女(彼)なりの称賛の動きなのだろう。周りのスタッフの方々は慣れているのか、黙々と作業をこなす。
「こ、これがプロの世界か」
「なんのだよ」
フィルムとレンズの調整の為に一時撮影が止まると、被写体のリンカが突っ込みを入れて来た。
「いや、西城さん。キャラ濃すぎでしょ」
オネエで、あの動きはヤバい。場所が場所なら薬の服用を疑われるレベルだ。
大自然の中で開放的になっているのだろうか……マイナスイオン怖ぇ。
「西城さんは前からああだぞ」
「マジで?」
どうやら標準だったらしい。一回、尿検査した方が良いんじゃない?
「それで……」
「ん?」
「……似合ってるか?」
リンカは少し恥ずかしそうに衣装を見せてくる。
夏でも涼しげな印象を受ける衣装は前にセナさん見せてもらった写真集の様に彼女にマッチしている。
薄着だと強調される胸もコーディネートのおかげでバランスが取れてそちらに目を惹かれる事はない。
「……」
「……何か言えよ」
「言うことがないくらい完璧です」
「……あっそ」
本当にコメントは無い。それくらい、リンカの魅力を引き出している。
「リンカちゃーん。再開しましょー」
「はい」
じゃあな、とリンカは再びカメラの前へ。その時、物騒な羽音――
「うわ!?」
「蜂だ!」
一匹の雀蜂が現場に乱入した。大自然の洗礼である。
そいつは、より煌びやかな衣装を着るリンカに向かって針を――
「――――」
突き立てる寸前でオレはリンカを抱き寄せると雀蜂を彼女の眼前で握り込んだ。
「あ……」
リンカは心配そうにオレを見る。
「おい! 大丈夫か?!」
「今、握ったよな!?」
スタッフの人たちが慌てて駆け寄って来る。オレは何でもない様子で笑って、
「まだ、来るかも知れませんから一旦コテージに入りませんか?」
「あ、ああ。君は大丈夫か?」
「運良く針は刺さらなかったみたいです。ほら、早くしましょう」
「皆ぁん! 一時撤収よん!」
西城さんの新たなキメポーズと指示に全員が機材を置いてコテージへ避難した。
「大丈夫そうだ」
オレは山育ちと言うステータスを武器に、皆がコテージに入ったのを確認すると、近くに雀蜂の巣が無いか確認して回った。
どうやらはぐれた一匹だったようだ。
「巣をつついた訳じゃないな。シャッターの光に気を取られてこっちに来たのか」
雀蜂騒ぎを聞いて、コテージの反対側で撮影していたヒカリちゃんも一時避難。オレは冷凍スプレーを主力武器として持ってきたが使う事はなかった。
「……あっちゃ~。久しぶりだったからかな」
オレは雀蜂を握り潰した手を見ると早速腫れていた。しかし、比較的に腫れが少ないのはオレの体質らしいが、その内あんぱんになるだろう。
「おい」
すると、居るはずの無いリンカの声にオレは驚く。
「え? リンカちゃん。なんでここに?」
「帰って来るのが遅いからだ。ばか」
何かあったと思われてしまったか。もう戻らなくては。
「……やっぱり」
と、リンカはオレの蜂に刺された手を見て呟く。
「見せろ」
「いや、大丈夫だって」
「見せろ」
「ほら、手も問題なく動くし! 大袈裟――」
「いいから見せろ」
近づきながら大きくなるリンカの圧に負け、はい……、とオレは刺された掌を差し出した。
「刺されてるじゃん……」
「お恥ずかしながら……」
「……ほんとに……ばかだ。お前……」
オレの手を守るようにリンカは自分の手を添える。
「手当てに戻るぞ」
そう言ってリンカは腫れ始めたオレの手を引いた。
一通り待ってから撮影は再開した。
オレは刺された手を消毒し包帯を巻かれ、安静に、と座るように言われていた。
もし動いたら西城さんが抱きついてでも止めるそうなので、オレは石像のように動きを停止している。
「大丈夫かい?」
「はい。まぁ、慣れたもんですよ」
哲章さんは雀蜂事件を聞いて、巣を殲滅出来そうな程に大量の殺虫スプレーを調達してきた。今、目の前のテーブルは殺虫スプレーで埋め尽くされている。
「山育ちなので、ある程度の危険はないと解ってました」
結果として大事になった者はいない。オレの手が鍋掴みの様に腫れる以外は。
「もし、先程の状況がリンカ君以外の者であった時、君は同じ行動を取ったかい?」
「? 当然です」
当たり前のように言いきるが、西城さんだとちょっと悩むかも。
「そうか。ふむ、なるほど」
と、哲章さんは何か納得する様に考え込んでしまった。
オレは頭に疑問視を浮かべていたが、哲章さんはヒカリちゃんに呼ばれて席を離れて行った。
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