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第22話 女子! 高校生……だと……?

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 初夏。学生達は明日からの夏休みに心踊る1日だろう。
 しかし、オレたち社会人にとっては平日と変わり無いのだ。

「これ、残りのパターンね。全部調べて、チェックを忘れずに。条件をミスると1から調べ直しになるから」

 泉が席に着いたオレの横に、ドン、と山盛りのチェックリストを置く。
 わぁ、オレの目線と同じくらいの高さだぁ。一枚の紙の厚みってどれくらいだったっけー?

「他の条件と重なるチェックも出てくるからその時は他の人と連携して」

 作業場では13人が席に着き、麻薬の密輸工場みたいにパターンチェックを進めている。
 会社からの派遣はオレと泉と鬼灯先輩を含めて五人ほど。他は全部派遣先の社員だ。

「後、これ全部終わったらあっちの台に残りがあるから」

 泉は親指で、ぴっ、と少しはなれた所にあるチェックリストの山脈を指差す。

「最初は不慣れだと思うけど、すぐに慣れる・・・わ」

 ようこそ地獄へ、と泉はオレの肩にぽん、と手を置くと自分の席へ戻って行った。

「……やるか」

 リンカをがっかりさせたくはない。





「よ、ちょっといいか?」

 黙々と作業をしていると、少し離れた席から同年代くらいの男がチェックリストを片手に話しかけてきた。

「はい。えっと、佐藤さん」

 オレは彼の首から下がるネームプレートから名前を把握する。

「俺の条件にそっちのが含まれてんだ。合わせようぜ」
「はい」

 慣れてきたオレはスムーズに事を終える。

「これも正常か……」
「どっかで当たればその時点で終りですよね?」
「藁の中から針を見つけるようなもんだ。それより、鳳、そっちは何年目だ?」

 彼もオレのネームプレートから名前を読み取る。

「六年目です」
「ほんとか? じゃあタメじゃん。敬語はいいよ。て言うか、この場の奴ら皆同じくらいだぞ」
「本当っすか」

 そう言われてオレは少し気が楽になった。

「只でさえ息が詰まるからな。会話くらい気楽に行こうぜ」
「それは助かる」

 少しだけ一体感が生まれた。正直、先輩か後輩かわからない相手への敬語は意外と気を使う。

「それにしても泉さんはすげーよな。今回の件、彼女しか気づかなかったんだよ」
「そうなのか?」

 佐藤曰く、一度は問題なく全て終り、工程よりも相当早く仕上がったと皆喜んだ。
 しかし、泉が気になると言って一人で残って調べた所、問題が発覚したらしい。

「ウチは大きな仕事ではそっちの派遣を必ず含むらしいが、その理由が解ったよ」

 知らぬ顔をすれば……いや、泉の性格からそれは無いか。昔から手を抜く事を何よりも嫌うヤツだったな。
 それが、1課の七海課長の目に止まったのだろう。

「それに比べて、あの鬼灯さんだっけ。あの人はどこで何やってんだ?」

 皆が地味に調べる中、鬼灯先輩だけはこの場に居なかった。

「鬼灯先輩は、今回の件を一から調べてる」
「んなことして意味あるのかよ」
「正直なところ、オレにも予測はつかないが。今のままだと絶対に間に合わないだろ?」

 今回の件を正攻法で走りきるのはかなり厳しい。
 鬼灯先輩はそれをいち速く察し、別方面からのアプローチをしているのだろう。

「専門じゃなくてもオレや泉よりは数段凄い人だ。期待はしていいぜ」
「納期が延びたり、人を増やす交渉してくれてるとこっちとしては有難いがな」

 少し話した所で佐藤は、またよろしく、と席に戻りオレも作業を再開する。





 その後も、とにかくチェックリストを減らす事に全力を注ぐも、問題点は見つからず、作業は深夜まで及んだ。

「……これも駄目」

 目頭を押さえて疲労を軽減する。今朝に机に置かれたチェックリストは半分しか減っていない。山脈に関しては全く踏破されていない。
 くそ、何で紙はこんなに薄いんだ?!

「見つけたぁ?」
「おわ?!」

 背後から幽霊のように泉が話しかけてくる。
 普段ならオレに対しては鼻を鳴らして素通りするヤツなのだが、相当参っているようだ。

「ビビるから止めろよ」
「別にあんたには期待してないけど、ビギナーズラックってのもあるからね」

 そんなモンに頼りたいほど追い詰められているらしい。だが、しれっとディスるの止めろ。

「それよりも詩織先輩は? 先輩はドコ……?」
「今朝、調べものがあるから今日は寄れないって言ってたぞ」

 そう言うと、泉はじとっ、と睨んでくる。

「そう言うのは先に言いなさいよ!」
「うっせ」

 鬼灯先輩から泉のやる気を落としてしまうからと言う理由で聞かれない限りは黙って置くように釘を刺されたのだ。

「はぁ……ちょっと仮眠してくるわ」
「おいおい。お前は何日ここに居んだ?」
「うっさいわね。お風呂とかは入りに帰ってるわよ」

 生活の中心が今の仕事になってるらしい。エラーを見つけた手前、しっかりと動かなきゃと思っているようだ。

「あんたも一回、帰んなさい。そんで、お風呂とかご飯とか済ませたら戻りなさいよ」
「えげつねぇな」

 こういう事の経験が無いわけではないが……あまり遭遇したくはない事例だ。

「――っと」

 ふと、スマホを見るとリンカとのLINEにメッセージが入っていた。

“女か?”

 と、遅くなっている事に関しての心配事なのだろうが、見当違いに笑ってしまった。

“いや仕事。当分遅くなると思う”

 リンカからのLINEは夕方の時間で、今は日付が変わるかどうかの時刻。流石に寝てるだろうと思っていると、

“休みは無理か?”

 意外にも帰ってきた。それもメッセージを送ってから早い。

“いや、それは大丈夫”
“本当か?”
“本当”
“無理すんなよ”

 オレは最後に、ありがとう、と打つと、

「何だ? 鳳、女か?」

 佐藤が話しかけてきた。この絶望空間において、こんな時間にスマホを笑顔でポチポチするのは軽率だったか。

「知り合いのこ……」
「その漢字は子供の“子”か? それとも“むすめ”か?」

 やべぇ、佐藤は精神がイカれ始めてる。すると、鳳ィ、とチェックの課程で話すようになった面々がゆらりと寄ってくる。

「いやいや、気にすることじゃないって! 仕事! 仕事しなきゃなー!」
「息抜きだ。少し話そうぜ、鳳くぅん」

 オレは咄嗟にスマホをスリープモードに。これで暗証を打たなければLINEの画面は開かない。

「おお、消しやがったぞ! 鳳ィ! 相手は誰だ!?」

 刑事が凶悪犯を取調室で囲んで尋問するかのように野郎どもがオレの机に集まり出す。

「だから知り合いだって! プライベートだぞ! プライベート!」
「やかましいわ! スマホのロックを解除しろ!」
「うおお! 断る!」
「逃げられると思うなよ!」
「女の子よ」

 と、仮眠の為に作業場から出よう横切る泉の言葉に野郎どもが反応する。

「今年で高校生よね?」

 頼むから黙っててくれ! と声に出したくても、出せばコイツらはどんな凶行に及ぶのか分からない。

 ドドドと、ジョ○ョみたいな効果音が流れそうな表情をしたヤツらは泉に聞き返す。

「女子! 高校生……だと……?」
「そーよ。ちなみにコレ、小学の頃の写真」

 泉は自分のスマホをいじると写真を見せる。
 それは3課に居た加賀と泉が他の課に行く際の送別会BBQの写真だ。
 セナさんが出張の時でオレがリンカの面倒を見ていた為、一緒に連れて行ったのである。
 他の人には馴れなくて、オレの膝の上に乗って食事をした時を撮られたものだった。

 何ぃ!? 泉ぃ! お前、なんでまだソレ持ってんだ!?

「あんたが無理矢理に手を出したときに逮捕の材料にしようと思って」
「手を、出す、だと……」
「無理矢理ぃ!?」

 ゴゴゴゴ……と、野郎どもがオレを見る。中には血の涙を流してる奴もいる。完全に逃げ道は無い。て言うか最初から囲まれてるのだ。
 オレは、ばっ、と手を上げて、

「発言の許可を!」
「却下!」

 吊るせー! 柱にくくりつけろ! 逆さだ逆さ! と妬みの極みに達したヤロー共による理不尽な制裁が始まった。

「終わったら全員作業に戻りなさいよ」

 と、泉は欠伸を手の平で押さえながら去って行く。
 泉テメー! 覚えてろよぉ!

「皆、まだ元気そうね」
「あ、詩織先輩」

 と、荷物を持って戻って来た鬼灯先輩に泉が反応する。
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