懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

文字の大きさ
上 下
21 / 701

第21話 寺生まれのT先生からの宿題

しおりを挟む
 午前中に授業と雑務があり、昼からの終業式を終えて一時間の成績表の手渡しが終るとその時点から夏休みである。

「全員、成績表は受け取ったな。隠したり燃やしたり食べたりするんじゃないぞ。いくらでも印刷できるからなー」

 クラスの担任――箕輪鏡子みのわきょうこは成績表を見て、絶望したり、見せ合って雑談してる生徒たちを特に諌めること無く続ける。

「ちゃんと親に見せて、怒られたり誉められろ。その成績を生んだのはお前らだからな。テストみたいに隠せないぞー」

 中学の頃よりも行動範囲が広がる高校生。特に一年の前半は新たな世界に多くの少年達が青年へと変わる時期でもある。

「最初に怒られれば後は好き放題夏休みを堪能しろ。酒、たばこ、放火、ナンパ、海、山、空、旅、海外、旅行。やれることは無限にある。ただし、先生を呼ぶ事態にはなるなよー。そんな奴は二学期の数学は問答無用で1にするからなー」

 やれる事の中に変なのが混ざっていたが、しれっと担任は続けた。

「バレなきゃならなんでもやれ。思い出かトラウマになるくらいな。後、ヤる事はやっても良いが避妊はしろよ、お前ら」

 先生、ヤらせてください! と言う既に夏休みのテンションになってる男子が冗談混じりに言うと、ウチの弁護士の旦那に会わせてやろうか? と言う返しに男子は、お前スタートダッシュ決め過ぎだろ、と大笑いし女子は、サイテー、と声を上げた。

「まぁ、なんだ。人生で一度きりだ。外が苦手な奴も、少し勇気を出していつもと違うことをしてみろ。社会人になったら夏休みなんて無ぇからな」

 そして、担任は一度両手を叩く。

「よし、これで夏休みだ。委員長、号令!」

 チャイムがなるまで少し早いが、一学期は終業となった。





 リンカとヒカリは図書館で宿題の読書感想文用の本を見繕っていた。

「今時、読書感想文って……リンはどう思う?」
「写経よりは楽でいいじゃん」

 国語担当の寺生まれのT先生は写経を夏休みの宿題にするつもりだったようだが、クラス全員からの大反発に読書感想文へと変わったのだった。
 ちなみに毎年全学年から同じ苦情が出る。

「それとも写経がしたかった?」
「あれって拷問よね。見てるだけで窮屈な気分になるわ」

 T先生の授業で赤点を取った生徒は、回避の代わりに写経を言い渡される。
 ちなみに素行が悪かったり、反省室に入れられる生徒に対する罰としても使われているとか。
 反省文書かせてください! と懇願されるレベルでキツイと聞いた。

「素行の悪い生徒は夏休みに何人かT先生の実家に連行されるようだし。真人間になるでしょ、あれ」

 写経一つとっても欲の多い高校生には拷問である。それに近い事を四六時中やらされる寺暮らしは心の欲を全部洗い流されるのだろう。

「リンも~ケン兄とあんまりハメ外したらT先生の実家送りになるかもよ~」
「……その前にあっちが逮捕されるかも」

 何にせよ、ケンゴの会社はそう言う事に特に目を光らせている。

「箕輪さんだっけ? パパが言うには弁護士界隈でも相当なやり手らしいよ」
「そうなんだ?」

 逆に犯罪を犯しそうな見た目だと、一瞬失礼な事を考えてしまった。
 と、少し高い棚の本を取ろうと手を伸ばす。微妙に取れるか取れないかの高さに苦戦してると、

「こいつか?」

 横からソレを取る手が現れた。

「――大宮司先輩」

 それは体格の良い三年の男子生徒だった。
 大宮司亮だいぐうじりょう。高校生にしては殺伐とした雰囲気を纏い、少し痛んでいる制服が目を引く。

「鮫島……髪、切ったんだな」
「は、はい。本……ありがとうございます」
「リン、リン! ほら行くよ!」

 ヒカリが逃げるように手を引く。失礼な様だが、大宮司に関してだけは例外中の例外なのだ。

「あ、先輩。ありがとうございます」

 それでも最低限のお礼を言ってリンカは引っ張られていく。
 その去っていく彼女を見て大宮司は、

「……タイミングが悪かったか」

 と、後頭部を掻き、読書感想文用の本を見繕う。





「びっくりしたー。急に来るよね」

 図書館を出て教室に戻りながらヒカリは大宮司との遭遇を思い返す。

「先輩、謹慎明けたんだ」
「みたいね。丁度良く夏休みで良かったじゃない。T先生の寺行きよ、多分」

 大宮司は2ヶ月ほど前に、警察沙汰になる事件を犯して今まで謹慎していたのだ。
 それは、チンピラ10人、暴走族の1グループ、暴力団の一部を病院送りにする程の暴力。当然、学校で話題になった。

 それまでは寡黙ながらも礼儀正しいと評判だっただけに、何故? と言う声が多かった。しかし当人は、これが俺です、と特に言い訳をすること無く謹慎を受け入れたのだった。

「とにかく、T先生の実家で心も体も坊主にして貰わないと、安心して学校生活が送れないわ」
「……ヒカリ」
「なに?」

 リンカは大宮司に口止めされていたが、親友にだけは真実を教えることにした。

「それでも、暴力は暴力でしょ。他に方法もあったハズよ」

 一通りの話を聞いてもヒカリの大宮司に対する評価は変わらなかった。

「リンの事はわたしのパパに頼っても良かったし、まぁ運が悪いと言うか……不器用な男の末路ね」
「……あたし達が特殊なのかも」

 幼少期をケンゴと言う支柱を中心に成長した自分たちに、大宮司の心境は理解しきれないのだと悟った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件

遥 かずら
恋愛
両親が仕事で家を空けることが多かった高校生、栗城幸多は実質一人暮らし状態。そんな幸多のお隣さんには中学が一緒だった笹倉秋稲が住んでいる。 彼女は幸多が中学時代に告白した時、爽やかな笑顔を見せながら「ずっと友達ならいいですよ」とズッ友宣言をしてきた快活系女子だった。他にも彼女に告白した男子も数知れずいたもののやはり友達止まり。そんな笹倉秋稲に告白した男子たちの間には、フラれたうちに入らない無傷の戦友として友情が芽生えたとかなんとか。あくまで友達扱いをしていた彼女は、男女関係なく分け隔てない優しさがあったので人気は不動のものだった。 「高校生になってもずっとお友達だよ!」 「……あ、うん」 「友達は友達だからね?」 やんわりとお断りされたけどお友達な関係、しかもお隣同士な二人の不思議な関係。 本音がつかめない女子、笹倉秋稲と栗城幸多の関係はとてもゆっくりとした時間の中から徐々に本当の気持ちを運ぶようになる――

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

向日葵と隣同士で咲き誇る。~ツンツンしているクラスメイトの美少女が、可愛い笑顔を僕に見せてくれることが段々と多くなっていく件~

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の加瀬桔梗のクラスには、宝来向日葵という女子生徒がいる。向日葵は男子生徒中心に人気が高く、学校一の美少女と言われることも。  しかし、桔梗はなぜか向日葵に1年生の秋頃から何度も舌打ちされたり、睨まれたりしていた。それでも、桔梗は自分のように花の名前である向日葵にちょっと興味を抱いていた。  ゴールデンウィーク目前のある日。桔梗はバイト中に男達にしつこく絡まれている向日葵を助ける。このことをきっかけに、桔梗は向日葵との関わりが増え、彼女との距離が少しずつ縮まっていく。そんな中で、向日葵は桔梗に可愛らしい笑顔を段々と見せていくように。  桔梗と向日葵。花の名を持つ男女2人が織りなす、温もりと甘味が少しずつ増してゆく学園ラブコメディ!  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしています。

私の推し(兄)が私のパンツを盗んでました!?

ミクリ21
恋愛
お兄ちゃん! それ私のパンツだから!?

処理中です...