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第21話 寺生まれのT先生からの宿題
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午前中に授業と雑務があり、昼からの終業式を終えて一時間の成績表の手渡しが終るとその時点から夏休みである。
「全員、成績表は受け取ったな。隠したり燃やしたり食べたりするんじゃないぞ。いくらでも印刷できるからなー」
クラスの担任――箕輪鏡子は成績表を見て、絶望したり、見せ合って雑談してる生徒たちを特に諌めること無く続ける。
「ちゃんと親に見せて、怒られたり誉められろ。その成績を生んだのはお前らだからな。テストみたいに隠せないぞー」
中学の頃よりも行動範囲が広がる高校生。特に一年の前半は新たな世界に多くの少年達が青年へと変わる時期でもある。
「最初に怒られれば後は好き放題夏休みを堪能しろ。酒、たばこ、放火、ナンパ、海、山、空、旅、海外、旅行。やれることは無限にある。ただし、先生を呼ぶ事態にはなるなよー。そんな奴は二学期の数学は問答無用で1にするからなー」
やれる事の中に変なのが混ざっていたが、しれっと担任は続けた。
「バレなきゃならなんでもやれ。思い出かトラウマになるくらいな。後、ヤる事はやっても良いが避妊はしろよ、お前ら」
先生、ヤらせてください! と言う既に夏休みのテンションになってる男子が冗談混じりに言うと、ウチの弁護士の旦那に会わせてやろうか? と言う返しに男子は、お前スタートダッシュ決め過ぎだろ、と大笑いし女子は、サイテー、と声を上げた。
「まぁ、なんだ。人生で一度きりだ。外が苦手な奴も、少し勇気を出していつもと違うことをしてみろ。社会人になったら夏休みなんて無ぇからな」
そして、担任は一度両手を叩く。
「よし、これで夏休みだ。委員長、号令!」
チャイムがなるまで少し早いが、一学期は終業となった。
リンカとヒカリは図書館で宿題の読書感想文用の本を見繕っていた。
「今時、読書感想文って……リンはどう思う?」
「写経よりは楽でいいじゃん」
国語担当の寺生まれのT先生は写経を夏休みの宿題にするつもりだったようだが、クラス全員からの大反発に読書感想文へと変わったのだった。
ちなみに毎年全学年から同じ苦情が出る。
「それとも写経がしたかった?」
「あれって拷問よね。見てるだけで窮屈な気分になるわ」
T先生の授業で赤点を取った生徒は、回避の代わりに写経を言い渡される。
ちなみに素行が悪かったり、反省室に入れられる生徒に対する罰としても使われているとか。
反省文書かせてください! と懇願されるレベルでキツイと聞いた。
「素行の悪い生徒は夏休みに何人かT先生の実家に連行されるようだし。真人間になるでしょ、あれ」
写経一つとっても欲の多い高校生には拷問である。それに近い事を四六時中やらされる寺暮らしは心の欲を全部洗い流されるのだろう。
「リンも~ケン兄とあんまりハメ外したらT先生の実家送りになるかもよ~」
「……その前にあっちが逮捕されるかも」
何にせよ、ケンゴの会社はそう言う事に特に目を光らせている。
「箕輪さんだっけ? パパが言うには弁護士界隈でも相当なやり手らしいよ」
「そうなんだ?」
逆に犯罪を犯しそうな見た目だと、一瞬失礼な事を考えてしまった。
と、少し高い棚の本を取ろうと手を伸ばす。微妙に取れるか取れないかの高さに苦戦してると、
「こいつか?」
横からソレを取る手が現れた。
「――大宮司先輩」
それは体格の良い三年の男子生徒だった。
大宮司亮。高校生にしては殺伐とした雰囲気を纏い、少し痛んでいる制服が目を引く。
「鮫島……髪、切ったんだな」
「は、はい。本……ありがとうございます」
「リン、リン! ほら行くよ!」
ヒカリが逃げるように手を引く。失礼な様だが、大宮司に関してだけは例外中の例外なのだ。
「あ、先輩。ありがとうございます」
それでも最低限のお礼を言ってリンカは引っ張られていく。
その去っていく彼女を見て大宮司は、
「……タイミングが悪かったか」
と、後頭部を掻き、読書感想文用の本を見繕う。
「びっくりしたー。急に来るよね」
図書館を出て教室に戻りながらヒカリは大宮司との遭遇を思い返す。
「先輩、謹慎明けたんだ」
「みたいね。丁度良く夏休みで良かったじゃない。T先生の寺行きよ、多分」
大宮司は2ヶ月ほど前に、警察沙汰になる事件を犯して今まで謹慎していたのだ。
それは、チンピラ10人、暴走族の1グループ、暴力団の一部を病院送りにする程の暴力。当然、学校で話題になった。
それまでは寡黙ながらも礼儀正しいと評判だっただけに、何故? と言う声が多かった。しかし当人は、これが俺です、と特に言い訳をすること無く謹慎を受け入れたのだった。
「とにかく、T先生の実家で心も体も坊主にして貰わないと、安心して学校生活が送れないわ」
「……ヒカリ」
「なに?」
リンカは大宮司に口止めされていたが、親友にだけは真実を教えることにした。
「それでも、暴力は暴力でしょ。他に方法もあったハズよ」
一通りの話を聞いてもヒカリの大宮司に対する評価は変わらなかった。
「リンの事はわたしのパパに頼っても良かったし、まぁ運が悪いと言うか……不器用な男の末路ね」
「……あたし達が特殊なのかも」
幼少期をケンゴと言う支柱を中心に成長した自分たちに、大宮司の心境は理解しきれないのだと悟った。
「全員、成績表は受け取ったな。隠したり燃やしたり食べたりするんじゃないぞ。いくらでも印刷できるからなー」
クラスの担任――箕輪鏡子は成績表を見て、絶望したり、見せ合って雑談してる生徒たちを特に諌めること無く続ける。
「ちゃんと親に見せて、怒られたり誉められろ。その成績を生んだのはお前らだからな。テストみたいに隠せないぞー」
中学の頃よりも行動範囲が広がる高校生。特に一年の前半は新たな世界に多くの少年達が青年へと変わる時期でもある。
「最初に怒られれば後は好き放題夏休みを堪能しろ。酒、たばこ、放火、ナンパ、海、山、空、旅、海外、旅行。やれることは無限にある。ただし、先生を呼ぶ事態にはなるなよー。そんな奴は二学期の数学は問答無用で1にするからなー」
やれる事の中に変なのが混ざっていたが、しれっと担任は続けた。
「バレなきゃならなんでもやれ。思い出かトラウマになるくらいな。後、ヤる事はやっても良いが避妊はしろよ、お前ら」
先生、ヤらせてください! と言う既に夏休みのテンションになってる男子が冗談混じりに言うと、ウチの弁護士の旦那に会わせてやろうか? と言う返しに男子は、お前スタートダッシュ決め過ぎだろ、と大笑いし女子は、サイテー、と声を上げた。
「まぁ、なんだ。人生で一度きりだ。外が苦手な奴も、少し勇気を出していつもと違うことをしてみろ。社会人になったら夏休みなんて無ぇからな」
そして、担任は一度両手を叩く。
「よし、これで夏休みだ。委員長、号令!」
チャイムがなるまで少し早いが、一学期は終業となった。
リンカとヒカリは図書館で宿題の読書感想文用の本を見繕っていた。
「今時、読書感想文って……リンはどう思う?」
「写経よりは楽でいいじゃん」
国語担当の寺生まれのT先生は写経を夏休みの宿題にするつもりだったようだが、クラス全員からの大反発に読書感想文へと変わったのだった。
ちなみに毎年全学年から同じ苦情が出る。
「それとも写経がしたかった?」
「あれって拷問よね。見てるだけで窮屈な気分になるわ」
T先生の授業で赤点を取った生徒は、回避の代わりに写経を言い渡される。
ちなみに素行が悪かったり、反省室に入れられる生徒に対する罰としても使われているとか。
反省文書かせてください! と懇願されるレベルでキツイと聞いた。
「素行の悪い生徒は夏休みに何人かT先生の実家に連行されるようだし。真人間になるでしょ、あれ」
写経一つとっても欲の多い高校生には拷問である。それに近い事を四六時中やらされる寺暮らしは心の欲を全部洗い流されるのだろう。
「リンも~ケン兄とあんまりハメ外したらT先生の実家送りになるかもよ~」
「……その前にあっちが逮捕されるかも」
何にせよ、ケンゴの会社はそう言う事に特に目を光らせている。
「箕輪さんだっけ? パパが言うには弁護士界隈でも相当なやり手らしいよ」
「そうなんだ?」
逆に犯罪を犯しそうな見た目だと、一瞬失礼な事を考えてしまった。
と、少し高い棚の本を取ろうと手を伸ばす。微妙に取れるか取れないかの高さに苦戦してると、
「こいつか?」
横からソレを取る手が現れた。
「――大宮司先輩」
それは体格の良い三年の男子生徒だった。
大宮司亮。高校生にしては殺伐とした雰囲気を纏い、少し痛んでいる制服が目を引く。
「鮫島……髪、切ったんだな」
「は、はい。本……ありがとうございます」
「リン、リン! ほら行くよ!」
ヒカリが逃げるように手を引く。失礼な様だが、大宮司に関してだけは例外中の例外なのだ。
「あ、先輩。ありがとうございます」
それでも最低限のお礼を言ってリンカは引っ張られていく。
その去っていく彼女を見て大宮司は、
「……タイミングが悪かったか」
と、後頭部を掻き、読書感想文用の本を見繕う。
「びっくりしたー。急に来るよね」
図書館を出て教室に戻りながらヒカリは大宮司との遭遇を思い返す。
「先輩、謹慎明けたんだ」
「みたいね。丁度良く夏休みで良かったじゃない。T先生の寺行きよ、多分」
大宮司は2ヶ月ほど前に、警察沙汰になる事件を犯して今まで謹慎していたのだ。
それは、チンピラ10人、暴走族の1グループ、暴力団の一部を病院送りにする程の暴力。当然、学校で話題になった。
それまでは寡黙ながらも礼儀正しいと評判だっただけに、何故? と言う声が多かった。しかし当人は、これが俺です、と特に言い訳をすること無く謹慎を受け入れたのだった。
「とにかく、T先生の実家で心も体も坊主にして貰わないと、安心して学校生活が送れないわ」
「……ヒカリ」
「なに?」
リンカは大宮司に口止めされていたが、親友にだけは真実を教えることにした。
「それでも、暴力は暴力でしょ。他に方法もあったハズよ」
一通りの話を聞いてもヒカリの大宮司に対する評価は変わらなかった。
「リンの事はわたしのパパに頼っても良かったし、まぁ運が悪いと言うか……不器用な男の末路ね」
「……あたし達が特殊なのかも」
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