懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第5話 夏祭り(室内)

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「うぉぉ!? やべぇ!! 死ぬ死ぬ!!」
「うっさい」

 二画面で某ゾンビゲームのストーリーモードをやっているケンゴとリンカの温度差はかなり違っていた。

「弾切れた!? ハンドガンしかねぇ!!」
「そこの棚に弾入ってる」
「マジか! よし、リロード――ぐあ!? 捕まった!」
「ボスに近づきすぎ」

 救助コマンドでケンゴのキャラをリンカは助けると、効率よく敵を殲滅して行く。
 そしてステージをクリアーし、評価が画面に表示された。

「……リンカちゃんは命中90越え。これが若さによる反射神経か」
「無駄撃ちし過ぎ」
「いや焦るって。難易度MAXだし。敵硬いし」
「頭に当てるだけだろ」
「そう簡単に行かないって」

 夏祭りの会場が外からオレの部屋に移ってリンカが不貞腐れるかと思ったが、ツンツンしながらも楽しんでいるようでよかった。

「そう言えば最近はどう? 学校は楽しい?」

 次のステージが始まる間、氷を入れた麦茶を渡しながら、それとなく今の生活に関して不便は無いかを尋ねた。

「なに? なんか狙ってるの?」
「いやいやいや! 昔補正だから! 昔補正!」

 自分で言ってて意味不明だと思っているとリンカは、あっそ、と追及はしなかった。
 迂闊な事は言えんな、と少し沈黙が続く。

「そっちは……どうだった?」

 リンカから話を振ってくれて、少しだけ口が走る。

「なんて言うか映画の街に入った感じ。ス〇イダーマンの映画とかの街がまんまだよ」
「ふーん」
「人類皆兄弟みたいな? 良いヤツばっかりでな。向こうを発つ時は全員、泣いてハグしてくれたよ」
「……残ろうとは思わなかったの?」
「そんな考えは全くなかったな。なんつーか、やっぱり血なんだと思う。日本食に日本の祭り。日本の環境が一番合ってるって自覚できた三年間だった」

 無論、アメリカでの生活も悪いものでは無かった。むしろ楽しかった部類になるだろう。しかし、自分が骨を埋めるなら日本以外は考えられないと言う結論を出せた三年間でもあった。

「それに会社がこの部屋もとっててくれたしな。帰って来なきゃ申し訳がねぇわ」
「――あっそ」

 相変わらず素っ気ないリンカの返事であったが、少しだけ嬉しそうな様を感じた。





 ストーリーモードをぶっ通しで全キャラやると相当な時間になり、リンカの動きも鈍くなってきた。
 日付は既に変わり、昼夜が逆転しそうなレベルまで夜更かししていた。

「――――」

 リンカのキャラが一瞬棒立ちした瞬間に中ボスに食い殺された。眠気に意識を持っていかれた事によるミスは、そろそろお開きにするべきだと判断する。

「そろそろ解散にするか」
「……まだやる」
「止めとけって。セナさんから許可は貰ってるけど、限度があるぞ」

 セナさんはリンカの母親である。一昨日から出張に行っており、今日の事を電話で話をしたがまだ顔は合わせていない。

「また、いつでも遊べるんだから今回はこんくらいで――」

 そんな事を話していると、いつの間にかリンカはコントローラーを握ったまま寄りかかる様に眠っていた。ロード時間の静寂で限界が来たようだ。

「やれやれ」

 変わらない寝顔に微笑ましく思いつつも、少し揺さぶって起こす。

「おーい、自分家で寝ろよ」
「……めんどい」

 リンカは少し不機嫌そうにそのまま仰向けに倒れると、光を遮るように肘で目を覆う。

「三メートルも離れてないだろ。壁越しに至っては一メートル圏内!」
「……なに? 〇コるの?」
「オレも寝るの!」
「じゃあ……別にいいじゃん」
「いいじゃんって……あのな――」

 そんな事を言っていると、リンカはそのまま動きを止めた。
 昔も、帰るのやだー、と駄々をこねた事も何回かあったが、やり方が違うだけで治ってない悪癖のようだ。

「まったく」

 そんな事を言いつつも一つしかない布団を用意して、こっちで寝ろ、と譲ってやった。

「お前、あんまり他のヤツの所でこんなことすんなよ。襲われても文句言えねぇぞ」

 クーラーの温度を設定しつつ、ちゃぶ台に広げたゴミを片付ける。

「――だけだから」
「あん?」
「……寝る。ばか」

 いつの間にか布団に移動し、こちらに背を向けて横になるリンカ。
 その様子に嘆息を吐きつつ、ちゃぶ台を端に寄せて寝るスペースを確保する。
 そして電気を消しリンカに背中合わせになる形でオレも横になった。





 真っ暗な部屋の中で、のそりと起き上がる影があった。
 片方は完全に寝息を立てており、起き上がった影は眠っている影の背中を見る。

「……おかえり。おにいちゃん」

 そう言うとそのまま寄り添うように再び目を閉じた。
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