恋の行方

宵闇 月

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驚いた。

本当に。

それ以外の言葉が思い浮かばない程に。

俺はカーデンシア国の第二王子にしてだ。

我が国の北の端の国境付近の森の更に向こう側に魔王領がある。

魔族を率いる魔王の統治する国だ。

随分と昔のことだが、一度だけ我が国に魔王率いる魔族が侵攻してきたことがあり、当時の勇者によって魔王を討伐し阻止したそうだ。

そしてその勇者こそが、現在のガーデンシア王家の始祖であり、当然ながら俺の先祖だ。

と、まあ、そんなことがあって以来、いつまた魔族に侵略されるか分からないということで、北の森に常駐させている監視役の報告と癪気の状態をみて、その可能性を感じた時に再び勇者を選び討伐をすることにしている。

そして今回その勇者に選ばれたのがこの俺だったというわけだ。

選ばれた理由は簡単明瞭。

だ。

初代の英雄の血を誰より色濃くひいているのだ。

仮に魔王討伐の命が出たら嫌でも自分が勇者に選ばれるんだろうなぁと幼い頃からそう思うほどに。

なのでいつが起きても大丈夫なようにひたすら努力した。

万が一の時に王族で先祖返りの俺がハリボテ勇者では大問題だからだ。

そうして勇者になる為の努力はしたが、一切願いはしなかった魔王討伐の命が下ったのが数ヶ月前のことになる。

そしてやっと魔王の前に辿り着いたわけで…

ここで魔王と戦ってやっと終わると思っていたのに…

だから本当に驚いた。

突然の魔王の娘の登場で思い出した自分のに。

とはいえ、前世云々は別にしても、魔王の娘の艶やかな美しい漆黒の髪にルビーのような煌めく真紅の瞳、サキュバスもびっくりではないかと思うほどの素晴らしいスタイルに一瞬で心を奪われて戦意喪失したことにも驚いたが。

そして現在のこの状況に頭を抱えた。

国の命に従ってここで魔王を討ち倒してしまったら、前世の愛する人の、今世では一目惚れの相手の親を殺すことになるからだ。

そんなことをした日にはいくら前世のいろいろがあっても絶対に彼女に愛されることはない。

しかも討伐にきておいてなんだが、実際に見た魔族たちは国で聞いた話とは違い、人間側に侵攻してきそうには思えないのだ。

それどころか意識すらしてないように感じることも少なくない。

もちろん油断させようとしている可能性もあるからとりあえず目の前の敵は討ち取ってきたが。

だけどこれ以上の遂行は駄目だ。

いや、今まで討伐してきた魔族のことを考えたら既に遅いのかもしれないが。

でも諦められないし、諦めたくない。

前世も今世も愛した人なのだ。

前世ごと愛しいと思える人だ。

俺は即座に剣を投げ捨てて、魔王に向かって跪き

「魔王…いや…お義父さん!!

国の命とはいえこのように魔王領を荒らして申し訳ありません!!

この償いは一生をかけて必ずします!!

なので、娘さんを俺にください!!」

と言って頭を垂れた。

今世では何が何でも彼女を自分のものにすると決意したのだ。

それが仮に国を裏切ることになったとしても、だ。

こうして僕は勇者を放棄し、今度こそ彼女と幸せになる人生を歩むことにしたのであった。
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