恋の行方

宵闇 月

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それは本当に突然のことだった。

私が部屋で呑気に昼寝をしていると、城の中が何やら騒がしくなったので、何事かとお父様である魔王の元に向かった時のこと。

私はお父様のいる部屋に向かう途中、いつもなら必ずいるはずの護衛がいないことに違和感を覚え、何か大変なことが起きていると確信し、いつでも魔法を発動できるようにして、足速にお父様の元に向かっていた。

そしてお父様のいる部屋に行く途中途中の状況の悲惨さですぐに気付いた。

ーーだ!!

私たち魔族は現在人間との関わりを一切持っていない。

領土の周りに張り巡らされた結界と魔王であるお父様の命令もあり、人間の領土に近付くことすらないのだ。

それはその昔、当時の愚かな魔王が人間の領土を侵略しようとして勇者に討ち取られたことが原因である。

その時の被害の大きさは計り知れず、以来ずっとそうしている。

古より魔族と人間は暗黙の了解で不可侵だった。

が、それを破り、甚大な被害を出した上に魔王自身が討ち取られたその事件は、未だ現在進行形でを残したまま終わっていない。

そのが勇者による『』だ。

件の事件があったのはもう何百年も前のこと…いや、千年以上前かもしれない。

にもかかわらず、人間はその時のことをどう思っているのか、何を理由にしてかは不明だが、未だ定期的にといって、現在では人間と一切関わりも持たない魔王領にこうしてを送り込んでくる。

確かに当時は魔族に非があるが、以降はどちらかというとでしかない。

しかもそれに対抗して戦うと何故か余計に魔族のイメージが悪くなる。

本当に最悪だ。

だって襲われたり侵略されかければどんな種族の生き物でも防衛するでしょ!!

なのに魔族というだけで、過去の一件があるだけで…これを最悪といわずして何という?

人間は一体どんな大義名分でこうやって勇者を送り込み魔王領を荒らすのだろうか?

とにかく私には一切理解できないし到底許せないことだ。

せめてお父様の代では平和にと願っていたのに!!

ーーお父様っ!!

私はとにかく一心不乱に走ってお父様の元に向かい勢いよく部屋の扉を開けた。

すると思った通り、やはりそこには勇者がいた。

勇者は漆黒の髪色に真紅の瞳の私とは対照的な輝くような白銀の髪にサファイアを思わせるような美しい青の瞳をした、中性的でスッとした体型の美丈夫だった。

とても剣と魔法を駆使して魔王討伐をするような猛者には見えない。

思わずその美しい容姿に目を奪われたその時ーー

脳内を何かが走馬灯のように駆け巡った。

それは遥か昔に愛する人と幸せに過ごした記憶。

だが結ばれることを許されず苦しみに苦しんで、最後、生まれ変わって結ばれようと約束をし、二人で毒を煽って心中した記憶だった。

そしてその愛しく、命をかけて愛した彼が、私たち魔族を傷付け、今まさに私の目の前で、私の大事なお父様を討とうとしている人物。

ーーだった。
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