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番外編
公爵令嬢と王太子殿下の初夜のお話
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「……ねぇ、マリー、この夜着、少し薄過ぎないかしら?」
アリシアはどこか不服そうに自分の薄い夜着を見ながらマリーに聞いた。
現在、湯浴みを終え、侍女たちに磨きに磨き上げられたその素肌に纏っているのは薄過ぎると言っても過言ではない程の薄布でできた白い夜着だった。
ショーツのクラッチ部分は多少厚みがあるものの、胸はレースの模様でかろうじて先端が隠れる程度のものだ。
また前見頃は胸の辺りをリボンで結ぶだけなので、少し動いただけで胸から下の素肌が丸見えである。
そしてその丈の長さも太腿までしかなく、上着同様に両側をリボンで結ぶだけの頼りないショーツも少し動けばチラリと見えてしまう。
そんな仕様の夜着は確かに初々しい夫婦の初夜にはうってつけのものではあるが、日頃足を出すことが一切ないご令嬢には少し…いや、かなり勇気がいる一着であった。
アリシアはガウンでそれを隠しつつ羞恥で真っ赤になった顔を引き攣らせて公爵家から一緒に来てくれた自分の専属侍女を縋るように見ていた。
「なにを仰います!初夜にそのくらいは当たり前、常識でございます!今夜は絶対に殿下のお手付きになっていただかなければならないのですよ?あのヘタレ……コホンッ……殿下がその気になるようにしておかなくてどうしますかっ!諦めてください!」
結婚前の夫婦のことを思い出して、思わず一瞬不敬な言葉を繰り出しそうになりつつ、大事な大事なお嬢様に胸を張ってそう進言したマリーは「それではご武運を」という新婚初夜には似つかわしくない言葉を残して早々に部屋を辞した。
アリシアは仕方なくガウンの前をギュッと握り一人夫婦の寝室に入ると、ベッドの上には花が散っていて、サイドテーブルには青い薔薇が飾ってあった。
そしてセンターテーブルにはお酒と果実水と軽食が用意されていた。
ーーそういえば今日は浴槽にも花が浮かべてあったわね…初夜の決まりごとか何かかしら?
真面目なアリシアはそれが初夜の雰囲気を盛り上げる為のものだとも思わずにその演出に首を傾げてソファに座りオルフェウスを待つことにした。
しばらくしてアリシアの緊張が限界に達しかけた頃、漸くオルフェウスが寝室に入っくる音が聞こえる。
アリシアはドアが開く音にガウンを更にギュウッと握りしめ、俯いた顔を上げてぎこちない笑顔でオルフェウスを迎えた。
が、そんなアリシアよりもオルフェウスの方が緊張しているようで、右手右足、左手左足を同時に出しながら入ってきたので何故だかホッとして思わず笑みが溢れた。
「ま、ま、ま、ま、待たせたな」
オルフェウスはガウン姿のアリシアに噛み噛みでそう言ってその隣に座る。
一応表情は取り繕ってはいるが、心臓はバックバクで今にも破裂しそうだ。
だけど男たるもの余裕を見せなければならない時がある。
オルフェウスは言葉が噛み噛みなことも手足が同時に出ていたことも気付かない振りで余裕を演出する為にゆっくりと足を組んだ。
そしてアリシアに「少し飲むか?」と聞いて甘いお酒を渡し、自分も緊張をほぐす為に少し強めのお酒を選んで口に含んだ。
そして、
「アリシア、サイドテーブルにある青い薔薇に気付いたか?あれは私自らがこの日の為に育てた薔薇で花言葉は《夢が叶う》だ。私はアリシアを一目見た時から今日この日を、いや、アリシアと永遠に一緒になれることを夢見ていたんだ。だからアリシア…」
そう告げて決まったとばかりにアリシアの唇に口付けを落とし抱き上げた。
そしてそっとベッドに横たえ「愛してる」と囁き、先程より深い口付けを交わす。
潤んだアリシアの瞳が美しく、キスに濡れた唇は扇情的で、今までの余裕の演出はどこえやら、オルフェウスは堪らずアリシアのガウンを脱がせ、その首筋に唇を寄せる…
……はずだった。
が、ガウンを取り払ったアリシアのあまりの破壊力に、オルフェウスが思い切り鼻血を吹き出して二人の初夜は終わってしまった。
その後、慌てたアリシアによって呼ばれた侍女や護衛騎士に改めてヘタレ認定されたオルフェウスが、国王夫妻を始めとする近い人に残念なものを見るような目で見られたのはいうまでもない。
そしてこの日以降、アリシアが薄い布の魅惑的な夜着を着ることは一切なくなったのである。
アリシアはどこか不服そうに自分の薄い夜着を見ながらマリーに聞いた。
現在、湯浴みを終え、侍女たちに磨きに磨き上げられたその素肌に纏っているのは薄過ぎると言っても過言ではない程の薄布でできた白い夜着だった。
ショーツのクラッチ部分は多少厚みがあるものの、胸はレースの模様でかろうじて先端が隠れる程度のものだ。
また前見頃は胸の辺りをリボンで結ぶだけなので、少し動いただけで胸から下の素肌が丸見えである。
そしてその丈の長さも太腿までしかなく、上着同様に両側をリボンで結ぶだけの頼りないショーツも少し動けばチラリと見えてしまう。
そんな仕様の夜着は確かに初々しい夫婦の初夜にはうってつけのものではあるが、日頃足を出すことが一切ないご令嬢には少し…いや、かなり勇気がいる一着であった。
アリシアはガウンでそれを隠しつつ羞恥で真っ赤になった顔を引き攣らせて公爵家から一緒に来てくれた自分の専属侍女を縋るように見ていた。
「なにを仰います!初夜にそのくらいは当たり前、常識でございます!今夜は絶対に殿下のお手付きになっていただかなければならないのですよ?あのヘタレ……コホンッ……殿下がその気になるようにしておかなくてどうしますかっ!諦めてください!」
結婚前の夫婦のことを思い出して、思わず一瞬不敬な言葉を繰り出しそうになりつつ、大事な大事なお嬢様に胸を張ってそう進言したマリーは「それではご武運を」という新婚初夜には似つかわしくない言葉を残して早々に部屋を辞した。
アリシアは仕方なくガウンの前をギュッと握り一人夫婦の寝室に入ると、ベッドの上には花が散っていて、サイドテーブルには青い薔薇が飾ってあった。
そしてセンターテーブルにはお酒と果実水と軽食が用意されていた。
ーーそういえば今日は浴槽にも花が浮かべてあったわね…初夜の決まりごとか何かかしら?
真面目なアリシアはそれが初夜の雰囲気を盛り上げる為のものだとも思わずにその演出に首を傾げてソファに座りオルフェウスを待つことにした。
しばらくしてアリシアの緊張が限界に達しかけた頃、漸くオルフェウスが寝室に入っくる音が聞こえる。
アリシアはドアが開く音にガウンを更にギュウッと握りしめ、俯いた顔を上げてぎこちない笑顔でオルフェウスを迎えた。
が、そんなアリシアよりもオルフェウスの方が緊張しているようで、右手右足、左手左足を同時に出しながら入ってきたので何故だかホッとして思わず笑みが溢れた。
「ま、ま、ま、ま、待たせたな」
オルフェウスはガウン姿のアリシアに噛み噛みでそう言ってその隣に座る。
一応表情は取り繕ってはいるが、心臓はバックバクで今にも破裂しそうだ。
だけど男たるもの余裕を見せなければならない時がある。
オルフェウスは言葉が噛み噛みなことも手足が同時に出ていたことも気付かない振りで余裕を演出する為にゆっくりと足を組んだ。
そしてアリシアに「少し飲むか?」と聞いて甘いお酒を渡し、自分も緊張をほぐす為に少し強めのお酒を選んで口に含んだ。
そして、
「アリシア、サイドテーブルにある青い薔薇に気付いたか?あれは私自らがこの日の為に育てた薔薇で花言葉は《夢が叶う》だ。私はアリシアを一目見た時から今日この日を、いや、アリシアと永遠に一緒になれることを夢見ていたんだ。だからアリシア…」
そう告げて決まったとばかりにアリシアの唇に口付けを落とし抱き上げた。
そしてそっとベッドに横たえ「愛してる」と囁き、先程より深い口付けを交わす。
潤んだアリシアの瞳が美しく、キスに濡れた唇は扇情的で、今までの余裕の演出はどこえやら、オルフェウスは堪らずアリシアのガウンを脱がせ、その首筋に唇を寄せる…
……はずだった。
が、ガウンを取り払ったアリシアのあまりの破壊力に、オルフェウスが思い切り鼻血を吹き出して二人の初夜は終わってしまった。
その後、慌てたアリシアによって呼ばれた侍女や護衛騎士に改めてヘタレ認定されたオルフェウスが、国王夫妻を始めとする近い人に残念なものを見るような目で見られたのはいうまでもない。
そしてこの日以降、アリシアが薄い布の魅惑的な夜着を着ることは一切なくなったのである。
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