公爵令嬢の婚約解消宣言

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完全なる意思疎通ができているわけではないが、暫定的にお互いの気持ちを知り苦悶の表情を浮かべている主役二人と、周囲の視線に葛藤困惑する娘の父親、否、この騒動の元凶を知る宰相。

この妙なともいえる膠着状態はある人物の登場で解決することとなった。

それは主役の父王ではなく、噂の渦中のもう一人の人物、リリー・サリバン伯爵令嬢である。

リリーは自分の存在がもたらしている噂が一国の王太子の婚約解消に繋がったことを知り、慌ててその誤解を解く為にフェンデル公爵家の門を叩いたのだ。

確かに学園ではオルフェウスとリリーのあれやこれやの噂はあるが、それは単に貴族特有の噂好きなる性質がもたらした結果であり、当の本人たちには恋愛感情など一切ない。

単に兄王子が元平民の妹姫を守り教え気遣い、また貴族社会に慣れていない妹姫がそんな兄王子に甘えた結果として噂がたっただけのこと。

それでも落ち着いて考えれば元平民とはいえ、アリシアが傷つくことくらいはリリーにも理解できた。

だけど、リリーも平民から貴族、いや、王族というとんでもない状況にいっぱいいっぱいだったのだ。

物語では平民から王族になることは、ある種のシンデレラストーリーだが、現実はそんな綺麗な物語でなない。

今までの自由は無くなり、貴族令嬢が幼少の頃から少しずつ学んでいくことをいきなり詰め込まれ、少しの失敗ですぐに周囲の人間に侮られ元平民だと馬鹿にし蔑まれる。

そんな中、貴族至上主義の学園で元平民のリリーが頼れたのは事情を知る兄王子だけで、リリーもリリーで苦しんでいたのだ。

そんな中のこの騒動。

リリーは元平民なので政略結婚の詳しいことは分からないが、兄王子が婚約者を溺愛していることだけは少ない関わりの中でもすぐに理解できていた。

だからまさか主役二人が長い婚約期間の間、一度もお互いに気持ちを伝えたことがないなどと思うはずもなく、完全に自分と父王だけの問題だと誤認したのだ。

リリーは主役二人の婚約解消の話を聞いて、というより、そのことで周囲の生徒に責められ、事の重大さに全身から血が引くかのように真っ青になった。

とにかく早くどうにかしなければと、半ば無理矢理に父王に謁見し、逃げ腰になりそうな自分を叱咤しつつ、ここ、フェンデル公爵家にやって来たのだ。

確かに慣れない貴族の中で、虐めにも似た環境に、つい事情を知る兄王子に甘えてしまったが、兄王子と婚約者の仲を壊したいなど微塵も思っていなかった為、この騒動はリリーにとっても大問題となった。

元平民のリリーは、保身や逃避が大半の貴族社会の中で、自分の間違いに対してきちんと責任が取れる立派なご令嬢だった。